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第204話 記憶にありません

「彩花ちゃん、これ」


 次の休み時間に、私は回ってきた手紙を彩花ちゃんに見せた。


「なんで手紙? LIMEで送ればいいのに。先生に見つかったら怒られるよ」

「なんでって……そりゃ、こうできるからだよ」


 彩花ちゃんは私の手から手紙を受け取り――ビリビリと破いてからゴミ箱に捨てに行った。

 証拠隠滅! た、確かにLIMEはログが残るけど、手紙は処分しちゃえば残らない。彩花ちゃんが聖弥くんみたいな事をするとは思わなかったから、意表を突かれちゃったよ。


「ちょっと教室出よ。まあ、雑談だと思ってさ」

「うん」


 私を連れて教室を出た彩花ちゃんは、廊下側の教室の壁にもたれかかった。あ、そんな近くでいいんだ。


「ちょっとだけ、考えて欲しかったんだ。前世の記憶をゆずっちが信じるかどうかって」

「前世の記憶……」


 うーん、ourtubeでもそういう動画が上がってるのはサムネでちらっと見るけど、興味を持ったことはないんだよね。

 蓮と知り合うまでは目に見えないものの存在って、自分にとっては無いも同じだったし。


「そういうのがあるって言ってる人もいるし、生まれ変わり自体はあるんじゃないかと思うけど……それを自分のこととしては考えられないっていうのが近いかな」

「どうして?」

「そりゃあ……私にはそんな記憶とかないもん。ママも言ってたよ。3歳までは胎内記憶とか前世の記憶とかしゃべる子が割といるらしくて、私が何をしゃべるか楽しみにしてたけど特にそれらしいことは何もなかったって」

「あ、これ根本的にボクが間違ったかも……」


 私の話を聞いて、彩花ちゃんは頭を抱えてうんうん唸り始めた。


「確認だけど、ゆずっちはボクの武器が何だったか覚えてる?」

「彩花ちゃんの武器は剣だよね。持たせてもらったらいかにもな剣だなあって思ったよ」

「名前は?」

「彩花ちゃんから聞いてないし、鑑定もしてないからわかるわけないじゃん?」

「そーーーーーーーーーだよねぇぇぇぇ」


 彩花ちゃんはずるずると背中を滑らせて、廊下に体育座りをした。頭を抱えたままでブツブツ言ってる。封じてるとかなかったことにされてるとか、ごにょごにょと。


「うーん、話していいのかわからない。またゆずっちが倒れたら嫌だし」

「ねえ、ダンジョンハウスで倒れたとき、直前に彩花ちゃんと何か喋ってたのは覚えてるんだ。私が倒れたのって、前世に関することなの? それに彩花ちゃんが関係してる?」

「うーーーーー」


 私が尋ねると彩花ちゃんは更に唸る。こんなに悩んでるのは見たことないな。

 彩花ちゃんがうんうんと悩んでるのを見守ってたらチャイムが鳴ってしまった。弾かれた様に彩花ちゃんは立ち上がる。


「ごめん、ちょっと考えさせて。ボクの考えてた前提条件が間違ってたっぽい」

「さっぱりわからないけど、彩花ちゃんが話せそうになるまで待つよ」


 話せ! って言ったところで本人が嫌なら話さないだろうし、彩花ちゃんが話さないのは私を心配してのことだもんね。


 あの時、私は多分自分が覚えてる以上のことを彩花ちゃんとしゃべったんだろうな。そして、それを忘れてる。

 それは多分今話に出て来た彩花ちゃんの武器のことなんじゃないかって推測はできるけど。

 剣の名前……うーん、天叢雲剣あめのむらくものつるぎとか草薙剣くらいしか知らないな。あ、ここのふたつは同じ物か。

 草薙剣? またまたー。三種の神器のひとつがなんで神奈川の女子高生のところに出て来ちゃうのよ。まあ、聖弥くんのエクスカリバーも大概だけどさ。

 ママに聞いたら剣もいろいろ出てくるんだろうけどなあー。

 あ、もうひとつ知ってた。白山吉光。でもあれって小さいんだよね。彩花ちゃんの持ってた剣とは全然違う。


 ――結論。わからぬ。


 まあ、そのうち彩花ちゃんが話してくれるでしょ。

 そう思って私は授業に集中することにした。



 お昼休みは、彩花ちゃんは気づいたらいなくなってた。またスナフキンしてるよ。

 でもさっきの様子だと、ひとりで考えたいこともあるんだろうな。


 かれんちゃんとあいちゃんと一緒にお昼を食べて、かれんちゃんに「昨日LVめちゃくちゃ上がった」って話をしたら羨ましがられた。


「やっぱ凄いよね上級は。確かにワンフロア全滅させたけどさー。LV7も上がるって思わないじゃん」


 うほほほっと笑いながら、あいちゃんがダンジョンアプリでステータス開いてうっとりしてる。

 横からひょいっとその画面を覗く。そういえばあいちゃんのステータスって、本当に低レベルの頃しか見たことなかったんだよね。


平原愛莉 LV27

HP 183/183

MP 62/62

STR 47

VIT 50

MAG 20

RST 17

DEX 90

AGI 55

スキル 【クラフト】【初級ヒール】【初級補助魔法】【中級補助魔法】

ジョブ 【クラフトマン】


「わっ、ジョブクラフトマンになってる! 凄っ!」

「フリークラフトができたときに付いたよ。だからうちのクラス全員クラフトマンになってるよ」

「そうなんだ!?」


 一番厳しいって言われてるクラフトマンのジョブが取れたってのは凄いなあ。

 蓮のやり方、「安永式」って言われてあちこちでやられ始めてるみたいだし。

 アイドルとは関係ないところで実績打ち立ててるよね。


 ……と気づいたらあいちゃんの後ろに聖弥くんが立っていた。あいちゃんのステータスを覗き込んだままで固まってるけど。


「うわっ、聖弥くん何してるの!」


 慌ててあいちゃんがスマホを隠す。やっぱり、乙女的にはステータス見られたくないんだなあ!


「……アイリちゃんの方がステータス高いから驚いちゃって」

「そうなの?」


 聖弥くんは油の切れたロボットみたいにギギギ……と動いて自分のスマホを取り出した。


由井聖弥 LV31

HP 134/134

MP 53 /53

STR 37

VIT 36

MAG 37

RST 38

DEX 35

AGI 36

スキル 【初級補助魔法】【中級補助魔法】【上級補助魔法】

ジョブ 【サポートメイジ】


 た、確かに……MAGとRST以外は全部あいちゃんが高いわ。HPもMPも、特にSTRが高いってショックかもね。

 って、今気づいたけどジョブ付いてる!


「聖弥くん、ジョブ付いたんだ!」

「うん。昨日LVが上がって上級補助魔法が取れる様になったから取ったんだ。そうしたらサポートメイジってジョブが付いて」

「ステータス補正付かなかった?」

「付いたよ。MP+5と、MAGとRSTとAGIに+1ずつ……」


 うっ、ジョブのステータス特典があれば特色が出るかと思ったけど、「サポートメイジ」だもんなあ……。高いMAG必要ないし、申し訳程度に付いてる感じ。

 結果として勇者ステータスの形がちょっと変わった程度にしかなってない。


「なんでこんなに低いの? なんか私ゴリラみたいじゃん」

「由井くん、ブートキャンプしてないでしょ。これが一般の人のステータスの伸び方だよ」


 首を傾げたあいちゃんに、かれんちゃんが答える。

 そう、聖弥くんは「一般の冒険者」的なステータスの伸び方をしちゃってるんだよね。聖弥くん以外は、LVが10になるまでに結構な特訓をしたから伸び率はいいんだよ。


「愛莉はゴリラじゃん? 布団も投げたし昨日はヘビも叩きつけてたし」

「あれは不可抗力! かれんちゃんだって武器持ってないところにヘビが来たら絶対やるよ!」

「聖弥くん……あんまり悩まない方がいいよ。専業冒険者になるんじゃないんだし、冒険者じゃない人と比べたらスタミナも力も全然違うからさ」


 あいちゃんはクラフトマンになるんだし、DEXとMPはいくら高くてもいい。

 でも私今でも多分カバの突進とか止められるから、これ以上ステータスを伸ばしても特にメリットはないんだよね。

 敢えて言うなら、ライオンを猫づかみで運べる様になるかな、程度で。


 でも、ダンジョンにはもっと行きたい。

 Y quartetの活動をすることで蓮と聖弥くんの助けにもなるし、ヤマトと一緒に大暴れしたい。


 だから、次のダン配彩花ちゃんが出てくれればいいんだけどなー。

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