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第217話 ダン配の朝

 朝起きて、こっそり冷蔵庫を開けて中級ポーションを一気飲み。

 うん、黄色いドリンクの味だなあ。

 ……結局3時間も寝られなかったんだよね。


 今まで傷の治療以外のためにポーション飲んだことなかったんだけど、これは効く。しょぼしょぼしてた目もシャキーンとしたし、いつもの朝と何も変わらないコンディションになった。


「ヤマト、今日はダンジョンに行くんだよ。嬉しい?」


 起きた私に付いて来てたヤマトにリードを着けて訊くと、ぴょんぴょん跳ねて「楽しみ!」っていい笑顔をしてる。

 いつも通りにランニングして、公園でちょっとフライングディスクで遊ぶ。そしたら、いつも会うお姉さんが柴犬を連れて散歩に来た。


「おはようございます! わあ、柴だー」

「おはようございます。いつもは妹が散歩してるんだけど、今日は私なんだ」


 ヤマトとお姉さんの柴犬は挨拶をして、お互いふんふんと匂いを嗅いでる。ヤマトはじゃれつこうとしてるけど、力加減が心配だから一応押さえておいた。

 前に「家族以外には触らせない犬」って聞いてたから、近くにしゃがんでみるけど無理に手を出そうとはしない。


「この子名前はなんて言うんですか?」

「モモっていうの。……そのー、今更だけど、柚香ちゃんにヤマトちゃん、よね?」

「はい。……ええっ?」


 ヤマトを当てられることはそんな珍しくない。私もときどき「あっ、ゆ~かだ」って言われることもある。

 でも、今「柚香ちゃん」って言われたよ!


「ちょっと前に気づいたんだけど……ああ、私の名前、五十嵐涼香すずかっていうの。妹は美鈴」

「あーっ! 五十嵐先輩のお姉さんだったんですかー!」


 なるほど納得! お姉ちゃんのお姉ちゃんだ! 道理で犬好きで、家で柴犬を飼ってるわけだよ。そうだ、五十嵐先輩初対面の時に「うちの柴犬は渋い性格」って言ってたわ!

 めちゃくちゃ繋がったー!


「今日はダンジョンに行くんでしょう? 気を付けてね」

「はい。あの、先輩にはいつもお世話になってて可愛がってもらってて、ご家族の方に言うのは変かもしれませんけど、すっごい感謝してます」

「うふふ、美鈴ったら末っ子だから妹欲しいって小さい頃から言っててね。柚香ちゃんのこと本当に大好きなのよ。家でもよく聞くの。体育祭の後に美鈴も出てた配信があったでしょう、あの時にいつも会ってるあなたが柚香ちゃんだって気づいたんだけど、言いそびれちゃって」


 うっ、今喉元まで「お姉ちゃんって呼んでもいいですか」って出かけたぞ!

 涼香さん、今までも優しそうなお姉さんだなあって思ってたけど、凄くいい人だ。

 話してる間、モモちゃんは「ご主人は私が守りますぞ」みたいな顔して涼香さんの横にビシッと立ってた。うん、ヤマトとは違う性格。


 少し一緒に遊んでから挨拶をして別れて帰宅したけど、今日のダンジョンエンジニアは五十嵐先輩だから、涼香さんのためにも無事に帰ってこなきゃね。


 今日の集合は私と彩花ちゃんと五十嵐先輩が茅ヶ崎駅。蓮と聖弥くんが藤沢駅で合流する。そこから大船で横須賀線に乗り換えて久里浜へ。更に京急に乗り換えて馬堀海岸という駅へ。

 ライトニング・グロウの人たちとはそこで合流する。電車で行くからヤマトはケージの中。ケージ慣れはしてるんだけど、さっきからくーんくーんと甘えた声で「出して」って訴えてるなあ。


「あれー、長谷部さんじゃん。ダン配出るの?」


 駅に彩花ちゃんがいるのを見て五十嵐先輩が驚いてる。彩花ちゃんはテンション低く「護衛です」と言った。


「前回みたいにお化けが出たら嫌なので。あいつ明らかにゆずっちに危害加えようとしてるから、ちょっと離れたところを付いていきます」

「わー、いつも通り愛が重いねー」


 さらっと先輩は流してるけど「愛が重い」って核心を突いてるよね。


「あ、どうしよう。私と柚香ちゃんって似てるから、私が間違えて狙われたりして!?」


 はっと口を押さえて五十嵐先輩が言ったことに、私はドキリとした。

 そうだよ、私と五十嵐先輩は「ゆ~かがふたりいる」「見ててバグる」「姉妹じゃないの?」って言われるくらい似てるんだよね。

 どうしよう、先輩が危ない目に遭ったりしたら……。


「あ、それは大丈夫です。オーラの色が全然違うから、見間違えようがないっていうか」


 彩花ちゃんが極々当たり前のことの様に、手をひらひらと振って否定する。

 ……オーラの色が違う? 初耳ですが!


「えーっ、何色!? 私何色?」

「五十嵐先輩はオレンジ色。極普通の色」

「あっ、極普通って言い方、なんか棘がある!」

「にゃー! ごめんなさーい! 明るくていい色ですよぅ」


 もみ合いをしてるふたりを見て、私はそっと安堵の息を吐いた。


「よかったー。五十嵐先輩が私と間違えられたら、危ない目に遭うかもしれないもんね。それは私嫌だし」

「ゆずっちはさー、天真爛漫で何も考えてなくてただ前に突き進んでる様でいて、すっごい周囲の人たちに対して自己犠牲が強いんだよね。一度身内認定するとめちゃくちゃ甘いしさ。見る人が見ればオーラでもそれはわかっちゃうよ」

「そうなんだー」


 さすが彩花ちゃん、前世から私を知ってるってだけあるわ。自己犠牲ってところはちょっと違うと思うけど、手の届く範囲の人たちのことは私ができることならできるだけ助けたいって思ってるよ。

 今のところ、「自分を犠牲にしてでも」ってところまでせずに、どうにかできちゃってる感じだけどね。そうだ、最初に蓮とユニット組むってことになったのも、割と人によっては自己犠牲に見えるのかも。


 そんなこんなで話していたらすぐに電車は藤沢駅に着き、開いたドアの目の前に蓮と聖弥くんが立っていた。思わず全員で顔を見合わせて微妙な顔になる私たち。


「……なんでいんの?」

「既視感! いや、階段降りたところなんだよ、ここ」


 相変わらず行動被るなと思っていたら、そういう理由があったのか。納得。

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