前に蓮の「I LOVE YOU」のMVを作ったときに、LIMEで滝山先輩と安西先輩の入ったグループを作った。そこで連絡が来たんだけど滝山先輩も安西先輩も無事に芸大に合格したんだって!
滝山先輩は演劇学科、安西先輩は写真学科と学科は違うけど、芸大に現役合格って割と大変みたいだから凄くおめでたい! 話では3浪する人とか当たり前にいるらしくて、ひえええええ、とすくみ上がってしまったよ。
しかも、「通えないこともないけど実習のことも考えるとちょっと遠い」っていう微妙な距離に大学があるから、相談した結果ふたりでルームシェアすることにしたそうだ。
いいなあ、楽しそう!
「滝山先輩! ダンジョン行きませんか? 合格祝いに!」
「合格祝いにダンジョンって……なんでそうなるの」
「前に学費稼ぎたいって言ってたじゃないですか。私が一緒ならヤマトも一緒だし、儲け半分にしてもすっごい稼げますよ」
「なるほどそうかー! あっ、思いついた! 安西さんもダンジョンアプリ入れなよ! 多分普通のバイトするより、私たちの場合ダンジョンに潜った方が効率いいよ!」
「ええっ、私も!?」
LIMEで流れ弾を食らったように安西先輩は驚いていたんだけど、中級ダンジョンでの時給相場を聞いて急に乗り気になったみたい。
大学での授業と、機材とかにかかるお金のためのアルバイトを両立させるのはなかなか大変なんだって。滝山先輩は舞台とかミュージカルとか行きまくるお金が欲しいって言ってるし、安西先輩はこの機会に新しいカメラをと思ってるそうで。
結局、ふたりからメッセージが来た翌日の放課後、私たちは江ノ島ダンジョンの1層にいた。滝山先輩は現役冒険者科だった時に使ってた防具とボウガンを装備してて、安西先輩はには私の手持ちの装備品を色々貸した。
今日はね、お世話になった後輩として、先輩たちにお祝いだよ!
滝山先輩はLV23だっていうし、ステータス上げはあまり関係ない。だから私と滝山先輩でパーティーを組んで、ヤマトとふたりで2層に行ってもらうことにした。ヤマトが戦って、滝山先輩はドロップを拾う係だね。
アプリを入れたばかりでLV1の安西先輩には、補正の付かない装備をさせてなまくらの剣を持たせて、ついでに魔力の指輪もしてもらって、盾を構える私に向かって延々剣を振ってもらった。
安西先輩は一般的な女子と比べて結構力が強いなあ。それを聞いたら「機材と三脚持つと結構重いんだよね」って。なるほどね、これは、いい成長をするかもしれない。
私のLVは86だ。ステータスも高いから、スパーリングの相手としては最適。多分、「ゴーレム師匠とスパーリング」より余程いい結果が出ると思う。
安西先輩がへばったのは10分くらい経ったときだ。なまくらの剣は重いから結構凄い。蓮も最初はこんなに剣を振れなかった。ここで一度ポーションを飲んでもらって、もう一度力尽きるまで剣を振ってもらった。
そこでSTR上げは終わりにして、安西先輩にはお着替えをしてもらう。私のアポイタカラ・セットアップと蓮のロータスロッド、そして聖弥くんのプリトウェンだね。ここまで付けるとRSTが227。私のMAGは224なので理想的にギリギリ低い。
「ダメージ入らないので安心してください。スリープ、スリープ、スリープ……」
補正込みで安西先輩のRSTの方が高いから、私のスリープは効かない。でも「MAG20超えの上級魔法をレジストした」というのは事実。どこまで上がるかわからないけど、私はMPが尽きるまでスリープを唱え続けた。
さて、促成でしかないけど、私がスパーリングしたから聖弥くんよりは余程成長率がいいはず。
今の私と滝山先輩のパーティーに安西先輩を入れて、安西先輩は1層にいてもらって2層に降りる。……わー、前もそうだったけど、ヤマトによってモンスが全滅してーら。滝山先輩はせっせとドロップを拾ってるよ。
安全そうだったので安西先輩にも2層に降りてもらい、私はロータスロッドを持って3層に降りた。
「スパークスフィア!」
上陸してるシーサーペントとカルキノスが4匹くらい固まってるところがあったから、弱点である雷魔法を撃ち込む。私が初めて大山阿夫利ダンジョンで敵を倒したときは、蓮とふたりのパーティーだったからLVの上がりもよかったんだけど。
うーん、3人いるし、あと3体くらい倒しておこうかな。
ドロップを拾いに行くついでにサンドゴーレムとカルキノスを鈍器(ロータスロッド)で叩きのめし、そのドロップも回収。
そして2層に戻ったら、滝山先輩が倒れていた! 何が、何があったの!?
「滝山先輩! どうしたんですか!」
「あ、安西さんのステータスが」
「滝山さんが倒れるほど私のステータスっておかしいの!?」
どうも、安西先輩のステータスを見て倒れたみたいだね……。
ごくりと息を呑みながら安西先輩のステータスを見せてもらったら、LVは22まで上がってた。これは予想以上!
そして、STRは51、MAGは29、RSTは35。うわーお!
「えーっと、今すぐジョブウィザードかジョブヒーラーになれますね。ちょっとうろ覚えですけど、確か体育祭の頃に私がこのくらいのLVで、STRが50だった気がします。このくらいのステータスがあれば、中級ダンジョンで困らないと思いますよ」
「冒険者科の2ヶ月のブートキャンプより、安西さんの促成ブートキャンプの方が効果が高いなんて」
「なんだかよくわからないけど、滝山さんがショックで起き上がれないほど私の成長率がいいことだけはわかった……LVも、ダンジョン潜る前の滝山さんとほとんど変わらないしね」
砂浜に、滝山先輩が「げせぬ」と指で書き込む。いやー、私もちょっと驚きだね!
「いい合格祝いになったんじゃないでしょうか! あ、今日のドロップも全部渡しますね!」
「常識外れの後輩の愛に戸惑いを隠せない私であった……」
なかなか起き上がらない滝山先輩の後ろで、「やったー! ウィザードになろうっと! 遠距離ならしばらく武器いらないもんね」と安西先輩がニコニコでアプリを操作していた。
そのステータスだと颯姫さんみたいな物理と魔法両方の運用もできるし。うん、これならふたりで中級ダンジョンは余裕で潜れそうだし、一安心かな。
新入生がきたら、実技の時にスパーリングしてあげよう。蓮と彩花ちゃんも駆りだせば、短時間でかなりの人数が底上げできるでしょ。RSTとMAGはなかなか難しいけど、蓮や颯姫さんみたいな素質のある人なら放っておいても上がるし、魔力の指輪もある。
その日の儲けは20万を超えていて、安西先輩ですら「ぎゃああああ!」って崩れ落ちてたけど、私は「半分はもらって!?」という先輩たちの申し出に「お祝いですから!」と食い下がった。
だって、ほとんどヤマトが遊びついでみたいに倒したものだからね。私が直接倒したのは金額的にはほんの少しでしかない。
結局、またMVとか撮るときにはふたりに手伝ってもらうということで、無理矢理その場は収まったのだった。めでたしめでたし。