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第21話

 桟橋に船はいなかった


 予定時刻を過ぎても


 来る気配すらなくて


 そんなこともあるだろうと


 根拠がないまま納得する




 乗車予定の人だろうか


 それにしてはずいぶん遅くに


 いや


 次の船を待つのかもしれない



 こんにちは


 と こちらから


 アイサツするのは


 おれなりの防犯対策



 アイサツだけで終わればいいし


 他愛のない会話が続いてもいい



 ぺこりと首を下げられたような


 それでおしまい


 それでいい




 船を待つ


 風を聴く


 沖を貨物船がすーっと


 進路希望だっけ


 来週の月曜日までに提出


 というけれどたぶん


 木曜日には呼び出されて


 「まだなのか」


 と問われるだろう




 誰にも遠慮なく書いたとして


 確認やらで親にも届く


 なにごとかとなれば姉にも知れる


 親の機嫌を損ねれば


 責められるのは


 おれじゃない



 「お父さんな、おかしいと思ってたんだ、


  だいたいあいつとつきあいはじめてからだよ、


  おまえすこし、へんになった」


 「おかあさんもね、なんかちがうんじゃないのって思ってたの、


  だいたいあのこは…ちょっとやっぱりちがうんじゃないかな、


  ってだってそうでしょう、付き合う前は」


 「ああ、そうさ、お父さんも気づいてたぞ、


  あいつと付き合い始める前は、おまえ、


  こんな態度はとらなかったし、


  あんな結果は出さなかったし、


  どんなときも素直で優しくイイ子だったじゃないか」



 これは想像 ただの空想 ほんの妄想


 そうなってほしくないけれど


 そうなるだろうなって気がする


 いつもの流れ


 決まった流れ


 けど


 ちょっとづつ流れは変わるもの


 おれがこのあとどういう態度で何を語るかで


 がらりと変わる




 演じるか


 どういう役


 こういう役


 ほら


 リハーサルやるぞ





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