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第294話 僻地のダンジョン

 とりあえずSNSで「お願い」しておいたことはどうなったんだろう。ヤマトが発見されるまでは期待してないけど、何かヒントが見つかってたら嬉しい。


 そう思いながらSNSを開いた私は、大量に入っていた通知に固まった。


 通知欄の表示が「20+」になってる。うん、それはまあわかる。

 いざ見てみたら、もうどこから未読なのかわからない! それくらい通知で流れちゃってる!


「うう……SNSに情報何か来てるかと思ったけど、『頑張って』とかのコメントが多すぎて実のある情報が探せない……」

「……まあ、想定内だよね」


 聖弥くんに慰められた。想定内だったなら先に教えて欲しかったなあ!


「ユズ、スレ民がやってくれてるわよ。日本のダンジョン一覧をコピってきて、確認済みと未確認のところを分けてくれてる。ヤマトがいる確率が高いのは関東甲信越の『おいぬ様』信仰のある地域とみて、そこから優先的に調べてるのね」

「えっ!?」


 スレ民有能過ぎん!? 本気出してるってこと!?

 おいぬ様信仰のある地域……それは、確かに確率高い。ヤマトが――シロが小碓王と別れて残ったのは、この関東だからね。

 ヤマトとしてダンジョンで受肉するまで、大口真神として崇められたシロはずっと関東にいたわけだし、撫子が「元いた場所」に送り返したとしたら、関東か、それこそ奈良近辺のどちらかだよ。


「ママ、その情報私も見たい!」


 私が後ろから叫ぶと、ママは前を向いたままでスマホを操作している。


「URL送るわ。モブさんがデータベース管理してるのね。まあ、妥当よねー。誰でもいじれるようにしちゃうと悪戯で消す輩がでるからね。モブさんからメッセージはいってたけど、もう特訓初日にはデータベースできてたみたい。後はそれを更新するだけだったって」

「モブさんー!」

「さすがモブさん……マイナーすぎるSE-RENの情報をまとめてウィキペディアに載せた人……」


 颯姫さんがぼそっと呟いた一言にも驚いてしまったわ! SE-RENってウィキに載ってるんだ!? しかも編集したのモブさんなんだ!


「ヤマトが見つかったら、スレにお礼を言いに行くとして……蓮と聖弥くん、A1ポスターとか特別に作ってサインしてモブさんに贈呈するくらいしてもいいと思う」

「安西さんに写真撮ってもらってね。いいんじゃない? それくらいしても罰は当たらないわよー」

「いや、待ってください。そこはゆ~かからお礼をすべきでは? 俺たちだと問題の中心から一段離れてるっつーか」


 蓮が真顔で指摘していることに私はぐうと呻いた。

 確かに、他の人だったら私が何かお礼した。でもモブさんは「SE-RENを推すモブ」だからさ。やっぱり一番喜ぶのはSE-RENの特別グッズじゃないかなあ。


「本人に直接訊けばいいんですよ」


 私の隣でサクサクと颯姫さんがなんかスマホいじってるー!

 そうだ、この人もモブさんと直接繋がってるんだった!


「SE-RENポスターと、3人集合版両方が欲しいそうです。こういう強欲な姿勢、いいですね」


 即座に返事が返ってきたらしくて、颯姫さんはスマホを見てにやけていた。

 なるほど、SE-RENのポスターと、Y quartetのポスター両方ってことね。それが一番いいかもなあ。


 ママからLIME経由でデータベースのURLが送られてきたので、私は車内で揺られながらそれを見ることにした。

 ダンジョン一覧は冒険者協会が公式HPに出してるから存在は知ってたけど、それを地方ごとに整理して、関東甲信越のダンジョンだけトップに持ってきて、確認済みのダンジョンには「12月27日最深層まで確認済み」とかちゃんと日付まで入ってる。


 他の地方も初級中級はほとんど確認済みになってて、上級の一部が確認できてないって状態みたい。

 ……なのに、何故か「最優先」って言われてる関東の中で、未確認のダンジョンがひとつだけあるんだよね。


「上級・奥多摩ダンジョン……なんでここだけ未確認?」


 データベースの中でもポツリと空白になっているのが疑問で呟くと、隣から「あー」と心当たりありげな声がした。


「奥多摩ダンジョンね、日本一の秘境ダンジョンって言われてるわ。理由は、道がないの。うーん、ちょっと語弊があるかな。道はあるにはあるんだけど、車で入れる場所からダンジョンまでの道がないの。山の中だしそんなに特記するようなことはないダンジョンだから、みんな他の便利なダンジョンに行っちゃうのよね」

「あー」


 それは「あー」ですわ。確かに、車とか電車で行きやすいダンジョンに行くもん。「最寄り駅から徒歩2時間。バス無し」とかは条件悪い。南足柄の足柄ダンジョンと金太郎ダンジョンのことだけどね!

 あそこの場合、その不人気を逆手にとってセミナーハウス作って活用してるわけだけど、上級というとそういう活用はしにくい。


「じゃあ、私たちはそこにまず行きましょう。ヘリもあるしね!」


 ママの言葉に、私は思わず言葉を失った。

 えーと、ヘリで行くには更にヘリポートがないとダメだけど?


「ヘリがあっても、車より行きにくいんじゃ? そんな都合良く近くにヘリポートないでしょ」

「ユズ、何か勘違いしてるわね。私たちは一般人じゃないわ、冒険者よ。私はアグさんに乗って飛んでいくわ。あなたたちはパパにダンジョンの真上までヘリで運んでもらって、そこから飛び降りるの。いわゆる空挺くうてい作戦よ!」

「うわ、果穂さんの好きそうな単語が出てきた」

「くうてい作戦ってなんです?」


 ママが意気揚々とした説明に、颯姫さんが一瞬げんなりして、蓮は素直に質問している。空挺作戦……言葉として聞いたことはあるけど、具体的にどんなことをするかは知らないな。


「ググれ! 要は、地上からは行きにくいから空から行こうって事よ!」


 ママが逆ギレした……。でも、地上から行きにくいなら空からというのは実に説得力がある。ヘリから飛び降りるのは危ないけど、それこそ颯姫さんがトルネードで蓮を打ち上げたように、着地の衝撃を和らげる方法ならいろいろあるし。


 ヤマト――もしかしたら、もうすぐ会えるかもしれない。

 そう考えたら、急にドクドクと心臓がせわしなく動き始めた。


「これからのことを整理しよう」


 私が気持ちをはやらせていると、タイムさんが助手席から振り向いて車内に声を響かせた。


「まず、これから法月紡績に行ってヒヒイロカネを預けて布にしてもらって、彩花ちゃんの防具を作って貰う。未チェックは上級ダンジョンばかりだし、もし国内で見つからなかったら海外も、って考えてるんだろう? まず装備をきっちりとしておくべきだ」

「はいはい、そのお金誰が出すんですかー」


 タイムさんの言葉に、彩花ちゃんが挙手して尋ねている。確かにそれ大事だわ。


「ヒヒイロカネは僕たちのストックから提供しよう。これから先新宿ダンジョン攻略の手伝いをしてもらう報酬の先渡しと思ってくれればいい。制作費用に関しては」

「ライトニング・グロウで立て替えた後、ダンジョンで稼いで返す。でしょ? 俺の時もそうだったし」


 タイムさんの言葉をバス屋さんが継ぐ。なるほど、上級ダンジョンで戦えば防具のクラフト代を稼ぐのは難しいことじゃないからね。


「クラフトは最短でも明日丸々かかると思った方がいい。その間に蓮くんとゆ~かちゃんはダンジョンの1層を使って魔法を試し撃ちして威力を確認。特にゆ~かちゃんは今まで攻撃魔法を使ったことがないのに最上級までいきなり覚えちゃったから、一通り使って範囲とかをきちんと把握しておくこと」

「え、クラフト自体はすぐ終わりますよね!? 明日すぐ行っちゃダメなんですか!?」


 明日すぐに奥多摩ダンジョンに行くんだと思ってた私は、タイムさんの言葉に驚いて反論した。魔法だって、別に私は使わなきゃいいんじゃない?


「確かに、寧々ちゃんならクラフトは一瞬だろうね。でもヒヒイロカネ鉱石を伝説金属紡績で糸にしてもらうのが時間掛かるんだよ。それに、テレポートの飛距離とかも確認必須だと思うよ」


 そっか、伝説金属紡績! 確かに、それは一瞬ではできないはず。ましていくら友達の家業だといっても、もう年末休みに入ってるはずのところに特別にお願いするんだし……。


「わかり……ました」


 私ががっくりと肩を落とすと、バス屋さんが振り向いて私を慰めるように声を掛けてきた。


「特訓も1日早く終わったんだし、その分と思ったら大丈夫だよ。俺たちは奥多摩ダンジョンには付いて行けないけど、フル装備の彩花様がいるなら大丈夫だろうし」

「一緒じゃないんですか?」


 てっきり一緒に来てくれるんだと思ってた! 驚いてる私に、何故かママが驚いている。


「ユズ……うちのヘリじゃ全員乗り切れないから。パパ以外に4人が限界でしょ。ユズと蓮くんと聖弥くんと彩花ちゃんで4人よ」


 ああああああ! そうだったー! そういえば諏訪ダンジョンに行ったときそうだったわー!!

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