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第296話 効果的な魔法の使い方

 蓮と聖弥くんとの待ち合わせは鎌倉ダンジョンの前、ふたりとも防具は既に着てて、私待ちだった。

 私も面倒になって家から防具着てきたけどね。ライトニング・グロウ方式だよ。


「昨日、ちゃんと寝られたか?」

「うん、バッチリ! 朝までぐっすりで、ちゃんといつもの時間に目が覚めたよ」


 スリープの効果が気になったのか、蓮がちょっと心配そうに私に尋ねる。私はそれに笑顔で答えた。


 蓮は「それなら良かった」とちょっと笑った後で表情を引き締める。


「とりあえずテレポートの飛距離と、攻撃魔法は一通り範囲とかを確認しといた方がいいぞ。アクアフロウとかファイアーボールとかMAGで効果がかなり違うからな」


 蓮にロータスロッド、聖弥くんにエクスカリバーとブリトウェンを渡すと、蓮がそう言って今日の課題を示してくれた。


「あと、アースドラゴンに俺と颯姫さんでやった尖った氷ぶつける奴、3人でやれば更にエグいのが出せるからそれもやってみようぜ」

「た、確かに!」


 鎌倉ダンジョンの1層は人がいない。まあ、元々不人気ダンジョンな上に、普通1層は通り過ぎる物だからね。ウォーミングアップくらいする人はいるけど。


 ワイズマンになったときにジョブヒーラーとウィザードとサポートメイジを取ったから、MAGが11上がったんだよね。補正を加えると私は236、聖弥くんは278。ぐぬう、本当に補正が高いな、聖弥くんは……。

 蓮は補正込み438とぶっちぎりである。でもこのぶっちぎりのMAGでもアグさんにスリープ効かないんだよね!


「じゃあ、テレポート!」


 1層の端っこから、長方形のフロアの長辺を見てテレポートを唱える。瞬間、ふっと体が浮き上がった感じがして――。


「ぎゃっ!」


 私の体は、反対側の壁にぶつかっていた……何これ、効果距離おかしくない?


「あー、テレポートは場所決めてやらないと結構跳べるぞ。でも視線通ってないところは無理っぽい」

「先に言って欲しかった!」


 蓮が付け足しのように言うので、ほっぺたを一度つねっておいた。

 聖弥くんは1層の真ん中辺りにぐるっと輪を描いて、そこら辺の小石を集めてちょっと見えやすくしている。


「僕がウィザード取ろうと思ったのは、このテレポートなんだよね」

「テレポートのために? それは……ちょっと珍しいんじゃない?」

「この前、長谷部さんとバス屋さんが手合わせした後、稽古つけてもらっただろ? その時にいろいろ教わってね」


 ……彩花ちゃん、聖弥くんに何を教えたんだ。

 女装して相手を油断させて殺した人だぞ……。割と「勝つためなら何をしてもいい」って考え方だから、腹黒の聖弥くんとはうまく噛み合っちゃう気がする。


「嫌な予感しかしない」

「私は戦闘技術を教えてあげて欲しいって言ったつもりなんだけど、どういうことを教わったの?」


 既に蓮は渋面だし、私は「開けちゃいけない箱」が目の前にあるような気分になってる。それに対して聖弥くんは大真面目に答えた。


「自分は攻撃を受けないと思ってる奴が一番攻撃に弱いから、油断させて倒せって。具体的には、僕みたいにガチファイターの見た目で攻撃魔法撃ってくるとは思わないから、特訓でMAGが上がったらウィザードを取った方がいいって言われたよ」

「彩花ちゃんー! そういうことを教えろって言ったんじゃないのにー!」

「あと、回復はポーションがあるけど、攻撃魔法の代わりはアイテムではないからね」


 戦闘の技を! 教えて欲しかったよ!


「あ、もちろん戦闘も厳しく稽古したよ。エクスカリバーは刺突も斬撃もいけるけどそれ専門の武器には劣るから、ひとつひとつの技の精度を上げろって」

「よ、よかった……」


 そうだよ、あの時3人とも凄い汗掻いて帰ってきたからまずお風呂ってなったんだもんね。彩花ちゃんも入れ知恵だけじゃなくてちゃんと実技教えてたんだ。


「で、攻撃魔法もだけど、テレポートがやっぱり僕や柚香ちゃんにとっては強いよね。範囲外から相手に肉薄して攻撃を入れられるから、敵が防御姿勢を取る暇がない。極端言えば、アースドラゴンみたいな大きな相手なら、その真上にテレポートして落下の速度も入れながら剣を突き立てられたらダメージ的にも大きい」

「あんなでっかい敵、そうそういないけどね。レア湧きだし」

「でも、今後遭遇する機会は多分あるんだよ。何せ、僕たちは新宿ダンジョン71層でアースドラゴンと遭遇してる。地下100層まである中の71層で上級ダンジョン相当の敵が出てるから、90層辺りだとどんな敵が出るか予測できない」


 聖弥くんがアースドラゴンを引き合いに出したので、「そんなにしょっちゅうレアに遭遇してたまるか」という気持ちを込めて一言言っておいたら真顔の聖弥くんに逆に釘を刺された……。

 そうだ、ヤマトを見つけたら新宿ダンジョン攻略があるんだ。あそこは普通よりも強い敵が出るから、確かに聖弥くんの言うとおり、大きい敵に対する効果的な攻撃方法なんかも確立できればいい。


「テレポート自体は魔力の制御ができれば決まった距離を移動するのは簡単だからさ、まず柚香も聖弥もやってみな」

「魔力の……制御?」


 ナニソレ、オイシイ……? この前までMAGが10だった私ができるんだろうか……。


「手加減魔法だよ、体育祭の練習中に先輩が長谷部に手加減ライトニング撃っただろ」

「あー、あったね、そんなこと!」


 彩花ちゃんが暴走して、スタンガン的にライトニング使われたときだ。確かに「ちょっとだけよー」とか言ってた気がする。

 そうか、攻撃魔法なら手加減無しで撃ってもいいけど、テレポートは手加減無しだとさっきの私みたいな事になるもんね。範囲外からテレポートを使っての強襲を実用レベルに持って行くためには必要なことだ。


 テレポートの練習は、聖弥くんが作った円の中に跳ぶこと。難しいかと思いきや、目標物があると割と簡単だった。「あそこに跳ぶぞ」っていうのが明確だからかな。

 これが「アースドラゴンの首の真上に跳ぶぞ」とかだと難しいかも知れないけど、練習のしようがない。普段から思った場所に跳べるように繰り返し練習をするしかなさそう。


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