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第219話 横須賀ダンジョンは横須賀っぽかった

「LVに関しては他の人には秘密ね。私たちが今攻略してるダンジョンがあるんだけど、そこが特殊でね。LVは上がるんだけどドロップが一切なくて、普通の人はあんまり来ないんだ」


 助手席の颯姫さんが唇に指を当てて「他の人には言わないで」とジェスチャーで伝えてくる。

 へええ、特殊なダンジョンなんだなあ。そんなところあるんだね。聞いたことなかったけど。


「俺たちは配信には出ないで、あまり離れないで戦う様にするから」

「あ、ボクも。だから配信はY quartetと五十嵐先輩でいつも通りやって」


 ハンドルを握るライトさんの言葉に、隣の彩花ちゃんが同調した。

 それからすぐに車はダンジョンハウスに到着。ヤマトが「早く出せー出せー」とケージをカリカリしている。


「俺がヤマト見てようか?」


 興味津々でケージを覗き込みながらバス屋さんが言ってくれた。ヤマトは初対面の人でもフレンドリーなら大丈夫なんだけど。……バス屋さんの準備はいいのかな?


「着替えとかいいんですか?」

「面倒だからうちから着てきてる」


 コートをめくって見せてくれたのは、多分私たちと同じような伝説金属製の布防具だと思う。やっぱりいいよね、布防具。動きの邪魔にならなくてさ。


「じゃあお願いします。ヤマト、お兄さんが遊んでくれるって」


 ケージからヤマトを出すと、ヤマトは柴ドリル。そして「おいで!」ってしてるバス屋さんのところじゃなくて、彩花ちゃんのところへと走って行った。


「……ヤマト。こうして会うのは初めてだね」


 神妙な顔をしてしゃがみ込んだ彩花ちゃんの前で、ヤマトはビシッとお座りをして尻尾をぶんぶん振っていた。

 そうだ、ヤマトと彩花ちゃんは初対面……というか、茅ヶ崎駅から一緒だったけどヤマトを出せなかったからね。

 今日はヤマトの出せ出せアピールが凄いと思ってたら、彩花ちゃんに会いたかったのかな。


「いつもゆずっちを守ってくれてありがとうね」

「初対面の時めっちゃ引きずり回されたけどね」


 彩花ちゃんがヤマトの頭を撫でると、ヤマトはちぎれそうな勢いで尻尾を振った。ジェラシー!! ヤマトはうちの子なのに!


「じゃあ、着替えてくるからヤマトは遊んでおいで」

「ワン!」


 彩花ちゃんの言葉に一声鳴くと、ヤマトはバス屋さんのところへ行ってどーんと体当たりをして転ばせてた。ヤマトのそんな行動にもめげず、爆笑してバス屋さんはヤマトをわしゃわしゃしてる。


「じゃあ、着替えてこよー。……ゆずっち?」

「ずるいー! なんで彩花ちゃんの言うことはすぐ聞くの!?」

「うーん、ボクにとってはあれが見慣れたヤマトっていうか……まあ、ゆずっちの従魔なんだし、普段一緒に暮らしてるんだし、いいじゃん」


 むう……そりゃ、彩花ちゃんといくら因縁が深かろうが、今のマスターは私ですよ。

 私は自分をそう納得させて、更衣室に入った。


 横須賀ダンジョンの1層で、ライトニング・グロウの人たちからここのダンジョンの説明を受ける。事前に調べては来たんだけど、どうも地形が特殊らしくて平面マップではよくわからなかったんだよね。


「横須賀ダンジョンは4層から6層が海マップなの。できるだけ柚香ちゃんは海には近付かない様にして」

「? わかりました」

「6層までは小部屋は無し。ただし高低差が凄くあるから、モンスが突然高いところから降ってきたり、逆に深追いして高いところから落ちたりすると危ないから気を付けてね」


 颯姫さんの説明で納得がいった。そうか、高低差! ちょっとやそっとの高さから落ちても怪我をするとは思えないけど、危ないっちゃ危ないよね。


「じゃあ、武器装備して、配信そろそろ始めようか」

「オッケー」


 聖弥くんと颯姫さんがラピッドブーストとパワーブーストを掛ける。これが一番死に筋じゃないんだよね。


 五十嵐先輩は今日も初心者の服にサポーター用ゼッケンだ。

 ライトニング・グロウの人たちはライトさんがショートソード+バックラー。タイムさんはボウガン+バックラー。バス屋さんは……ちょい見覚えがあるなあ。笹穂槍って呼ばれるタイプの穂先が付いた、長い槍だ。


「……もしかして、蜻蛉切とんぼきりですか」


 笹穂槍で有名なのはこれしか知らないから聞いてみたら、バス屋さんはニカッと笑った。


「当たり~! 凄いね。さすがサンバ仮面の娘!」

「天下三名槍ねー。サンバ仮面さんは直接見てないけど、バレたら大変そう」


 そう言うと颯姫さんは、ライトさんから角材を受け取った。

 うわあ……本当に角材だ……どう見ても木。木目も綺麗に出てるし。でもこれって金属製なんだよね? 脳がバグるー。


「はい、私の武器。名前はそのまま『角材』」


 2メートルくらいの長さの角材で床をドンと突き、颯姫さんは「笑えるもんなら笑って見ろよ」というちょっとやさぐれた顔になった。


「強そう~」


 空気読まずに彩花ちゃんがケタケタと笑う。うん、そりゃ確かに強そうだけどね!


「強いよ! 殴って良し、突いて良し。魔法も撃てるし。これがまともな見た目だったら配信とかしたかもしれないんだけどね……」

「やろうよ、アネーゴ! 絶対ウケるから!」

「やらないよ! 何が悲しくて角材振り回してるところ世界中に見せなきゃあかんのよ!」


 バス屋さんはノリが軽いなあ……そして青筋立てた颯姫さんにめっちゃ怒られている。

 なんか、姉弟っぽいね。



「こんにちワンコー! Y quartetのダンジョン配信はっじまっるよー!」


 いつも通り明るく、私たちは配信をスタートさせた。

 前回があんな終わり方だったから、見てる人も消化不良だっただろうしね。


「今日のサポーターはミレイ先輩です!」

「どもどもー! 上級の経験値に釣られてやってきましたー」


 私と同じポニーテールでわーっと手を振る先輩の言葉に、草が生えまくるね。


『正直すぎる』

『こんにちワンコー!』

『たまにはネネちゃんキボンヌ』


「寧々ちゃんね。今上級の勉強中だそうです。今日なんですが、横須賀ダンジョンに来ています!」


『おっと意外。江ノ島に行くかと思ってた』


 その指摘は全く正しいね。家から近いし、凄く妥当な選択をしてたらそっちだったよ。

 でも今回は彩花ちゃんとライトニング・グロウの人たちという護衛付きなんだよね。言わないけどさ。

 あの女の子が来たら、何かしらの形で決着着けてしまいたい。


「じゃあ、さっそく2層に降りて行こうと思います。――うわっ」

「なんだこれ!」


 1層から2層への階段は5段くらいだ。とても短い。それを降りて私と蓮は思わず驚きの声を上げた

 短い階段を降りると、3メートルくらいの幅の地面があるけど、私たちは崖の上にいた。

 よく見ると、かなり急勾配で降りられるところはあるんだけど、近場は崖だね。


「なるほど、横須賀……」


 ダンジョンハウスで車を降りたときに、海の方を見たときの景色ととても似てるわ……。


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