目次
ブックマーク
応援する
6
コメント
シェア
通報

第368話 日光ダンジョンを観光します

「あいちゃん、だからダンジョンで猫を被るのは無理だって……そんな殺意の高い格好でさ」

「殺意高いって言うなし! 彩ちゃんみたいじゃん!」


 私の一言にあいちゃんは猫すっ飛ばしてぷんすこしてるけど、長袖で親指を出す穴が付いたサムホールのくすみブルー膝上チュニックと、グレーのレギンスで構成されてる防具は、「今にも蹴りが飛んできそう」なんだよね。

 袖のずり上がりとかを防いでる辺りがさすがって感じ。伸縮性のいい生地だから結構体のラインが出てるし、ウエストに可愛いベルトしててそこにエンジニアのツールバッグを下げてるし。


「私の防具はあんなにコテコテの装飾を付けたがった癖に、自分の防具はシンプルなんだよね」

「ゆーちゃんの服はひらひらしてなんぼなの! 能力的にもそれを着て問題なく動けるしね」

「あ、あいっちボクと考え方が近いかも。ゆ~かっちの可愛い格好はウェルカムカモン、エブリデイ別腹!」


 あ、もしかして藪蛇だったかな!? 確かに私は今の防具で何も不自由はないんだけど、「じゃあもっとフリフリ要素増やそう」と思われるのはお断りだ。


 女子3人がじりじりと心理戦を繰り広げている間に、日光ダンジョンについてのコメントがぞろぞろと流れていった。私たち世代だとそんなに有名じゃないことだけど、上の世代では割と有名らしいからね。


『日光ダンジョンかー。風光明媚だから一時期ダン配流行ったよな』

『はやったはやった』

『麒麟が出るとわかるまではな』

『アレで一気に過疎ったっけな』

『キリンが出るの?』

『麒麟だよ』


 日光ダンジョンは日光の明智平にあって、なかなか近隣の人以外は行きにくい。でも「観光ついでに」と思うと立地としてはいいんだよね。

 しかもコメントにあった通り、中の景色が綺麗なことで有名なんだ。上層は森林エリアで、中層に滝がある岩山エリアがあるんだって。ダンジョン内に滝があるところは凄く珍しい! その上マナ溜まりもあるから初期の頃は「映える」って上級に行ける配信冒険者が殺到したそうな。


 それなのに、現在はどっちかというと不人気ダンジョンだ。理由はコメントでも言われてた「麒麟」。

 レア湧きな上、ドラゴン四天王に匹敵するかそれ以上に強すぎて、「麒麟への攻撃は死亡フラグ」と言われてる。

 だったら攻撃しなきゃいいじゃないって話だけど、麒麟は中国のダンジョンで倒されたときに額に生えてた角がドロップで確認されて、買取額が億単位な上にクラフト素材として使うとHPとMPの常時回復効果があるっていうので大騒ぎになったんだって。


 ……確か、名君が現れた時に現れる瑞獣じゃなかったっけ? 東照宮にもあったよね。

 神話伝説にでてる以上ダンジョンでモンスターとして出現しちゃうのは仕方ないかもしれないけど、「争いを好まない」のに恐ろしく強かったり倒したらいいものが出ちゃうのは本末転倒では?


「そう思うのは当たり前なんだけど、簡単に行かないのが現実ってもんなのよ」


 日光ダンジョンに行くことが決まったとき、ママに麒麟について聞いてみたら腕組みしたまま遠い目で語りが始まった。

 長かったのでざっと要約すると、麒麟は周囲のモンスターへの攻撃も自分への攻撃とみなしてしまうから、麒麟を攻撃する気なかったのに当たり判定が大きすぎてアウトー! らしい。


 あわよくば、って邪念にも反応するっていう説があるほどその当たり判定は大きく、無傷で済ませたいなら見た瞬間ダッシュで逃げるしかないというほど。麒麟の「ゾーン」に害意を持ったまま踏み込んでしまったら、雷が雨あられと降り注ぎ、地面は陥没し……とにかくエラい目に遭うそうな。


 この話をしたら全員が「あの果穂さんが恐れてる?」ってドン引きしたから、私たちなら勝てるだろうけどもし出会っても絶対攻撃はしないでおこうねって既に決めている。


 というか、そんな当たり判定のでっかいモンスターに遭遇したら、どうやって切り抜ければいいか想像が付かない。インフィニティバリア張りっぱなしで通り過ぎるしかないかな……。


「じゃあ、そろそろ攻略開始します。2層からは森林エリアだね。正直アルミラージとアルラウネは怖いけど、上層ならなんとかなるかな」


 念のため私が不滅の指輪、彩花ちゃんが魅了無効の指輪をしてる。あいちゃんもある意味危険だけど、前に出ないならなんとかなるはず。


「あれ、このダンジョン、天井が高い!」


 2層に降りた私たちは、いつもと違うダンジョンに驚いてしまった。上級ダンジョンだからいろんなギミックが仕込まれててもおかしくないんだけど、「天井高い」はどんな影響があるんだろうなあ。


 パッと見てわかるのは、年代物に見える杉の木がどーんと天高く生えているってことなんだけど。でもこれも本物かというと、持ち出せないから厳密には幻覚の一種かもしれない。触れて殴れて切り倒せる幻覚ね。


「目標は最下層だから、ショートカットで行きます」


 事前に予告して蓮がロータスロッドを構えた。そして、たった今降りてきた階段から、真正面に杖を向けて気合いと魔力が凄く籠もった魔法を撃った。


「ウィンドカッター!」


 不可視の風の刃が、木々を一瞬にして切り倒していく。

 他のエリアだとできないけど、森林エリアの場合部屋の壁も全て木でできてるから、こうやって「全部ぶち抜いてショートカットを作る」ことができるんだよね。


『……力を持て余した神々の遊びじゃあ』

『おまえら何しに来たの』

『モンスターと戦う気ある?』


 敵が出ない道を作って早々に3層に降りた私たちにコメントは苦笑が半分、「もっと暴れろよ」が半分だね。


「上層は敢えて戦う意味があんまりないっていうかー」

「そうそう、今回の私たちのテーマは『日光ダンジョンの観光』です。だからまずは11層を目指します」


『まあいいさー。安心してみてられるダン配は貴重だ』


 私たちが強力な魔法で木々を薙ぎ倒したもんだから、アルミラージがビクビクしながら木の陰でこちらを伺ってるよ。よーしよし、このままおとなしくててよ。幻影とかつかわないでよ。


「あ、そうだ、ヤマト、威圧してみて」

「ワォーーーーン!」


 今まで使ったことのなかった威圧を使ってみたら、ヤマトの遠吠えひとつで周囲からモンスターの気配が消えた。凄い勢いで逃げて行ったんだろうな。

 麒麟もこの手で避けられないかな? 威圧すら攻撃判定と取られたらどうしようって心配はあるけど!


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?