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第220話 とっても横須賀です

「さすが上級……これは、擬似的清水寺ダンジョン体験」


 思わず呟いちゃったよね。清水の舞台から飛び降りないと入れないというふざけたダンジョンの代表格、清水寺ダンジョンのことを思い出して。


「ヒャッホー!」


 うわっ、長槍持ったままバス屋さんが崖を駆け下りていく!

 何この人、頭がシベリアンハスキーすぎる!


「ああやって駆け下りちゃうか、飛び降りちゃうのが早いよ。帰りはそっちの坂道を登ってくることになるけどね」


 カメラに映らない位置から颯姫さんがアドバイスをしてくれた。なるほどー。

 確かに、駆け下りて駆け下りられないって事はないかな……私はね。


「AGIとDEXが大体補正込みで150くらいずつあれば行けるよ」

「えっ……やば、私そんなにAGIないよ?」


 ライトさんが目安を教えてくれたんだけど五十嵐先輩が顔を青くしている。あー、補正が防具だけだから、65ずつ付いてるけどさすがに厳しいか。


「ミレイ先輩、これ使ってください」


 オリハルコン・ヘッドギアを外して五十嵐先輩に手渡す。これ、AGIとDEXに30ずつ補正が入るんだよね。ちょうどいいや。


「ありがとー。うん、AGIが148とかだけど、なんとかなるでしょ」

「私が先に降りて、抱き留めますから!」

「きゃー、妹が頼りになりすぎるー」


 キャッキャと騒いで、私と五十嵐先輩はハグし合った。


『本当にゆ~かは雄々しいよな……』

『こういうとき男ふたりは頼りにならんのよな、このパーティーは』


 視聴者さんからツッコまれて、蓮と聖弥くんは微妙な顔になった。


「いや、受け止めようと思えばできるけど、なんつーか、いろいろヤバくねえ?」

「ゆ~かちゃんが受け止めるのが一番穏便だと思うよ、僕も」


 それはそう。ステータス的にも心情的にも、私が一番安心だよね。


『周りに他に誰かいる? さっきヒャッホーって聞こえたけど』


「あ、ライトニング・グロウの人たちがいます。ダン配には出ないけど、今日は特別に近くで戦ってもらうことになってて」


『ああ、お化け対策か』

『ライトニング・グロウとな……横須賀の破城槌のところか』


 うーん、視聴者さんが鋭すぎる。訓練されてきたって感じだね。

 まあ、別に隠すことでもないんだけど、バス屋さんとかはいいとして、颯姫さんが角材で戦うところを映されるのを物凄く嫌がってるからね。


「バス屋が先に降りちゃったけど、この高台にいるうちに近くの敵は魔法で一掃するよ」

「了解です」


 颯姫さんが角材を地面にどんと立てたまま「ライトニング!」と呪文を唱えた。途端に柱の天辺から雷撃が飛んで下をうろついていたゴーレムに直撃する。

 なるほど、これは反撃されない方法だね。


 蓮がファイアーボール、颯姫さんがライトニングで付近の敵を掃討していく。それを見ながらライトさんが画角に入らない位置からぼそっと呟いた。


「ライトニング・グロウってのは、俺の名前から取ったんじゃなくて姫の魔法から取ったんだ。属性が雷だから」

「そうなんですねー。というか、颯姫さんっていろんな呼ばれ方してますね」


 バス屋さんはアネーゴと呼んでるし、タイムさんは「藤さん」、ライトさんは「姫」って呼んでる。不思議に思って尋ねたら、「ああ」とライトさんは肩をすくめた。


「俺たち元はMMOのギルメンでね。その時のキャラ名がタイムとライトとフジヒメなんだよ。実際は姫って柄じゃないけど、呼び慣れちゃったから直らないね」


 MMOのギルメン繋がりから、とんでもない高レベル冒険者になったのか……それはレアケースじゃないのかな?

 世の中にはいろんな繋がりでパーティー組んでる人がいるもんだなあと哲学していたら、彩花ちゃんが崖を駆け下りていった。

 うん、敵はあらかたいなくなってるね。ヤマトに魔石を貪られる前に私も行こう!


 崖はほぼ垂直……だけどいくらかは角度がある。彩花ちゃんやバス屋さんが先行したのを見たから、私も思いきって一歩を踏み出した。後は勢いで駆け下りて、半分くらいのところで飛び降りた。――着地成功!


 全く、体育祭の八艘飛びの後は鵯越ひよどりごえかと思っちゃったね。馬に乗ってないけど。

 ヤマトも私と一緒に降りてきて、早速転がってる魔石の方に走っていった。あー、食べられちゃうー。


「うわー、怖え」


 先に降りた私が手招きしてるのに、蓮は崖の上でガクブルしてる。というか、怖いと言うくらいなら急勾配の方を降りればいいのに。


「大丈夫、行ける行ける!」

「……よし、ステータス的には行ける! 大丈夫だ、やってやるぜ!」


 ……蓮のステータスって、補正だけでAGIもDEXも150越えてるんだよね。

 そこに素のステータスが載るんだから余裕だよ。過剰にビビってるだけ。


「蓮、ほら、頑張って!」

「うぎゃあああ!!!!」


 口では「大丈夫行ける」って言う割に動かない蓮を、聖弥くんが突き落としたー!

 必死で崖を駆け下りて、蓮はなんとか転びもせずに無事に下に着く。そのすぐ後に聖弥くんも危なげなく降りてきた。


「聖弥、おまえ、おまえ!」

「後がつかえてるんだよ。僕たちのパーティーが降りきらないとカメラがこっちに来ないし」


 涙目で聖弥くんに突っかかっていった蓮が、ド正論でバッサリ斬り捨てられている。

 その後五十嵐先輩も降りてきて、ちょっとオーバーランしちゃったところは私が抱き留めた。


「こ、怖かったー」

「もしかするとこのダンジョンこんなところばっかりかもしれませんよ。横須賀だし」

「ひえー、マップの意味がわからないと思ったらそういうことかあ」


 五十嵐先輩も事前にマップ調べてくれてたんだ。助かるなあ。


 後は颯姫さんとタイムさんとライトさんが上に残ってるけど、颯姫さんはひょいっと飛び降りて途中で真下に向けてウインドカッターを撃ってた。なるほど、反動で着地の衝撃を和らげるんだ。

 ライトさんとタイムさんも難なく降りてきて、本格的に2層の攻略が始まる。ここは分類的には荒れ地エリアになるのかな?

 出てくるのはエルダーゴーレムとかサンドワームとかそういうモンスターだね。


 エルダーゴーレムは中級に出て来たゴーレムの上位種。単純に強くなっただけ。サンドワームは地面から突然出てきたりする、装甲付きのミミズ。


 さーて、戦うぞー!

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