目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報
第211話 デートっぽくないデートです

 ダッフルコートを買ったお店で本当に他の人たちと別れて、私と蓮はふたりで地下街をぶらぶらしていた。


「さっきのコート見なくていいの?」


 蓮がいいなって言ったけど、今回のMVとは関係なさ過ぎてあいちゃんと滝山先輩に速攻却下されたダッフルコートのことを持ち出してみる。

 あれは一瞬蓮が不憫になったもんね。


「んー……今コート足りてるから別にいいや。見てかっこいいなと思っただけだし」

「そっかー、今欲しいものとかあるの?」

「あ、そうだ。スニーカー欲しい。すぐダメになる」

「わかる。私も買っておこう」


 走り込み凄いから、靴がダメになりやすいんだよね。普通科だとローファーとか履いてる人が多いけど、冒険者科はみんなスニーカーだよ。


 ふたりで大手チェーン店の靴屋さんに入って、スニーカーを見る。紺のスニーカーを手に取ったところで、蓮がハッとした。


「そういえば、さっき足下スニーカーとか言ってたよな。いかにもなスポーツブランドのスニーカー買っといた方がいいか?」

「あー、マークがでかでかと入ってる奴ねー。白に紺のラインの奴とかがいいんじゃない? 一応あいちゃんに聞いとく?」

「うん、無駄な買い物したくないから頼む」


 スニーカーはあればあるだけ履くけどね。そして履きつぶす。それが冒険者科。


「26.5……これで大丈夫かな? 26があんまり履けなかったんだよな……」


 あいちゃんにスニーカーのデザインについてメッセージ送って確認してる間に、蓮が靴を持って悩んでる。そっか、足のサイズがまだ大きくなってるんだ。


「まだ足成長してるんだ?」

「26が半年しか履けなかった。身長も伸びてるのはいいんだけどさ。そういえば、柚香の靴ってサイズいくつだ?」

「23.5だよ」

「ちいさっ」

「身長相応ですー」


 あいちゃんとかれんちゃんが24で、彩花ちゃんが24.5だったなあ。この辺は一緒にボウリングとか行ってると覚えるんだよね。


「初デートが靴選び……」


 スニーカーを持ったまま蓮が遠い目をしてる。そうか、初デートが靴選びか……。あまりに冒険者科すぎない?


「蓮が自分で靴欲しいって言ったんだよ?」

「だよな……悪かった」

「別にいいよ。あっ、あいちゃんから返信来た」


 あいちゃんの返信で、ピンクとか金色とか悪目立ちする奴じゃなければ普通のでOKだって指示が来た。蓮が横から覗き込んで画面を見て、ぴきっと青筋を立てる。


「普通に考えて俺がピンクとか金色とか選ぶわけないだろ!」


 夕暮れの砂浜を、制服の上にダッフルコート着て、ピンクのスニーカーで歩く蓮……その絵面は面白すぎるんだわ……。どんなに真面目な顔してても、足に視線が向いちゃう奴だよ。


「じゃあさ、俺が柚香のスニーカー選ぶから、柚香は俺の選んで」


 ちょっともじもじしながら蓮が提案してくる。うわあ、急にデートっぽいよ!


「うん、そうしよう。蓮っぽい奴で高校生がいかにも履いてそうで……走りやすい奴がいいよね?」

「それは俺も思った。デザインもだけど機能の方が大事なんだよな、俺たちの場合」


 うーむ……「これ可愛いー」とかキャッキャした感じにならないね。説明じっくり読んでメーカーとシリーズを選んで、その中から気に入ったデザインを探す感じ。

 仕方ないか、靴だしね。


「これとかどう?」


 蓮が選んできたのは、白ベースにベージュのラインが入って、差し色にオレンジが入ったスニーカー。真っ白だと凄い汚れが目立つから、このくらい色が入ってる方がいいんだよね。

 差し色オレンジっていうのもいいな。私っぽい。


「結構可愛い! 裏はどうかな……おー、ちゃんとエアが入ってる。幅も良さそうだし、履いてみよう」


 椅子に座って試し履きをしてみる。幅もちょうどいいし、立って歩いたりジャンプしてみたりすると、踵と足首のホールドがいいのがわかるね。


「バッチリだよー。これ買うね」

「はー、よかった。柚香っぽいのを選んだつもりだけど緊張したわ」


 蓮があからさまにほっとしている。服より靴って選ぶの難しいかもなあ。選択肢も少ないし。


「蓮のは……どうしてもこういうイメージになっちゃうんだよねー」


 ありきたりだけど、有名なスポーツメーカーのスニーカーで、紺色に白い靴紐、横にバーンと水色のメーカーロゴの入った奴。白い靴紐でなけなしの高校生感を演出しました! って感じ。

 見た目は凄くオーソドックスだけど、踵がちょっと分厚くてクッション性がある上にエアも入ってるから衝撃吸収性能が良くて、撥水コートもされてるから汚れも落ちやすい。

 あとね、靴底の部分が最新ので減りにくいらしいんだよね。最近の蓮はめちゃくちゃ走ってるから、サイズアウトしない限りできるだけ長く履けそうなものにした。


「ちょっと高いけどね-」

「どれどれ……ひえっ。高校生がスニーカーに出す値段じゃない」

「ただし性能がめちゃくちゃいい」


 値段にビビりつつ蓮は試し履きをして、ジャンプしながら「おっ」と驚きが表情に出てた。


「すげー。軽いしクッション性が凄いある。めっちゃ走りやすそう」

「でしょでしょ? あと耐久性が凄いらしいんだよね。蓮の足がまだ大きくなるならサイズアウトするかもしれないけど、それまで潰れずに履けそうなのがいいなって」

「……履けなくなっても取っておくわ……」


 なんか感動してる蓮が、これ買いますと店員さんに言ってレジに向かった。私も選んでもらったスニーカーを持ってその後に付いていく。


「アクセサリーとか見なくていいのか? アイリとか見に行ってんじゃね?」


 さりげなく私の分まで靴を持ってくれながら蓮が尋ねる。確かに、靴を買っただけだとあまりにデート感がない。


「アクセサリーかー。なんか邪魔に感じて付けないんだよね」

「……毒無効の指輪は付けるのにな」

「そうだね!? でもあれはなんか別枠だよ。アクセサリーじゃなくて実用品」

「わかった、邪魔にならない奴ならいいんだな」


 そう言うとすたすたと蓮は近くのアクセサリーショップへ入っていった。大人が付ける感じのじゃなくて、いかにも高校生が好きそうな感じの、お値段可愛め商品が並んでるお店だね。


「よし、ペアリング買おうぜ」

「ペア……さては浮かれてるね?」

「浮かれて悪いかよっ」

「うーん……あ、これ可愛いー」


 私が可愛いと言ったものを見た蓮は、ちょっとがっくりしてた。うん、これピンキーリングだもんね。

 ピンクゴールドっぽい地金に、宝石じゃなくて多分スワロフスキーの小さいのが5個並んでる奴。これくらいなら邪魔にならないし、スワロフスキーもピンクや黄色がカラフルで可愛い。


「これお揃いにする?」

「単純に入らないだろ。……あと、デザイン」


 まあね、私が小指に付ける分にはいいけど、蓮が付けるには可愛すぎて二度見必須だよ。――と思ったら、私の選んだ指輪のすぐ側にある、土台がシルバーっぽいものを蓮が取り上げた。そっちは私のと違ってクリアや青のスワロフスキーが嵌まってるね。

 なるほど、それならペアになるか。サイズは致命的だけど。


「チェーンも買ってネックレスにしよう。そうすればお揃いだろ」

「あはは、そうだね。ぱっと見わかんないし」


 蓮は私の小指からピンキーリングを抜き取ると、自分で選んだものと一緒にレジに持って行った。あ、買ってくれるつもりなんだ! うわっ、デートっぽい!


「買ってくれるの?」

「このくらい買うよ。上級ポーションより安いし」

「確かに!」


 ふたりでレジの所で話していたら、レジのお姉さんが私たちの顔をまじまじと見ていた。


「ゆ~かちゃんと蓮くん……?」

「そうですー。バレちゃった。てへっ」

「バレるも何も、隠すつもりゼロだし」

「本当に付き合ってるんだ、なんか感動ー。これ、付けていきますか?」


 感動されちゃった。というか、割と私たちのことを知ってる人ってあちこちで会うんだね。神奈川だから余計かな。


「付けていきます」


 蓮がきっぱり言うと、お姉さんはにっこり笑ってタグを切ってくれた。

 チェーンにピンキーリングを通して蓮が自分の首に掛けている間に、私は右手の小指にリングを嵌める。

 うわあ、お揃いだあ。

 毒無効の指輪もお揃いだけど、あれとは違って自分たちで選んだ「お揃い」だ。なんか嬉しい。


「お揃いだねー。凄く可愛い」


 お姉さんが小さく拍手してくれて、蓮が満足そうに「どうも」と言う。うん、蓮のは蓮っぽいし私のは私っぽいし、それでお揃いだからいいよね。

 一応ネックレスは制服の中に隠したけど、買い物に満足して私たちは手を繋いで帰った。


コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?