蓮と聖弥くんが合流してきてから、五十嵐先輩のお姉さんに会った話とか、オーラの話とかをしながら休日の電車に揺られて横須賀へ向かう。
横須賀ねえ……イメージは、海辺だけどすっごい高低差のあるところって感じ。横浜もそうだけど、それ以上。
パパの会社の人が横須賀に住んでてお呼ばれしたことがあったんだけど、物凄い坂道を登っていくし、駐車スペースは急勾配だしでビビりまくった思い出があるよ。
北茅ヶ崎駅とあんまり変わりがない感じの馬堀海岸駅に着いて外に出ると、すぐ向かいの商業施設で颯姫さんが手を振っていた。
「柚香ちゃん、おはよう!」
「おはようございます! 今日はよろしくお願いします」
とりあえず、面と向かって顔を合わせるのは初めての人もいるから、自己紹介タイムになった。私と蓮と聖弥くんは配信でも見られてるから名前を言っただけ。
ライトニング・グロウは軽戦士・槍使い・魔術師・エンジニアのバランスのいい4人パーティーだ。
リーダーの鈴木
魔術師は言うまでもなく「横須賀の破城槌」こと藤堂颯姫さん。魔術師兼ファイターっていうちょっと変わった戦い方をするらしい。
槍使いは背が高くて割とイケメンの、この中では一番若くて大学生くらいに見える人。名前は……よくわからないな。颯姫さんが「バス屋」って呼んでるんだよね。
「あ、俺
矢橋さん――いや、バス屋さんは自己紹介してニカッと笑った。うん、イケメンだけどチャラい系のイケメンだ。蓮とは系統が違うね。
そしてボウガン使いでダンジョンエンジニアの「タイムさん」こと
そういえば、誰も武器を持ってないなあ。やっぱりここもアイテムバッグ持ってるんだろうな。
「タイムさんの人畜無害そうな見た目に騙されちゃダメだよ。すっごい腹黒だからね」
「腹黒四天王仲間が何か言ってるけど気にしないで」
タイムさんと颯姫さんが笑顔でお互いを牽制してる。腹黒四天王……って。4人しかいないのに?
「腹黒四天王ってのはうちのパーティーの別名でね。僕と藤さんがトップの座を争ってて、ライトさんは弱々、バス屋は四天王でも最弱なんだ」
「そうそう、時々七並べで腹黒王決定戦をしてるの。タイムさん強くてさ!」
「わあ、楽しそうですね」
うちの腹黒王子が笑顔で混じっていく……。七並べかあ、確かにあれって性格出るよね。
「えーと、そろそろ行きません?」
ひとりだけそわそわしてる彩花ちゃんが私たちを急かした。あっ、彩花ちゃん自己紹介してないじゃん!
「すみません、紹介が遅れましたけど、うちのサポーターの五十嵐美鈴先輩です……って、鎌倉ダンジョンの時に一度お会いしてますよね。こっちは私のクラスメイトで長谷部彩花ちゃん。ダン配には出ないけど、護衛的に一緒してくれることになって」
「うん、ミレイちゃんは前にも会ったし文化祭の時にも会ったね。それと長谷部さん――強いね、これなら問題なさそう」
彩花ちゃんを見た颯姫さんが、すっと目を細める。わあ、高LV冒険者になると見ただけで相手の強さわかっちゃうの?
「今、アネーゴが見ただけで相手の強さわかったとか思った? 俺わかんないからね。アネーゴが特別なだけだよ」
頭の後ろで手を組んだバス屋さんがすっごいお気楽そうに言う。颯姫さんだけ特別なんだ……。
「あ、じゃあそろそろ車出そう。バス屋、後ろ見てて」
「オッケーでーす」
車? 近くに停まってないけど……と思ったら、ライトさんがアイテムバッグから白いワゴンタイプの車を出した!
そっか、アイテムバッグって大きさ無関係だからそんなものも入れられるんだ!
「駐車場気にしなくていいから、かなり便利なんだよ。大きさも関係ないから、こんなでかい車も持てるし」
私たちが凄い驚いてるのを見て、車のキーをくるくると指で回しながらライトさんが笑う。
これは確かに便利! パパのキャンピングカーが納車されてきたときも、アイテムバッグにしまっちゃえばいいんだよね! そうしたら余計な駐車場契約しなくて済むし。
「横須賀ダンジョンって……確か
「うん、道は直接繋がってないけどね。回り道して、確かに位置的には走水神社の裏の方になるかな」
颯姫さんの説明を聞いた彩花ちゃんは、気が重そうにため息をついた。
「彩花ちゃん、大丈夫? 来てくれって言ったのは私だけど、無理しなくても」
「ううん、大丈夫だよ。ゆずっちやさしー!」
がばっと彩花ちゃんが抱きついてきた! それを見てバス屋さんはヒューって口笛吹いてるし、蓮は青筋立てて彩花ちゃんを引き剥がしに掛かる。
「長谷部、コラ。俺の前でいい度胸だな」
「アアン? 泥棒猫の分際で何言ってるんだか。おまえらだけじゃ頼りないからボクも来たんだからな?」
お互いに殺気バリバリの言い合いに、ライトニング・グロウの人たちが引いている。しょうがないから説明するかー。
「えーと、配信でも言ったんですけど、私と蓮が最近付き合い始めて……それで、彩花ちゃんは前世の私の夫らしくて、今でも私のことを好きなんだそうです」
「なんという修羅場」
「前世ねえ……どれどれ? ああ、本当だわ。なんか一部が繋がってる」
彩花ちゃんと私を凝視した颯姫さんが、ぎょっとする様なことを言った!
えええええ、もしかしてこの人も霊能者なの!?
「わ、わかるんですか?」
「弱い繋がりだと見えないけど、かなり強いから……。んん? ゆ~かちゃんの色、なんかどっかで見たことある気がするわ。……あっ、まずったかなあ、横須賀ダンジョンなら私たちの庭だから想定できる危険からは守れると思ったんだけど。……却って危ないかも」
颯姫さんの声は最後は小さくなっていてよく聞き取れなかった。
10人乗りのワゴンに、どやどやと乗り込む。こんなに大きい車って必要なさそうに思えるけど、今回みたいに2パーティーだったりするときには10人乗りのこのワゴンがいいそうで。
私は真ん中辺りの列に、右を彩花ちゃん、左を蓮に挟まれて座っていた。
もちろん両手はそれぞれに握られてる。
「おい、長谷部、彼氏の前で堂々と人の彼女の手を握るなよ」
「友達だから握ってるだけですぅー。そっちこそ、人目も気にせずベタベタすんな」
「うひー、大学時代にも見たことない修羅場!」
何故かバス屋さんがすっごいテンションアゲアゲで振り向いて観察してくるね……。
「柚香、こいつに何か言ってやれよ」
「バス屋さんっておいくつなんですか? 若いですよね」
蓮が言外に「彩花ちゃんをどうにかしろ」と言ってくるけど、私が口を出しても今度は彩花ちゃんが同じ事を言ってくるだけだから放置。私の両手が自由きかないだけだから、面倒だしこのままでいいや!
「俺? 俺は22だよー。19の時に初めてダンジョン入ってさ、ダンジョン舐め腐ってていきなり上級行ったあげく速攻死にかけて」
「う、うわ……いきなり上級ですか? 装備は!?」
「普通の服と、その辺にあった棒。いやー、運動神経には自信あったからさー。で、あとちょっとで死ぬってところをアネーゴに助けられて。一緒にダンジョン入った奴らは二度と入らなかったんだけど、俺だけアネーゴにくっついて回ってライトニング・グロウに入れて貰ったんだー」
「わしが育てた!」
助手席から、突然オタク用語で颯姫さんが叫ぶ。そうか、颯姫さんが育てたんだ……。
「それまではちょくちょくメンバーの入れ替わりもあったんだけど、バス屋が入ってからはずっと固定だから助かってるよ。実際強いしね」
「ちなみに、みなさんLVいくつくらいなんですか?」
「公表してないけど、今回は護衛ミッションだしLVなら教えてもいいかな……私が84で、一番低いバス屋が72だっけ」
「ひょっ……」
私の喉から変な声が出た。私だけじゃなくて、五十嵐先輩も聖弥くんも変な声出してた。
超ベテランの毛利さんがLV60台だったよね!? それより高いって!