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第356話 小さな問題と、更に大きな問題

 盛り上がってるコメント欄と彩花ちゃんに対して、聖弥くんが身振りで「落ち着いて」と示した。コメントは全然落ち着かないけど、彩花ちゃんはとりあえず口を尖らせたまま聖弥くんの言葉を待ってる。

 そこ、一応聞く身耳持ってるんだね。蓮と違って聖弥くんは、彩花ちゃんにとって私を巡る敵じゃないからかな?


「小さな問題の方なんだけど、ユニット名が『Y quartet+1』で収まらなくなること」

「それー。彩花ちゃんまで加わると人間だけで5人になって、ヤマトを入れたら6だからカルテットでもなんでもなくなっちゃう」

「ユニット名とか正直どうでもよくない? 最初6人の名前から取って付けてたアイドルのユニット名が、最終的にふたりになっても変わらなかったとかあるじゃん」


 くっ、本質を突いてくる! だから嫌なんだよ、普段は理屈なんて無視したことを言ってることも多いのに、時々こういうこと言うんだもん!


「それにさ、私にとって問題だと思うのは、そもそもY quartet自体がSE-RENの知名度ブーストのためのユニットなのに、彩花ちゃんとバス屋さんが揃うと濃すぎてふたりが霞むことだよ!」

「ゆ~か! おまえ、そんな風に思ってたのか!? 俺と聖弥がこのふたりに比べて存在感薄いって!」

「実際薄いじゃん! だってふたりとも飛び抜けてアホなこととかしないもん! どうやったってこのふたりには存在感の上で負けるんだよ!」


 私が懸念していたことをズバリと言ったら、蓮が胸を押さえてよろめいた。常識人は、存在感の上でアホの子には勝てない。これは世界の法則!


「そうそう、それにボクってヤマトと超仲良しだしね。ゆ~かっちと一緒に何かするには、おまえらより余程アドバンテージあるんだから。ヤマトー、そいつはおいといていいから、こっちおいで!」


 彩花ちゃんが呼びかけると、バス屋さんを放り出してヤマトは駆け戻ってきた。そして、彩花ちゃんの指示でお手、お座り、ジャンプなどを次々としてみせる。


「反則! 前は私の言うことも聞かなかったのに、ヤマトが自分の言うこと聞くのを見せつけるのやめて!?」


 本当に反則だよ! 私は前世の記憶がなかった頃はヤマトの正体もわからなかったんだしさ。いや、前世を思い出してからも大口真神っていう真名を知るまで、コマンドはあんまり通らなかったのに。

 彩花ちゃんはずっと記憶があるから、ヤマトのことも正しく知ってたし、ヤマト自身も彩花ちゃんが元々の主っていう意識を持ってるみたいだし。


『ヤマト、ナンデ!?』

『アヤカの言うこと聞くのか? ヤマトどうしたんだ』

『飼い主以外の言うことを聞くなんて、柴犬じゃない!』

『↑ヤマトは元々柴犬じゃない。柴犬っぽい【大口真神】だ。目を覚ませ』


 忠犬よろしく彩花ちゃんの命令に従うヤマトに、コメント欄も混乱を極めてる。……元々は「言うことを聞かないヤマトに振り回される私」が楽しみで見てた人たちも多いからね。すんなり人の言うことを聞くヤマトには違和感があるよね。


「それに、大問題がもうひとつある。絶対に長谷部には覆せない奴がな!」


 ドヤ顔をした彩花ちゃんに、蓮が「勝った」と言わんばかりの上から目線でマウントを取り始めた。彩花ちゃんに絶対に覆せない……? 歌って踊れとかその辺の話かな。彩花ちゃんは踊れるけど歌えないからなあ。それを言うならバス屋さんのことは全然わからないけど。


「ヘリの定員が、パイロット入れて5人! つまり、順番からいってもおまえは乗れない!」

「……わー、凄いドヤッて言った割には、割とどうでもいい問題」


 ヘリの定員って……。確かに奥多摩ダンジョンの時とか、ひとり余るからママがアグさんに乗って移動したりしてたけど。

 思わず私がツッコんだら、蓮が恨みがましい目をこちらに向けた。


「おい、おまえどっちの味方なんだよ」

「ごめんごめん、でもヘリは緊急でない限りどうにでもなるじゃん。遠かったら泊まりがけで出かけたりしてもいいんだし」

「だから、どっちの味方なんだよ!」

「蓮の味方だけど、あまりの主張の弱さに思わずツッコまざるを得ませんでした!」


『蓮くん、頑張れ!』

『相変わらず蓮も弱いな』


 コメントに弱いと言われ、蓮はショックを受けた顔をカメラに向けていた。聖弥くんが、今度は「まあまあ」と蓮を宥めている。


「実際問題、蓮の言うことも一理あると思うよ。前に諏訪ダンジョンに行ったとき、僕ら3人とダンジョンエンジニアのアイリちゃんでヘリがちょうど埋まったよね。そもそも、ゆ~かちゃんのおじさんもそれ以上の人数になるって思ってなかったんだよ」

「それに、エンジニア入れたら6人になるぞ。まあ、長谷部がエンジニアやるなら別だけどな」


 理路整然と語る聖弥くんと、感情ダダ漏れで鼻で笑う蓮。――凄く対照的です。こうして見ると、SE-RENってバランスのいいユニットなんだなあ。


「だから何? そもそも基軸にY quartetがあるじゃん。そこは3人防具もお揃いだしさ。エンジニアで先輩とかあいっちとか法月さんがサポートに入るまでは許せたよ。――でも、バス屋が入れたんだよ!? しかもごねて無理矢理入ったじゃん! だからボクは、そこが許せない! バス屋が入るならボクだって入っていいと思うじゃん!!」


 胸を張って言いきる彩花ちゃんに、私と蓮と聖弥くんは、3人同時に「うわあ」と言ってしまった。

 面倒くさい、果てしなく面倒くさい!


「蓮、バス屋さんの加入を許しちゃったの蓮だよ?」

「あの時あれ以上突っぱねる気力あったか!? 俺は無理だった!」

「なんかもう、僕はどうでもよくなってきたよ……」


 とうとう聖弥くんの心が折れた……。私も、「彩花ちゃんがいてもいいかな」って思い始めたよ。だって、説得するのが面倒なんだもん。

 蓮と聖弥くんが目立たなくなる問題については、ふたりに頑張ってもらうしかない。またふたりで新曲出してもらうとかさ。


「もういいじゃん、彩花も入れて『Y quartet+n』にしちゃおうぜ」


 自分にヒールを掛けつつバス屋さんが戻ってきた。ダンジョンの地面を思いっきりヤマトに引きずられたから、小さい傷だらけになったんだろうな。

 でも、バス屋さんの言葉は私には承知できないね!


「ぜーったいヤダ! 私、『Y quartet+1』が気に入ってるのに! プラスが可愛いと思ってるのに! 百歩譲って彩花ちゃんの加入を認めても、名前は変えたくない!」


『犬好きの超理論キタコレ』

『待て、だんだん論点がずれてきた』

『百歩譲ったら認めちゃうのか』


 すっごい微妙な空気の沈黙が私たちの間に漂う。その沈黙がパーンという音で破られた。びっくりしたけど、バス屋さんが手を思いっきり叩いた音だった。


「んじゃ、百歩譲ってもらうってことで! どうせエンジニアがサポートで入ることもあるんだし、元々『+1』ってひとりって意味じゃなかったしさ! そろそろ戦おうよー、俺にとって初めての配信楽しみにしてたんだよー」

「よりによってバス屋さんがそれを言います……?」


 蓮がすっごく不満そうにしてるけど、彩花ちゃんがガッツポーズしてるし、コメントも「もうひとりでもふたりでも一緒だろ」「LV90超えた人外同士仲良くやれよ」とか、彩花ちゃんとバス屋さんに対して肯定的なんだよね。


 むむう……名前が変わらないなら……もういいか……。

 彩花ちゃんを突っぱね続けるのも疲れたよ。

 配信が押してるのも事実だしね。


 ああ……結局世の中はごねたもん勝ちなのかな。

 思わず遠い目になってしまった。

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