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第222話 角材を見よ

 高台は登ってみたらサッカーコートくらいの広さがあった。そこからまた下って、3層への階段がある。……これは、不人気ダンジョンにもなりますわ!


「不人気だけど稼げるし、そんなに特殊な攻撃をしてくる敵はいないんだ。毒くらいなもので」


 なんか私の表情から読み取ったらしく、ライトさんが弁解している。いや、ダンジョンを擁護しなくてもいい気がするけどね。

 こういうダンジョンが嫌な人たちは他へ行けばいいし、ここでも戦えるって人はここで稼げばいい。ただの棲み分けの話だと思う。


「でも私、嫌いじゃないですよ、不人気ダンジョン。周りに遠慮しなくて済むので」

「まあ、俺たちみたいなステータスがあればどこでもそれなりに、ね」


 肩をすくめてライトさんはちょっと笑う。

 うーん、ダン配してなければ、ライトさんの戦い方とかじっくり見たいところだよね。颯姫さんもバス屋さんも。


「はい、頑張って経験値稼いでねー」


 その颯姫さんは地面に角材立てたまま、蓮や聖弥くんが戦うのをニコニコと見てるし。ダメだ、この人基本的に「今日は護衛」ってつもりだから、あんまりモンスを倒そうという意思がない!


 結局高台の敵は私たちが一掃した。高台からよく見たら、ここを避けて階段に向かえる細い道があるんだけど、あれは通っちゃいけない奴だね。

 通ってる間に上から投石とかされたら逃げ場がない。誰かが上を殲滅した後なら通れるけど。帰りはあそこを通ろう。


 安全確認をする様に颯姫さんたちが先に下に降り、私たちが続く。2回目だから蓮も悲鳴を上げずに降りることができた。

 3層も2層と同じく、あちこちに小山がそびえる高低差マップ。中央に一際高い物見台みたいな場所がある。


「蓮、あそこに登って魔法撃ちまくったら?」

「簡単に言うなよー……」

「上がるときは私が投げ上げるし、降りるときは颯姫さんみたいにウインドカッター撃ちながら降りればいいじゃん」


 私が提案すると、蓮はちょっと考えて「よし」と頷いた。

 敵を倒しながら中央へ向かっていって、さっきと同じように高台を背にして待機。そして走ってくる蓮の足を手に載せて、ひょいっと投げ上げる。


「確かにここなら……やべっ! ファイアーボール!」


 蓮が慌てて魔法を撃つのが見えた。巨大な火の玉が向かった先は、飛んでくる石塊と、それを投げたとおぼしきエルダーゴーレム!


「そこはダメ! ゴーレムの投石、思ったより距離があるから狙われるの!」


 焦った颯姫さんの声に、私はやらかしたことを知った……。


「蓮、ごめんー! 受け止めるから飛び降りて!」

「いや、ゴーレムの投石くらいだけのはず。それから優先的に倒すから!」


 言うが早いが、蓮はゴーレムを狙い撃ちで倒し始めた。――と思ったら、急に飛び降りた!


「ミミズいた! うわー、焦ったー。そっか、奴ら土の中ならどこでも移動できるから」


 危なげなく着地した蓮は、「やればできるじゃん」って感じだったけど、私の方は土下座したい気持ちでいっぱいですわ……。


「ゆ~かちゃん、ちょっとカメラあっち向けてて」

「わかりました」


 颯姫さんの指示が来たのでカメラを高台とは別方向に向ける。そっちは聖弥くんがサソリの尻尾を盾で弾いて戦っている最中だった。


「どりゃあああ!」


 何をするのかと思ってたら、颯姫さんが小脇に抱えた角材を思いっきり振り回して高台を崩している! 凄い威力だー!

 ダンジョンで木を斬り倒してる私が言うことじゃないかもしれないけど、地形変えてる人初めて見たよー!


「ここ、あると邪魔なの。上をゴーレムに陣取られると石が飛んでくるし、自分が登っても攻撃の的になるでしょ? だからいつも先に崩しちゃってるの」


 その間にさっき上にいたミミズが襲いかかってきたから、颯姫さんは角材の先端でミミズの頭をどついた。頭を潰されて暴れるミミズを、バス屋さんが切り裂きまくってる。

 すぐ側に沸いたゴーレムも、破城槌の様に角材を抱えて突進していくことで一発KOだよ。ゴーレムよりもリーチがあるし、あの勢いで体の中心にぶつかられたら、下手すると突き抜けちゃうよね……。なんてアクティブな鈍器なんだ、角材……。


「魔術師、なんだよね」

「さっき魔法使ってたじゃないですかー」


 五十嵐先輩が顔を引きつらせながら私に確認してくるから、笑顔で答えておいた。

 STRいくつあるんだろうな……LVが凄いからMAGもかなり高いんだろうけど、あの戦い方はガチファイターのものに見えるんだよね。


「あっ、宝箱が出た! 開けていいよ」

「えっ? いいんですか?」

「赤箱だし、そんなたいしたアイテム出ないから」


 ミミズから出た宝箱を、五十嵐先輩が罠チェックする。そして、変な顔をしてそのまま鍵穴に針金を突っ込んで宝箱を開けた。


「罠仕掛けられてなかったよ。これはちょっと期待できないね」


 それでも、ただのドロップじゃなくて宝箱で出たってことは、それなりにいいアイテムのはずなんだけども……覗き込んだ宝箱の中は、銀色の指輪がひとつ。敢えて言うなら、猫の尻尾みたいにくるんとしたアシンメトリーなデザインで可愛いね。


「鑑定鑑定っと……『魔力の指輪』かぁ。死にアイテムだね」

「えっ? これ死にアイテムなんですか?」


『死にアイテムだな……』

『買い取りはそれなりにいいんだけど』


 コメントを見る限り、知ってる人が結構いるみたいだね。

 魔力が上がる指輪じゃないの? と思って私も鑑定してみる。結果、魔力の指輪は「魔力が上がる指輪」じゃなくて「LV10までの間の魔力の成長率を上げる指輪」だった。

 確かに死にアイテム! だってこの場の人間全員がLV10なんてとっくに過ぎてるもんね!


 私が低レベルの時だったら喉から手が出るくらい欲しかったアイテムだけど、実際問題低レベルの時にこういうアイテムを揃えられる人はまずいない。

 うん、とりあえずアイテムバッグに入れておこう。来年の1年生が使うかもしれないしね。


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