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第365話 株式会社NeNe工房・2

 寧々ちゃんは会社始めてから、お父さんが作ってくれたヴェークスそっくりの防具も「バレたらまずい」ってことで材料変換して新デザインで作り直したそうな。


 そして、経営会議(?)はもちろん休み時間で終わることなく、何故かその日のHRで取り上げられた。


「でもNeNe工房の話って俺たち関係なくない?」

「クラフトの人間だけで考えてて解決しなかったから、普段こういう話に関係ない戦闘の人たちのアイディアも欲しいんだよ」


 室伏くんが言うことはぐう正論なんだけど、ビシッとそれに柴田さんが言い返した。こっちも正論だ!

 結局、「NeNe工房」っていうのは法月寧々というひとりの興した会社ではあるけども、北峰高校冒険者科――特にうちのクラスでは影響が凄い。クラフトは全員関わってるし、戦闘専攻も素材アイテムの買い取りとか学割で関係してるから。


 そう、NeNe工房にはなんと学割があるのだ。今までクラフトの世界に学割なんてなかったんだけど、そもそも作ってる人も学生だしね。

 学割をちらつかせられたら戦闘専攻も「関係ない」と言い切ることができなくなって、みんなで頭を悩ませ始めた。


「デザイン料を別に取るのは?」

「武器防具はもらってないのに、なんでアクセサリーだけってなっちゃうよ」

「武器防具もデザイン料取ればいいじゃん? むしろ今どうしてんの?」


 誰かがぽつりと言ったことで、クラフトの人たちは顔を見合わせ始めた。おおっ、これって実は根源的な問題かも!?


「今までは、武器防具のデザインも含めてそのクラフトマンの腕って見られてたよね」

「うんうん、だから適正武器が見られるクラフトマンに需要があるのはもちろんだけど、格好いいデザインができる人も人気があるよ」


 そうかー! 私たちの時は武器のデザインとか何も気にしてなかったけど、防具は確かにあいちゃんにデザインしてもらったし。

 防具にいろんなスポーツメーカーが参入してるのも、デザイナーとコラボしたりしてるのも、やっぱりデザイン性が大事なんだよね。


「じゃあ、デザインだけ外部から募集するのも有りなんじゃないかな?」

「聖弥くんいいこと言った! コンペやるのもいいんじゃない? NeNe工房の宣伝にもなるし」

「そうだね……デザインを今は依頼主の自由にしてるけど、ある程度の数のデザインをこっちで用意しておくっていうのはいいかも」


 聖弥くんの発言にあいちゃんが立ち上がり、寧々ちゃんは真面目に考え込んでいる。なるほどねえ、先にデザインを用意しちゃうのか。伝説金属から作るクラフトの場合、「1に性能、2にデザイン」になるからそれもいいのかもしれないな。


「それ以外で例えば平原愛莉デザインにしたいとかの要望が有るならNeNe工房を経由しないで直接依頼すればいいんだし、外部からのデザイン持ち込みにしたいならそれは別料金にすればいいってこと?」

「現実的に考えるとそうなるよねー。デザインできる人間が強いってことになるけど」

「それはもちろん、付加価値を付けたいならそれなりにいろんな勉強はすべきだよ」


 クラスの中でクラフト専攻と戦闘専攻問わずいろんな意見が上がってきた。大泉先生は椅子に座ってそれをうんうんと頷きながら眺めている。

 よし、ここはひとつ、私も力を貸そうかな! アイディアはあんまり出てこなかったからさ。


「はいはいー! じゃあコンペしようよ! 賞金とかどうするのって話はさ、私がドラゴンの鱗を3枚死蔵してるからそれを提供します。オークションに掛けるのもいいし、それを使ったクラフト権利を売るのも有りだし。……今更だけど、蓮と聖弥くんと彩花ちゃんもそれでいい?」

「うわー、また柳川がぶっこんできた!」

「なんだよ、ドラゴンの鱗を死蔵って。死蔵するもんか!?」


 なんか不本意な言われようをした気がするなあ。そして急に名前を出された蓮たちはきょとんとしていた。覚えてないんだね、ドラゴンの鱗のこと。私も割と忘れそうになるんだけど、アイテムバッグを見ると入ってるから思い出すんだわ。


「ドラゴンの鱗……って、なんだっけ」

「あれ? そういえばドラゴンと戦ったよね」


 完全に忘れてる蓮に対し、聖弥くんはギリギリ覚えてたみたいだ。彩花ちゃんはずっと首を傾げてるから、こっちも忘れてるな。


「奥多摩ダンジョンにヤマトを助けに行ったとき、ドラゴンと戦ったじゃん? その時鱗3枚ドロップしたんだよ」


 私が説明すると、3人揃って「あーあーあー、そんなことあった」という顔をしている。あの頃はね、いろいろな出来事が密にありすぎて「ドラゴンの鱗拾いました」はインパクト薄い方だったからね……。


「ええと、ドラゴンの鱗出してもらうだけっていうのも悪いから、コンペ自体を例えばゆ~かチャンネルとかSE-RENチャンネルとかの協賛にしちゃおうか? 全く名前出ないよりは少しは宣伝効果あるかもしれないし」

「さすねね! SE-RENチャンネルの提供ってことでお願いします」


 SE-RENの新曲も控えてるから、私的にはここで少しでも知名度稼いでおきたいな。


「安永と由井はそれでいいの?」

「そういえば聖弥がドラゴンの首落としてたなって今思い出した」

「僕としてはドラゴンと戦った経験の方が重要だから、鱗のことは忘れてたくらいだよ」


 男子の質問に答えてる蓮と聖弥くんも、大分適当だ。……忘れるよね、ドロップ。確かにドラゴンと戦ったってイベントの方が記憶的には重要だもん。


 あの時拾ったドラゴンの鱗は、クラフトの強化素材として扱うことができる。今回はただのドラゴンだから補正を上げるだけだけど、ドラゴン四天王の鱗とかはそれに加えて属性付与とかもできるんだって。


「先生、ドラゴンと戦うにはどうしたらいいですか?」

「場所の話なら情報サイトを見ろとしか言えないし、さすがにドラゴンみたいな上級下層の敵の個別攻略法は授業の範囲外だよ。僕も戦ったことないよ」


 ドラゴンの鱗と聞いて戦闘のクラスメイトも目が爛々としている。それに比べて大泉先生のやる気のなさよ。


 結局、ドラゴンの鱗を使ったクラフト権をNeNe工房でオークションに掛け、コンペの費用に回すことになった。そのコンペがSE-RENチャンネル協賛ってことだね。

 オークションもコンペも、NeNe工房関係者は全力で宣伝。私たちの配信でも言うし、あいちゃんの動画でも告知するし、SNSもフル活用。


 文化祭以来だなあ、こういう空気。デザインもっと勉強しようという人も出てきたし、お金稼いでドラゴンの鱗でクラフトしたいって人もいるし。

 オークションは大人の冒険者の方が圧倒的に有利だけど、ドラゴンが出てくるダンジョンがあったらまた行ってもいいかなとちょっと思ったりした。


 まさか、その漠然とした思いがフラグになってるなんて思わなかったけどね!

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