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第16話

 だからびっくりするんだよ

 先客がいたなんてときには


 知らない誰かと思っていたら

 見かけたことのある雰囲気


 目の前に逆光

 少し見上げる角度

 いまにもなにかを弾き返しそうな脚

 とても短いスカートのすそが揺れて

 洞窟の奥が見えるけれど眩しくて影

 さらに見上げた角度

 シルエットの肩

 清潔そうな首すじに

 ていねいにまとめた髪


 まさか


 「よく来るの?」

 と背中越しの質問にとまどいながらも

 「たまにね」

 ぶっきらぼうに答えた


 いくら靴音を響かせて登ってきたとはいえ

 誰かまではわからないだろうに


 全部わかっている空気

 おれが来たこと

 おれが見たもの

 おれがとまどい

 足を止めることも?


 風が吹いた

 いや

 さっきから吹いているんだよ

 それなのにいまこの一瞬

 まるで初めての風に感じた





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