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第293話 柚香の魔法の使い道

 とりあえず、ぽちぽちと魔法を取得する作業を進めて、私もとうとうワイズマンになった。うんうん、蓮が言ったとおり回復の最上級はエリアなのね。これは使い勝手いいなあ。

 で、攻撃の最上級は……あれ?


「私の最上級攻撃魔法、『メイルシュトロム』です。蓮と違う!」


 説明を見ると、大量の水の渦に敵を巻き込む魔法ってなってる。蓮のはフロストジャベリンだっけ、明らかに氷柱つららが飛んでいきそうな魔法だよね。


「それは、多分本人の属性絡みね。蓮くんは氷で私は雷。柚香ちゃんはやっぱり水属性なのよ」

「お、いいじゃん。柚香のメイルシュトロムで敵を水の中に入れて、それを俺のアブソリュート・ゼロで凍らせればそれだけでかなり安全に倒せるし」


 私が困惑していたら颯姫さんが説明してくれた。蓮は早速コンボを考えている。確かに、ただ「凍らせる」よりは「水没させた上で凍らせる」方が確実そう。


「で、ユニーク魔法が……『インフィニティバリア』だそうです。私を中心に敵の攻撃を全て無効化するバリアを10秒展開。これ、広さがどのくらいか確認しておく必要があるけど、めちゃくちゃ良くないですか!?」

「あー、ゆずっちらしい。ゆずっちって攻撃上等だけど、周りを守りたい意識が強いもんね」

「それだ」


 前の席の彩花ちゃんが振り向いてそんなことを言ってきて、蓮が同意してる。

 うーん、確かに、「手が届く範囲の人を守りたい・助けたい」って意識は強いかな。それが前世の走水入水事件に繋がったわけだしね。


「ユニーク魔法って、本人の一番の願いが形になってるんじゃないですか? 柚香は出会った頃から手助けしたいとかそういうことをよく言ってたし、俺はSTR伸びなくて攻撃下手くそなのがコンプレックスで、強くなりたいってずっと思ってました」


 蓮が言ってることは、多分真実だろうと思う。わざわざ専用魔法が出てくるくらいだもん、その人が一番欲しい力であってもおかしくない。


 だから、颯姫さんは「リザレクション」なんだ。因果が逆な気もするけど、上野さんを助けたいという思いで冒険者になったんだから、「リザレクション」以外あり得ない。


 ふう、と颯姫さんは少し疲れたようにため息をついた。


「ありがとう、ふたりが先にワイズマンになってくれて、ユニーク魔法を習得できることも実証できた。……私は後は、とにかくLVを上げなくちゃ」


 それだけを呟くと、颯姫さんはシートに深く体を埋めて目を閉じる。

 疲れたっていうか、今までずっと「本当にそうなの?」って疑問に思ってたことにひとつの答えが出て、一気に疲れが出ちゃったんだろうな。


「……私のインフィニティバリアだけどさ、これ敵からの遠距離攻撃とか魔法を本当に無効化できるなら、階段から階段まで進路上の白兵戦してくる敵だけを倒していけば良くない? それなら上級最下層まででも、かなりの時間短縮になると思うけど」


 私が大真面目に考えて言ったことに対して、蓮がぎょっとした目を向けてきた。


「おまえ……バリアという防御魔法を防御として使う気がないのな……」

「どんな使い方したっていいじゃん! だって上級の30層とかまともに潜っていったら凄い時間掛かるじゃない! せっかく思いがけずにワイズマンになれて、今まで誰も持ってなかった『攻撃無効化』なんて魔法を手に入れたんだよ!?」


 ヤマト捜索でこの力は凄く役に立つ。それは間違いないんだから!

 私が鼻息荒く力説してたら、聖弥くんが物凄ーく冷静な声でツッコミを入れてきた。


「ヤマトが最下層にいることが確定ならそれでもいいけど、実際はどこにいるかわからないんだからね? 僕たちはこれから未確認のダンジョンを回っていくことになるけど、その場合フロアの隅々まで見ていかないといけないんだよ」

「……そうでした」


 聖弥くんの言葉で、一気に頭が冷えた。そうだ……なんとなく、囚われのヤマトはダンジョン最下層で檻に入れられてるイメージを持ってた。なんでだろう。


 ステータスの上がりがおかしかったのは予想外だし、それでワイズマンになったのも完全に予想外。でもユニーク魔法の効果を見たとき、私的にはピンときちゃったんだよね。

 鎌倉ダンジョンRTAの時みたいな、最小限の行程だけで深層に行ける方法を手に入れた! って。


「んー、ゆずっちの場合、インフィニティバリアももちろん凄くいいんだけど、ボク的にはテレポートが反則だと思うよ。だって縮地じゃん?」

「はっ!?」


 彩花ちゃんに言われて気づいたよ。そうだ……今までMAGの伸びが悪すぎて、上級で取れる魔法の事なんて全然頭になかったけど、改めて見てみると確かにそんな魔法もあるわ!


「つまり、テレポートで敵の攻撃範囲外から一気に懐に飛び込んで、一撃で首を落とせばいいんだ!」

「発想が蛮族」

「さすがヤマトタケルの后」


 なんか前の方から不本意な評価が聞こえてきたけど、無視しよう!


「これ、蓮みたいな純正魔法使いだと障壁を越えるとかそういう使い方に限られてくるけど、私みたいに物理攻撃メインの人間が運用するととんでもないことになるよね!?」

「……普通物理攻撃メインの人間は、ジョブウィザードにならないんだぜ?」


 バス屋さんの声で何か聞こえたけど、これも無視しよう!


「颯姫さんはどうなんです? 魔法と物理両刀じゃないですか」

「私? テレポートはなかなか使わないなあ。物理強いっていっても、ゆ~かちゃんクラスの一撃必殺的な強さじゃないし、角材の攻撃力を最大限に発揮するには助走が必要なのよね」

「あー……」


 そうか、確かに角材と村雨丸じゃ、「懐に飛び込んだとき」の運用も違うよね。

 でも、私はまただんだんと高揚してきた。


 新宿ダンジョンで特訓した4日間で、私は思いもよらない力を手に入れた。

 撫子にリセットされたからこその、圧倒的な成長率による高ステータス。それを基にした魔法最高職「ワイズマン」の力。


 そもそも撫子がいなければヤマトがいなくなることもなかったんだけど……あの状況からの巻き返しとしてはこれ以上はない成果が出てる。


 ヤマト、やっと準備ができたよ。

 この強さで、私は必ず迎えに行くからね!

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