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第221話 ニンジャタイム

「ヤマト、ゴー!」


 手近なエルダーゴーレムに向かって、ヤマトにコマンドを出す。1回では言うことを聞いてくれなかったからもう1回やったら渋々アタックしてくれたよ。その隙に五十嵐先輩が魔石を回収して私のところへ持ってきてくれた。

 その真後ろ、先輩の死角になったところに、微妙な地面の盛り上がりが!


「はっ!」


 一瞬で五十嵐先輩との位置を入れ替えて、予測した軌道上に村雨丸を突き立てる。手応えあり!

 頭を刺されたサンドワームは、全身をのたうち回らせて大量に土をばら撒いた。そのかなり長大な全身を、村雨丸でスパスパと輪切りにしていく。なんか緑色の体液とか降ってくるけど、その時にはもう次の場所を切ってるから問題なし!


『手慣れすぎてる』

『マイエンジェル、かっこいいよぉぉぉぉ!!』

『サンドワームは暴れると結構厄介なのよな』


 コメントを見る余裕もあるね。うん、大丈夫。

 あれ系のモンスは暴れたら厄介ってのは、見たらわかるもんね。聖弥くんも手近なゴーレムを殴りながら蓮に指示を出して、上級魔法のアシッドレインで地中の敵をあぶり出してた。


「蓮、左後ろにゴーレム!」

「ファイアーボール!」


 蓮が右にステップを踏んでからファイアーボールを撃った。なんでだろうと思ったら、ファイアーボールで吹っ飛んだゴーレムが地響きを立てて落下して、頭を出しかけだったサンドワームが潰されてる。


『やりよる』

『聖弥の指示も的確だな』

『あのお荷物ふたりが立派になって……』


 ファイアーボールはライトニングと違ってノックバックがあるし、蓮の場合はそれもえげつない距離が出る。一瞬で後ろにいるサンドワームにも気づいて魔法の発動場所を調節したとしたら、結構な高等技術を身に付けたね。


「蓮、すっごい!」

「やったぜ!」


 思いっきり褒めたら、ガッツポーズしてた。クール系で売るつもりはもうないのかな。


「ウー! ガウッ!」


 ヤマトが牙をむき出しにして吠える。その前には何もないと思ったけど、ヤマトの吠えた声に反応したのか巨大サソリがこれまた地中から現れた。

 サソリも出るのか。念のため毒無効の指輪しておいてよかったよ。


 ヤマトに向かって威嚇してるサソリの後ろに回って、尻尾をすっぱりと切り落とす。その間にヤマトはサソリのハサミに噛みついて、食いちぎってた。


 ……もしかして、このサソリ、この状態で塩ゆでにしたら美味しかったりするのでは?


「ミレイ先輩、サソリってザリガニみたいですよね? これって塩茹で……」

「私は食べないよ! 茹でるお湯もないよ!」


 わあ、さすがお姉ちゃん。私の意図してることをまるっと先読みされていた。


「やべー、さすがベニテングタケ食べただけのことはあるわ。おもしれー。ダンジョンでサソリ実食するなら俺も呼んで」


 サソリの魔石拾って私に投げながら、バス屋さんが爆笑してる。いいのかな、思いっきり映ってるけど。


「映ってますよ、大丈夫ですか?」

「俺は平気ー。イエー」


 カメラに向かってピースするバス屋さん。この人も結構フリーダムだな。


「バス屋! 必要以上に散開しない!」


 即颯姫さんに怒られてるけどね……。


 事前に覚えてきたマップでは、3層への階段はちょうど1層からの階段の真向かいにあった。でも今の位置からは見えない。その間に丘? 段差? みたいなものがあるから。


「うおっ! 危ねえ!」


 上から大きな石が降ってきて、それを避けながら蓮が悲鳴を上げる。石が降ってきた方を見上げれば、エルダーゴーレムがこっちを狙って投石をしてきた。


「うわー、上級ダンジョンって感じするー! 今までのモンスと行動が違う」

「そうよ、敵も賢くなってるからね。さあ、どうする?」


 地上の敵は狩り尽くして、颯姫さんがニヤッと笑う。

 横須賀ダンジョンはホームグラウンドって言ってる颯姫さんのことだから、確実な攻略法があるんだろうな。


「どうしようか、蓮の範囲魔法を撃つのが一番の安全策かな」

「敵が見えないから、範囲が無難だよな」

「いや、うちのパーティーならではの安全策があるじゃん」


 範囲魔法を撃つ。多分それが颯姫さん的には正解なんだろうと思う。

 でもうちには、身軽で強くて機動力がある暴走ドッグがいるからね!


 私はマップの中央辺りにそびえ立つ丘に背を向けて立って、手を組んで腰を落とした。


「ヤマト、カモン!」

「ワンッ!」


 暴走犬Tシャツを着たヤマトが私に向かって走ってくる。そして私の手に飛び乗ったところで、私は思いっきりヤマトを上空に投げ上げた。


「あ、忍者が塀を越える奴だ!」


 私が何をしたのかに気づいて五十嵐先輩が声を上げる。そう、レシーブみたいにヤマトを打ち上げたんだよね。ヤマトも今回は意思が通じて、思った通りに動いてくれた。

 すぐに頭上から、ゴーレムが地面を叩いたとおぼしき重い音や、ヤマトのうなり声が響いてくる。


「次、聖弥くんね。聖弥くんが上がったら後続の安全を確保して。その後蓮で、蓮が上がったら範囲魔法で制圧しちゃって。ミレイ先輩を上げたら、私は自力で登る」

「了解!」

「お、おう……できるできる……降りれたんだから登るのは楽なはず……」

「私は大丈夫、去年のマスゲームで似たような事やったわ」


 五十嵐先輩だけが妙ににやついてますね……ていうか、去年のマスゲームで何をやったの!? 本当に体育祭が狂ってるなあ。


 ヤマトを打ち上げたときと同じように、聖弥くん、蓮、五十嵐先輩を次々とジャンプさせる。蓮がちょっと心配だったけど、軸がぶれることもなく綺麗に着地してた。五十嵐先輩は初めから受け身を取るつもりだったみたいで、転がっていくのがちょっとだけ見えた。


 さて、最後は私だけど、AGIにものを言わせて駆け上がるか! 幸い絶壁じゃないしね。

 助走を付けて一気に斜面を駆け上がる。途中からは手も使ったけど、なんとか勢いがなくなる前に高台に登ることができた。


「てやぁ!」


 一番近くにいたゴーレムを袈裟懸けに斬って倒す。多分、エルダーゴーレムって凄い固い敵なんだよね。村雨丸で斬ったときの手応えが絶妙なんだよ。

 ここのところのモヤモヤが、すっ飛んでいくなあー。

 ストレス解消に倒されたゴーレムは、魔石と赤く輝く拳大の鉱石をドロップした。


「えっ、ヒヒイロカネ?」


 驚いて思わず鑑定してみたら、やっぱりヒヒイロカネだった。エルダーゴーレムからドロップするんだー。道理で、なんか金属っぽい光沢があると思った。


「エルダーゴーレムは時々ヒヒイロカネをドロップするんだよ。うちの武器はそれで作って貰った」


 いつの間にか背後に来ていたライトさんが解説してくれた。そうか、金沢さんの話で颯姫さんの武器は伝説金属製ってことは知ってたけど、ここで集めてたんだ。


「だったら、もっと冒険者がいてもおかしくないのになあ」

「この高低差が、ステータスがかなり上がってないときついからね。だったら普通の上級ダンジョンで稼いで武器を買った方が早いって考える人が多いんだよ」


 なるほどなあ……私たちやライトニング・グロウの人たちはステータスが化け物だから、こういう高低差がさほど不利にはならないんだけど。

 確かに2層からこんな上り下りをさせられたら、ちょっと足を伸ばして江ノ島ダンジョン行った方がいいやって思うかもね。


 そういえば、ライトさんはどこから登ってきたんだろうと私が彼の後ろを覗き込むと、「頑張れば登れるよ」くらいの傾斜の坂があった。途中を大岩が塞いでたりするけど、そんなものは壊せばいいんだし。

 ああっ、そっちに先に気づいてたら楽だったのになあ!

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