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第291話 真・勇者ステータス

「LV10の法則だよ! LV10になるまでにしたことが成長率を決めるって奴! ゆずっちは一度リセットされてLV1に戻ったけど、それまでの戦闘とかでの行動も全部『成長率を決定する要素』に組み込まれたんじゃない? だって、ダンジョンアプリが入ってるって事は、最低でもLV1なんだもん!」

「あああっ!?」


 そう言われてみると説明が付く! というか、それしかまともに意味が通じる理由がない!


「それだ! それならこの高ステータスも納得できる。……でも、リセット前と比べてMAGが異様に伸びてるのは?」

「柚香、何かしてたか? MAG関係」


 聖弥くんは首をひねりながら、蓮は驚きすぎて顔色を悪くしながら私に尋ねてくる。


 MAG関連――実は、してた。LV10超えてるから成長率に何も関係ないと思いつつ……。


「じ、実は、回復魔法使えるようになったのが嬉しくて、ランニング中に野良猫見たらライトヒール掛けたり、毎晩MPが尽きるまで空撃ちしたり、魔法使いまくってた……ええええええええええええ!? それでこんなにMAG上がったの!? あの日あの時あの場所で魔法を使いまくったのは無駄じゃなかったー!!」


 恥ずかしくて思わず顔を覆いながら、私はちょいと情けない告白を絶叫した。

 だって、だって本当に回復魔法覚えられたの嬉しかったんだもん! 野良猫とか割と喧嘩して軽い怪我してる子多いし!


「それだわ! そもそもLV10になるまでに魔法を使えるようになる人間自体が少ないのに、ある程度まで育ってるMPが空になるまで毎日魔法を撃ってたら……しかもそこに魔力の指輪の補正まで付いて」


 そりゃ、130まで育ってもおかしくないかもね、と颯姫さんはがくりとうなだれた。

 うわあああああ! なんか――なんか本当にすみません! 蓮にワイズマンとして先を越されるのは想定してただろうけど、まさか私の方が先にMAG120を超えちゃうなんて!


「いやー、アースドラゴンと戦ってるときとか、妙に強いなとは思ったんだよなー。俺の方が先を走ってたのに追い抜かれたし」


 バス屋さんは気楽に笑いながらそんな事を言う。……いや、ブートキャンプできなかったから成長率悪いかもって心配してたから、逆に凄く高くて助かったけどさ。


「頭が、追いつきません。次に何をやったらいいかわからない」


 本心を率直に告白したら、ママと颯姫さんが顔を見合わせた。そしてママが私の手を引いて歩き出す。

 ――ダンジョンの外へじゃなくて、ダンジョンの奥に向かって。


「とりあえず一旦戻りましょ。特訓は終わりにするにしても、荷物の整理とかはしなきゃいけないし」

「蓮くんとゆ~かちゃんには魔法を全部習得して、ワイズマンになって欲しい。それを私の目の前でやって欲しいの! ここじゃできないから、帰りの車の中で!」

「わ、わかりました」


 颯姫さんに詰め寄られて、蓮は勢いに負けて頷いている。

 というか、私が、ワイズマンになれる? 魔法エキスパート職に?

 いや、ステータスはやっぱり高AGIのファイターステータスだけど、魔法もめちゃくちゃ行けるという悪くない意味の方の「真・勇者ステータス」になってるんだもんね。


 実感湧かない……。と思いつつ進路上の敵を惰性でサクサクと倒し、私たちは居住区域に戻ってきた。


「蓮くんはMAGどんな感じ?」

「えっと、223です」

「蓮は……凄いね」


 颯姫さんの質問に蓮が答えたら、聖弥くんがずーんと沈んでいた。なんぞやと思ったら、蓮の前にすっと自分のスマホを出していて、それを見た蓮は思いっきり仰け反っている。


 そのリアクションが気になったので、思わず横から覗いてみたら――。


「………………」


 絶句。声も出なかった。驚きすぎて。


 LVは蓮と同じく64なのに、HPとMP以外のステータスが全部75から77の間に収まっている……。

 ええと……成長率が、ほぼ全部のステータスで「1LV上がるごとに1上がる」みたいになっちゃってるのかな。


 なまじ周りがブートキャンプした人ばっかりだったから、この最底辺ともいえる成長率は衝撃だ。しかも成長率が一律と来た。

 いや、最底辺と言ったら前の私のMAGが最底辺だったんだけど、「勇者ステータス的に最底辺」なのが辛い……。


「一旦落ち着いて、ユズと蓮くんの魔法について考えましょ。――と言っても、全部取るしかないんだけどね」

「わわわわかってるんだけど……本当にちょっと落ち着かせて欲しい」


 私はソファに崩れ落ちるように座ると、改めてステータス画面を眺めた。


 LVを戻される前は、STRは「補正込みで200超え」だった。

 それが今では素で200超えてる。まあ、LV自体爆上がりしてるけども。


 ……強くなったのは嬉しいんだけど、想定外過ぎて貧血起こしそうっていうか、手が冷たくなってきたよ……。


「おい、柚香、顔色悪いぞ」

「いや、そういう蓮も割と顔色悪い」

「まあ、な。まさかLV60超えてると思わなかったし……聖弥は聖弥で逆の理由で顔青いけど」


 聖弥くんは……部屋の隅で膝を抱えてどんよりしていた。でもブートキャンプしないことを選んだのは自分だからね。

 それでも聖弥くんの場合は盾までがっちり補正入ってるから、フル装備なら一線級の戦力なのは間違いない。


「ほら、これでも飲んで落ち着いて」

「いや、ボクは落ち着いてますが?」


 高校生組の前に、ママが湯気の立つマグカップをひとつずつ置いていった。高校生組の中で平然としてるのは彩花ちゃんだけだ。


 凄く馴染みのある香り、と思って一口飲んだら、ホットジンジャーレモネードだ。

 お湯にレモン汁とチューブ生姜、そしてはちみつをぶっ込んだ奴。シンプルだけど温まる。蓮が一昨日作ってくれたジンジャーホットミルクと、味は真逆だけどなんとなく近い。


 とりあえずそれをゆっくり飲んでいる間、ママやライトニング・グロウの人たちは荷物の整理をするために部屋に戻っていった。といっても、アイテムバッグがあるから、持って来た物をぽいぽいと放り込むだけなんだけども。


「ふう……ちょっと落ち着いた」


 私がホットジンジャーレモネードを飲み終わるのと大体同じタイミングで、蓮も飲み終わったらしくてリビングテーブルにマグカップがふたつ置かれた。


「……なんつーか、上がりすぎたLV見てテンパっちゃったけど、俺がこれからやることは何も変わってないんだよな。柚香と一緒にヤマトを助け出す。ついでにワイズマンになる」

「そうそう、最初からなーにも変わってないよ。シンプルにヤマトを助け出すことを考えて行こ! で、由井聖弥、おまえは戦闘技術の特訓な。それが嫌なら冒険者やめろ」


 元から落ち着いてたが故に早く飲み終わった彩花ちゃんが、膝を抱えて座ってる聖弥くんを爪先でうりうりしている。

 厳しいなー!


「俳優になるのが目的なんでしょ? ずっと冒険者やるつもりがなければ、後は回復魔法でも取ってこのステータスで十分だよ。はっきり言うけど、ブートキャンプしなかったおまえのステータス的な成長はずっとこのままだからね」

「……………………するよ、特訓。長谷部さん、僕に戦闘指導をしてください。お願いします」


 厳しいことを言いきった彩花ちゃんに対して、聖弥くんはマグカップを横に置き、床に手を突いて頭を下げた。


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