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第276話 それぞれの強さ

 「よっしゃー! ドンドン行けぇー!」


 長い槍を振り回し、バス屋さんがモンスの集団の中に斬り込んでいく。

 通常のダンジョンの敵と違って明らかな連携を取ってくる感じはないんだけど、同じ種族が固まってると同じターゲットに集中攻撃をしてきがちなんだよね。


 そこを分断するように、私たちが倒しやすいように、バス屋さんとライトさんはモンスにダメージを与えつつ、ターゲットを分散させている。


 凄いな……私は今はまだ「倒すこと」で精一杯。そこまで広範囲を見ながら手加減して戦うことなんてできない。

 今はひたすら、刀を振るうだけ!


 そうして必死に戦っていたら、あれよあれよという間にフロアから敵が減っていって、私たちは僅か10分ほどでモンスターを殲滅してしまっていた。


 ……まあねえ。私がリセット前と同じくらいにステータス上がってるとしたら、蓮の魔力もそれなりに伸びてるだろうし、ママと彩花ちゃんは「ステータスに寄らずに強い」タイプだから。

 もちろんステータスも高いんだけど、格上相手でも最適解で戦う勘っていうのかな、そういうのを持ってるみたい。


「人数がいるせいもあるけど、思ってたより強いな。これなら相当……いや、午後は前倒しで60層に行こう。それと、見てて思ったことをできる範囲でアドバイスするけど、ゆ~かちゃんは周りを見すぎ。誰かサポートしようとか思わないで、Y quartetの主戦力は君なんだから、思いっきり戦えばいい」

「ええっ、私、そんなに周り見てました?」


 自覚はなかった……いや、彩花ちゃんとかママの戦いを確かに見てたわ。てことは、完全に癖になってるんだね!?

 主戦力は私、か。蓮も聖弥くんも強くなってるから、カバーに入る必要もなくなってきてるし、そういう意識の切り替えが必要だったんだ。


「蓮くんは距離とって魔法撃ってるだけで強いから、隙を突いて接敵されないようにだけ気を付ければいい。でもそれは聖弥くんがカバーしてたから、問題ないね。むしろ周りを見なきゃいけないのは聖弥くんだし、実際よく見れてると思う。遠距離を蓮くんが担当して近距離と蓮くんの護衛を聖弥くんが受け持って、ゆ~かちゃんとヤマトが遊撃っていうのがパーティーとしてのスタイルだから、それでいいよ」

「ありがとうございます!」


 ライトさんの言葉に、蓮と聖弥くんが嬉しそうにお礼を言った。聖弥くんは自分がどう立ち回るべきなのか悩んでたことがあるから、尚更嬉しそう。


「果穂さんと長谷部さんは……言うことないんでそのまま暴れまくってください」

「了解☆」

「はーい!」


 てへぺろするママと、元気よく手を上げてみせる彩花ちゃん……いや、そこのふたりは、ね。正規のメンバーでもないし、助っ人だから下手にパーティー運用に組み込めないんだよね。

 幸い単独で動ける強さがあるから、ライトさんの言うとおり「そのまま暴れまくってください」だよ。


「12時まで使っていけるところまで行きます。昼食後は回復のために風呂と昼寝。もっと戦いたいだろうけど、前倒しにしてるから大丈夫だよ。ここから出る頃にはLV50を軽く超えてると思う」

「そうそう、寧々ちゃんは経験値が集約できたけど、ここまで強くなかったから。こっちは頭数がいる分、敵をガンガン倒して稼げるよー」


 私が決して焦らないように、タイムさんとバス屋さんがフォローしてくれた。それに無言で頷いて、息を整えながら階段へ向かう。ここで10分の休憩だ。

 アイテムバッグからスポドリを出してみんなに渡して、私も……一気飲みしちゃった! 思ったより消耗してたんだな。

 もう1本飲んでおこう。油性マジック出してラベルに「ゆ」ってでっかく書いて、他の人のと混ざらないようにしておきつつね。


「ゆずっちー、チョコちょうだい」

「チョコね、はいはい」

「あ、俺も」


 アイテムバッグにはもちろん軽食になるものも入ってる。彩花ちゃんは本当に甘いもの好きなんだよね。

 蓮は、魔法使うと甘いものが欲しくなるらしい。なんだろう、「頭を使ったらブドウ糖」みたいな感じなんだろうか。


 ふたりにミルクチョコレートを渡しつつ、ママと聖弥くんにも一応差し出したらふたりはいらないそうで。その代わりにバス屋さんが嬉しそうに持って行った……。

 私もチョコは食べておこう。少しでも回復して、戦って、強くならなきゃ。


 LVアップすればステータスが上がって強くなる。それは当然の理論なんだけど、ステータス外の強さっていうのもあるんだよね。適切な戦術をとれるかどうかの判断力とか、ステータス上の数値に出なくても、筋トレすれば筋肉は付くし当然その分力は強くなる。


 聖弥くんがブートキャンプをしなかったことでステータスが伸び悩み、「ブートキャンプしない」って判断した自分を後悔してたとき、大泉先生がそういう説明をしてくれた。

 もちろん、ブートキャンプの方が圧倒的に効果はあるんだけど、ただ嘆いてるより普通の筋トレでもちゃんと効果はあるってね。


 蓮が今でも走り込みを続けてるのもそう。魔法職だし、将来的に俳優として舞台に立つことを目標としてるから、もうSTRは諦めたみたい。とはいえ、聖弥くんより成長率がいいからSTRも聖弥くんを抜きそう。

 ただ、ステータスとして現れる数値を抜きにしてもスタミナはいくらあってもいいから、それは蓮なりの冒険者じゃなくて未来の自分のためのトレーニングなんだろうね。


 そして聖弥くんは、盾を使いながら戦う練習を重ねてきた。癖の強いバスタードソードという武器も扱いながら。

 元々頭の回転が早いところに、装備のステータス補正のおかげでオールラウンダーだし、盾もあるから私よりも「ひとり突出して戦う」って戦い方には向いてない。できるけど、パーティーの中での役割としては向いてない。


 本当はさ、配信に必要な程度の強さがあれば十分なはずだった。

 でも聖弥くんは根っからの努力家だから、蓮みたいに何かが突出してる人と比べたらその分野は劣っちゃうけど、「クラスのみんなができて自分はできない」ことは許せないみたいなんだよね。

 きっと、ストイックな上にある意味欲張りなんだ。あれもこれも、ちゃんとできなきゃ嫌だ、みたいな。


 ステータスが低いなら、戦う技術で補う。

 演技の勉強もしてるから、学校でできるところは全部吸収するように。

 そういう努力を聖弥くんがしてきたことを、私は知ってる。蓮からも聞いたし、授業中にも聖弥くんの集中力が他の人とは全然違うのを見てた。


 10分の休憩を終えて、またライトニング・グロウの人たちに先にダメージを入れてもらいつつも敵を倒していく。


 ブンッと空気を切り裂く音が聞こえた。聖弥くんが振ったエクスカリバーが立てた音だ。

 時に片手で、時に両手で、聖弥くんはエクスカリバーを使いこなしている。切り裂くことに向いた刀身でデストードを両断し、刺突に向いた先端でマッドゴーレムの防御を貫いて関節部分を使えなくするような一撃を入れていた。


「ゆ~かちゃん! 周りを見るなって!」

「すみませーん!」


 だって、気になるじゃん。自分のパーティーメンバーが、どれだけ強くなったのか。

 今の私は自分だけ気にしてろって話なんだけどさ。


 村雨丸を一振りすると、私は力強く床を蹴って走り出す。「私らしい戦い」を、求められている役割を全うするために。


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