だからびっくりするんだよ
先客がいたなんてときには
知らない誰かと思っていたら
見かけたことのある雰囲気
目の前に逆光
少し見上げる角度
いまにもなにかを弾き返しそうな脚
とても短いスカートのすそが揺れて
洞窟の奥が見えるけれど眩しくて影
さらに見上げた角度
シルエットの肩
清潔そうな首すじに
ていねいにまとめた髪
まさか
「よく来るの?」
と背中越しの質問にとまどいながらも
「たまにね」
ぶっきらぼうに答えた
いくら靴音を響かせて登ってきたとはいえ
誰かまではわからないだろうに
全部わかっている空気
おれが来たこと
おれが見たもの
おれがとまどい
足を止めることも?
風が吹いた
いや
さっきから吹いているんだよ
それなのにいまこの一瞬
まるで初めての風に感じた