「……気を取り直して、今日は時間制限をして2チームに分かれて勝負をしようと思ってました。予定崩れたけど」
「4人を2チームにする予定だったけど、長谷部さんが入ると大きくバランスが変わるよね」
私の説明に聖弥くんが悩みながら腕を組む。それね。
蓮とバス屋さん、聖弥くんと私というチームに分けようと思ってたんだけど、彩花ちゃんが入るとバランスが崩れまくる。
「はい、質問! どういう勝負するの?」
「制限時間内でどれだけ稼いだかを競うはずだったんだよ」
彩花ちゃんが挙手して質問をしてくる。視聴者さんに説明する予定だったから、それも同時に済ませた感じになっちゃったね。
『上級ダンジョンでやることじゃないよ……』
『LV90超えに何を言っても無駄』
『こいつらには全てアトラクションだ』
コメントに呆れられた。というか、LV90超えに何を言っても無駄というのが的を射ていて、もう私たちが普通に戦ってもダン配は面白くないので、いろいろ制限を付けようという発想の結果なんだよね。
「じゃあ3チームに分ければいいよ。ゆ~かっちはヤマトとふたりで1チーム。ボクはバス屋と一緒で、安永蓮は由井聖弥と組めばいいじゃん」
「どういう風の吹き回しだよ、ゆ~かを自分のチームに引き込まないなんて」
「あぁん? ボクと貴様、どっちのチームにゆ~かっちが入っても、血の雨が降るからだろうが」
「どうどう」
「はい、ふたりは50センチ以上近寄らないようにね」
また睨み合う蓮と彩花ちゃんを、聖弥くんとバス屋さんが宥めて引き剥がす。
確かに、蓮と彩花ちゃんは対立意識が凄いから、分けた方が展開的には面白いかな。同じチームにして足を引っ張らせ合っても、流血沙汰にさえならなければそれはそれで面白いんだけど。
「じゃあ、チーム名は、蓮と聖弥くんがコブラチームで、彩花ちゃんとバス屋さんがマングースチームね! 私とヤマトはワンコチーム!」
『コブラ対マングース対わんこww』
『結局ゆ~かもフリーダム』
コブラとマングースでも龍と虎でもよかったんだけどね。どっちにしろ、彩花ちゃんはマングースであり虎だ。イメージ的に。
「彩花ちゃんとバス屋さんに対抗するにはフリーダムじゃないとやっていけません! じゃあ、20分の制限時間内でどれだけ稼いだかをドロップの売却金額で決めます。えーと、でも、魔法を使える人間が寄ったから……」
「初級魔法縛りでいいよ」
蓮が珍しく自分からハンデを言い出した。確かに、中級からは範囲魔法が入っちゃうから、そこを制限掛けないと圧倒的有利になるんだよね。
「へー、自信満々じゃん?」
「そうしないと、俺と聖弥が有利すぎるからな」
また彩花ちゃんと蓮が睨み合っている。ギスギスしてるけど、このふたりはこれがいつもの状態なんだよね。
「じゃあ、どこで戦うかくじ引きしよう」
聖弥くんがちゃちゃっとスマホを操作してくじ引きサイトを開き、「2層・3層・4層」という結果と、「コブラ・マングース・わんこ」という名前を登録する。
コブラチームは3層、マングースチームは2層、わんこチームは4層という結果になった。
タイマーセットした20分後に1層に戻ってないとアウトというルールにしたんだけど、4層は往復の時間が掛かる代わりにドロップ品の価格がちょびっといいというメリット・デメリットがあるから、差し引きはなくなるね。
「じゃあ、確認するよ。アラームが鳴った時にここに戻ってないチームはアウト。魔法は初級魔法のみ。制限時間は20分」
「ちょっと待った。本当に初級魔法以外を使ってないってどうやって確認するの?」
「おまえ、疑り深いぞ。証拠は映像だ」
蓮が空中に浮いている自分のスマホを彩花ちゃんに示した。
今日の配信はスマホ2台使って、蓮が管理権限を持ってるSE-RENチャンネルと私のゆ~かチャンネルで同時配信だ。元々2チームに分かれるつもりだったし、それぞれのチームを追いかける映像にしたかったから。
でも、この状況になるとコブラチームを映すカメラとマングースチームを映すカメラに分けた方がいいね。絶対文句はそこで出るし。
「3チーム全部撮れればよかったけど、彩花ちゃんたちはライブ配信先がないもんね」
「俺、今度用意しとく? +1チャンネル」
「ライブ配信を3つに分ける機会はもうないかと思いますよ」
バス屋さんがチャンネル開設を提案してくれたけど、聖弥くんの言うとおりY quartet関連で3つめは要らないかな。
「じゃあ、ボクのスマホを追跡モードにして、ゆーーーーーーかっちとヤマトを撮影しておく! 後でそれを渡すから、動画としてアップすればいいじゃん?」
「わー、その手があったかー。で、本音は?」
「ボクのゆ~かっちフォルダにお宝が増えるぜ!」
彩花ちゃんがとてもいい提案をしてくれたけど、ゆずっちと言いかけて不自然に私の呼び名が伸びたね。あと、動機が不純だ。こやつは……この配信を倉橋くんが見てたら、とか思わないのかなあ? その程度なのかなあ。私がモヤるよ。
私がちょっと悩んでいたら、サクサクと聖弥くんが段取りを立てて開始の準備を始めていた。彩花ちゃんもスマホを浮遊追跡モードにして、追跡対象を私に設定してる。
「じゃあ、この僕と蓮を撮影してるスマホのアラームが終了の合図だよ。用意、スタート!」
聖弥くんの号令で、私たちは一斉に駆け出す。コブラチームとワンコチームは下の層で戦うので、2層は突っ切る。この時、できるだけ敵を倒さないのがポイントだよね!
「ラピッドブースト! ヤマト、『自己強化』して先に4層で戦ってて!」
「ワン!」
「くっ、ヤマトを先行させるとは」
2層では彩花ちゃんとバス屋さんが既に戦い始めてるけど、他のチームも走りながらラピッドブーストを掛けている。初級補助魔法は全部のチームが使えるんだよね。
そして、ヤマトは時間制限はあるけどステータスが1.5倍だよ!
『自己強化!?』
『レアスキルでは!?』
『ヤマトをこれ以上強くしてどうするつもりなのー!』
「諸事情あってもらいました! ヤマトのMPが全く何にも使われてないので、もったいないと思ってヤマトに習得してもらいました!」
『活かしてるのか腐らせてるのか、微妙』
それね……。戦力飽和にも程があるからね。
まあ、今回のチーム戦、多分一番やる気が無いのは私だと思われてたんじゃないかな。蓮と彩花ちゃんのライバル心が凄くて、そこがクローズアップされてるから。
でも、私も「負けてもいい」なんて思ってないのだ。
「ヤマト、行っけー! 戦闘は4層に入ってから! それまでは敵は全部無視!」
ヤマトがぶるんと震えると、自己強化を使った白い光に包まれた。それが収束すると凄い早さで走って行く。
前はこんな複雑な命令は無理だったけど、今はやってくれるんだよね! ダンジョンモードのヤマトは神様だから、普通に言葉が通じるんだ。