聖弥くんが。
彩花ちゃんに。
土下座して教えを請うている……。
凄い光景を見てしまった。
そりゃ、聖弥くんに戦い方を教えてあげてって彩花ちゃんに言ったのは私だけどさ。
「聖弥くん、無理にすることないんだよ? 彩花ちゃんの言うとおり、冒険者に将来なるつもりがないんだったら、今のステータスでも一般人から見たら十分なんだから」
ここで戦うのを見てた限り、以前より戦闘技術も上がってるし、何より装備による補正がひとりだけ高いから今のままでも戦力として十分なんだよね。
私はそう言ったんだけど、聖弥くんは真顔で首を振る。――凄く真剣な表情だ。
「ダメなんだよ、それじゃあ。……僕も最初は、事務所命令でダン配してるだけなんだし、ステータスが多少上がればいろいろな事が有利になるからって理由しか持ってなかったんだ」
でも、と聖弥くんは少し色の薄い目を私や蓮に向けた。見たことのない聖弥くんの必死な表情に、胸がぎゅっと痛くなる。
「僕だってY quartetの一員だよ! 更に言うなら、僕と蓮が組んでたパーティーに柚香ちゃんを引きずり込んだのは僕なんだよ! 蓮と柚香ちゃんはブートキャンプして強くなってるのに、『俳優になりたいんだからブートキャンプ必要ない』なんて甘い考え持った過去の自分が恥ずかしいよ」
「そういえばそうでしたね!?」
そうだ、なんか3人でいるのが当たり前になりすぎて忘れてたけど、元々蓮と聖弥くんがSE-RENとして活動してて、私はふたりを助けた縁で聖弥くんが戻るまで、って手助けしてたのが始まりじゃん。
SE-REN(仮)に聖弥くんが合流してきたからなんとなく私の中では「聖弥くんが後から入ってきた」気になってたけど、後から入ってきたのは私の方でした!
「だから……だから、今できることから逃げたくないんだ。ヤマトを助け出すまでもどのくらい掛かるかわからないんだし、その後にはこの新宿ダンジョンを最下層まで攻略するって約束になってる。僕は、ステータスは弱いけど、強くなりたい。望まれてることから逃げたくない」
決意の籠もった聖弥くんの言葉に、彩花ちゃんは満足げに頷いた。
「よく言った。ステータスが多少低かろうと、戦い方をきちんと知ってれば強くはなれるよ。ボクがそうじゃん、補正なんか草薙剣の分しかついてないもんね。それをクラフトするまでは、ずっと初心者の剣で戦ってたし」
初心者の剣をずっと使ってたのか……まあ、あれ一応+3の攻撃力があるからなあ。彩花ちゃんみたいに敵の弱点を瞬時に看破して、それに沿った戦いができるなら割と行ける。
「そろそろ落ち着いた? 出られそう?」
ママがひょいとリビングを覗いて声を掛けてきた。聖弥くんはその声に弾かれたように立ち上がる。
「はい、今準備します。蓮、部屋の荷物取ってこよう」
「あ、ああ」
聖弥くんはつい今し方まで物凄い落ち込んでたのが嘘みたいにシャキッと立ち上がり、蓮を連れて部屋へと向かって行った。
「……彩花ちゃん、凄いね」
確かに聖弥くん、自分で言ってた理由で「ブートキャンプしないことを選んだ」んだよね。知らないでそうなっちゃったんじゃなくて、成長率上がらないぞってわかってて「選んだ」。
今までも何度かステータスの伸びの悪さに落ち込んでるのを見たことはあったけど。普通の人は伸びがいいステータスと悪いステータスがあって当たり前だからあまり気にならないんだけど、聖弥くんの場合勇者ステで「一律」な伸び方だから余計悪さが目立つんだよね……。
「だって、由井聖弥はやれば何でもできるタイプの人間じゃん。まあ、ゆずっちのようには戦えないし安永蓮のようには魔法使えるようにはならないよ? でも、なんでも『一流と言わずとも二流の上』に持ってけるのがあいつの強みだし。そこに補正が入るんだからやり方次第では一流と渡り合える。……そうなってもらわないと、今後完全に足手まといになる」
彩花ちゃんは冷たくも見える眼差しで、聖弥くんが出て行ったドアを見ていた。
そっか、彩花ちゃんは聖弥くんのことをそう見てるんだ。
うん、さっきの「冒険者やめろ」って言葉は発破を掛けたんだね。冷たい目で見てるように感じたけど、冷静に分析してるんだ。
だって、彩花ちゃんは見込みがない人とか放って置いても自分に関係ないと思うような相手は、割と簡単に見捨てるからね……。そこがあいちゃんと逆でさ。
「私たちも片付けに行こうか」
「ユズと彩花ちゃんの荷物は全部アイテムバッグに放り込んでおいたわよ。仕分けは家ですればいいし」
彩花ちゃんの腕に抱きついてお片付けに行こうーって誘ったら、ママが先に全部やってた件!
アイテムバッグって本当に便利ですね!!
新宿駅のロータリーでライトさんがアイテムバッグから車を出したら、周囲の人に二度見されまくった。……若干慣れてきたね! むしろこの驚かれる感じが癖になる。
いつも颯姫さんは助手席に乗ってるんだけど、今日は私と蓮を引きずって一番後ろの3人分の座席があるところに乗り込んだ。
「じゃあ、蓮くんは補助魔法を取得しちゃって。ゆ~かちゃんは、取れる魔法全部取って」
「は、はい」
私が真ん中で、蓮が右で颯姫さんが左。圧が、強い!
回復魔法を取ったことがあるから、魔法の取得のやり方は一応知っている。
中級に上級と全部回復魔法を取って、MAGが5増えて【ヒーラー】の称号が付いたのを見て思わず震える。
この私が、職業魔法使いの称号を取れるときが来るなんて!!
そこで感動に打ち震えていたら颯姫さんに「次攻撃魔法ね」と急かされたので、そっちも上級まで一気に取っていく。上級を取るとウィザードの称号が付いて、基本の上級魔法3種類以外に、MAGを5使って取得できる魔法が出てくるので、それも全部取る。
スリープ、パラライズ、ポイズン、スロー、テレポート、サモン・ファミリア。ぱっと見だけじゃどこまでの効果があるのかわからない魔法もあるけど、説明を見るのは後!
「出ました、ワイズマン」
蓮が震える声で颯姫さんに報告した。今まで取ってなかった補助魔法を全て取って【サポートメイジ】が出た途端、それまでの【ヒーラー】【ウィザード】のジョブが消えて【ワイズマン】に統合されたらしい。
「あ、最上級魔法が出てきました。回復がエリアヒールとエリアキュア、攻撃がフロストジャベリン、補助がオールダウンですね。これも取得して……うわ、マジだ、全部取ったら『アブソリュート・ゼロ』って魔法が出てきました!」
アブソリュート・ゼロ……それが蓮のユニーク魔法なのかな。確か絶対零度って意味だよね。
「範囲内の敵を全て凍らせるって書いてあります。……凄え」
「やっぱりね、蓮くんは攻撃魔法だと思ってた」
そういえば颯姫さんがリザレクションの話を持ちだしたとき、蓮のユニーク魔法も私のユニーク魔法もリザレクションじゃないってべろんべろんの状態で言ってたなあ。
……待って? もしかしてあの時、私がワイズマンになるって事がわかってたのかな!? いや、でも、私のMAGが130なのを見て驚いてたよね?
うーん、わからん。