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第286話 ミーティング

 お風呂に入っていた面々がルームウェアに着替えて戻ってきて、やっとミーティングが始まった。


「明日は71層から攻略するわけだけど、今日の蓮くんのオーバーヒートも考慮した上で、事前に作戦を考えておきたい」


 全員がダイニングテーブルに着いたところで、ライトさんがそう切り出した。


「すみません、僕たちのパーティーでも作戦を立ててなかった。僕の責任です」

「聖弥くん、今はそういう過去の問題は置いておこう。続けていいかな?」


 頭を下げた聖弥くんに、穏やかにタイムさんが謝罪を封じた。――うん、聖弥くんのせいじゃないからね、今朝のことは。


「敵がどうくるかわからないから、安全策としては蓮くんと姫でまず片っ端からスリープを掛けて動きを封じる。効かなかった相手はとりあえず無視して、全体を眠らせてもらう」

「はい、先生質問。スリープとパラライズって両方ともRSTにMAGで競り勝てばいいんだよね? どっちも行動を封じるのはわかるけど使い分けってどうなってるの?」


 学校のように手を挙げて質問した彩花ちゃんにライトさんは苦笑した。そして、笑ったままで蓮の方を向く。


「蓮くんはそこのところわかってるかい?」

「スリープは効果時間が長いけど、ダメージを受けると起きる可能性がある。パラライズは完全麻痺で行動を封じられるけど効果時間が短い。――で、合ってますよね?」


 ここは教室かな? という感じで蓮がライトさんの出した問題に答え、辺りを見渡す。タイムさんとライトさんと颯姫さんは妙に温かい目で頷いていた。


「合ってるよ。じゃあ、それを踏まえた上で、聖弥くんは安全に戦うとしたら魔法をどう構成する?」

「……スリープで全体を眠らせて一旦行動を封じた後、攻撃対象の一部にだけパラライズを掛けて、反撃を封じながらダメージを与えて倒します」

「いいね、正解。これはフロアが狭いときとか、高MAG の魔法使いがふたりいないとなかなか成立しにくいんだけどね」

「そもそもスリープとパラライズって、ジョブウィザードにならないと取得できないから前提難易度が高い」


 聖弥くんが大真面目に答えたことにライトさんが拍手をしてくれて、颯姫さんが更に説明をしてくれた。高校生組は真剣にそれを聞いている。


「普通のダンジョンだと敵が連携を取るから、スリープで眠らせてても、まだ眠ってない敵に起こされちゃうことがある。まあ、そこは敵を見て知能が高そうか低そうか判断してからでもいいかな」


 タイムさんも補足をしてくれたけど、そもそも高MAG魔法使いのいるケースの運用なんて、学校で習うことじゃないからね。颯姫さんというメンバーがいるライトニング・グロウならではの戦術だ。


「まとめると、こうなる。フロアに降りる前に姫は左、蓮くんは右から敵にスリープを掛けていく。攻撃されてることに気づいた魔法が効かない敵だけが迫ってくるから、俺とバス屋は左方向、ゆ~かちゃんと彩花ちゃんは右方向の敵をバディで倒していく。タイムさんは遠距離から補助。果穂さんと聖弥くんは全体を見て薄いところに回って」

「わかりました」


 全員が頷いた。そしてその後の事も大体想像が付いた。


「その後は、左端からパラライズを掛けて全員でフルボッコにしていく簡単なお仕事――になるのがベストだな」

「最後の一言が不穏ですが!?」

「ダンジョンで思うとおりになんて滅多にならないってこと。例えばミスリルゴーレムが集団で出てきた時点で今の作戦は無効だしね」


 ミスリルゴーレム……今朝蓮の魔法が効かなくて、むきになった蓮が魔法を連発してオーバーヒートを加速させちゃった問題の敵。

 あれは颯姫さんが角材でぶっ叩いて倒してたけど。「RSTは高いけどHPとSTRとVITが低い」というまさに物理攻撃向けの敵だったんだよね。


「仮に……ミスリルゴーレムが大量に出てきたらどうするんですか?」


 蓮が挙手して恐る恐る訊く。すると、ライトニング・グロウの4人が蓮に目を向け、

「殴って倒す」と声を揃えた。


「むしろボーナス。この辺りの敵としては、武器の一撃で倒せる珍しい敵だよ」

「ええ? ええええー」


 タイムさんの一言に、蓮が泣きそうになっている。お願いやめてあげて、蓮のメンタルポイントはもう0よー。


「とにかく殴る! 斬撃より打撃が効くから、例えばゆ~かちゃんは村雨丸で斬るよりは殴る蹴るすればいいし、果穂さんは転ばせた後は鞭で打ちまくりとか」

「魔法使ってきたりしないんですか!?」

「スリープ撃ってくるけど、対抗できるから」


 対ミスリルゴーレム、それでいいんだ!?


「待ってー、ボク、補正込みでRSTが70ないんだけど大丈夫?」

「えっ!?」


 彩花ちゃんの一言に、その場の全員が目を剥いて驚きの声を上げた。


「嘘、なんで!?」

「なんでって、まともに補正付いてるの草薙剣だけだし、防具はオリハルコン10%の安い奴だって言ったじゃん! RSTには補正入ってないよ」

「やべえ、俺の魔法で瞬殺できるじゃん!」

「安永蓮、おまえ後で殺す」


 その場は物凄く騒然とした。だって、アホみたいに強い彩花ちゃんがまさかそんな補正だとは誰も思ってなかったからさ……。

 いや、「ステータスによらない強さを持ってる」とは思ってたけど、彩花ちゃんの攻撃に関係してないRSTがそんなに低かったなんて。


「彩花ちゃん」


 そんな中、菩薩のような笑みを浮かべてママががしっと彩花ちゃんの肩を掴む。


「選びなさい。5㎝背が低い柚香の防具のスカートの方を着るか、9㎝背が高い蓮くんの防具のズボンの裾を折って着るか」

「な、なんですか、その究極の選択!! ちょっとゆずっちのあの可愛い防具は着たくないけど、安永蓮の防具を借りるのも嫌だ!」

「ワガママ言わない! 私の防具ですら総ヒヒイロカネでそれなりの補正は付いてるっていうのに」

「じゃあゆずっちママの防具の予備を借りる! これじゃダメ?」

「残念、さすがに私も1着しかないから毎日洗ってます」


 物凄い勢いで彩花ちゃんとママが言い争ってた……。


「ここを出たら、彩花ちゃんには総ヒヒイロカネの布防具を作るとして……そのくらいのストックはまだ換金しないでアイテムバッグに入ってるよね、ライトさん」

「うん、入ってる。ここを出たらすぐに法月紡績さんに持って行こう」


 何故か彩花ちゃんの意思が介在しないままで、颯姫さんとライトさんの間で彩花ちゃんの防具を新調する話が進んでるなあ。

 あ、でもヤマトを取り戻した後はここの攻略手伝って欲しいって言ってたし、ライトニング・グロウにとっても必要な先行投資ってことかな。


「というわけだから、明日だけ我慢して蓮くんの防具着なさい」

「やだーーーーーあああああああああ!!」


 彩花ちゃんの絶叫が、リビングに響き渡った。


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