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第200話 何かが違うダンジョン攻略法 

 あいちゃんが一生懸命猫を被って言い訳をしてるけど、コメントは「ハイハイ、猫家出中ね」って感じに流して相手にしてくれない。

 いやー、私もヘビをぶんまわして叩きつけるとか、まさかだったよねー。


「だってだって、いきなりヘビが来て焦っちゃったんだもん! 本当だよ!」


『焦った結果本性が出たんだよな』

『舐めんなって言った時の眼光の鋭さに震えた』

『強いアイリちゃんもかっこいいよ!』


「うううー」


 ……なんというか、日頃からしょっちゅう白猫家出させてるから、もう視聴者さんも素の状態を知りすぎてるというか。

 これは信じて貰えないのは自業自得だよね。というか、うん、私から見てもあれはただの素だよ。


「ごめんねアイリちゃん、イノシシの対応に手一杯で」

「あー……しょうがなかったというか、うん。聖弥くんが悪いわけじゃないよ」


 いつもと違うなあ……。聖弥くんはいつも通りなんだけど。

 でも、ヘビは木の上にいることが割とあるから、今みたいに斬り倒した結果どんどん降ってきたりするのは問題だね。 


「蓮、フロストスフィアで範囲凍らせちゃうのはどうかな」

「範囲か……あ、いい魔法がある。使ったことなかったけど使ってみよう」

「ゆーちゃん! 本当に予備の武器ないの!? この際初心者の剣でも構わないよ!」


 素手でヘビをぶん投げるよりは、初心者の剣で殴った方がまだいいと思ったんだね……確かにあれも補正+3だから、「ないよりはマシ」だけどさ。


「うーん、ミスリルダガーならあるけど、あいちゃん普段ダガー使ってないじゃん? アンデッド特効だけどここのダンジョンだとどうかなー、リーチも短いし」

「ないよりマシ! 貸して」


 あいちゃんの目が怖いので、アイテムバッグからミスリルダガーを出してあいちゃんに渡す。

 ちょうどその時蓮が、木々に向かって魔法を撃った。


「スリープ!」


『スリープ使えるのか、さすがだな』

『スリープって初級? 中級?』


 メジャーじゃない魔法にコメント欄が混乱してる。

 スリープは、ジョブウィザードになったら習得できる魔法なんだって。基本的に攻撃魔法の初級中級上級は、ダメージを与える魔法ばっかりでこういうデバフ系はなかったんだよね。


 ちなみに、蓮の補正込みのMAGにRSTで抵抗できれば効かないタイプの魔法だけど、蓮のMAGが300近いからねえ……。

 ヤマトも抵抗できないし、もちろん私と聖弥くんも無理。はっきり言ってアグさんクラスじゃないと競り勝てない。


 蓮みたいに補正が凄いウィザードじゃないと、死に筋の魔法ではある。効果が出る対象がシビアだからね。

 その代わり、範囲は広いし一度眠ったら簡単には起きない。そういうチートな魔法なんだよね。


 蓮の使ったスリープが辺りに広がって、木の上からボタボタとヘビが落ちてきた。


「ウィンドカッター!」


 そして、ザクザクと伐採……すると、まあどうでしょう!

 視界が開けてみたら、地面には、ぶっ倒れて寝てるアルミラージとかキラーマンティスとか、ゴロゴロしてるじゃないですか!


「これならアイリも不意打ちされないだろ」

「ありがとう蓮くん!」


 うん、なけなしの猫を被ったままのあいちゃんのお礼に、蓮が変な顔をしてるね。

 そして蓮はスリープを掛けまくり、私と聖弥くんとあいちゃんはモンスに止めを刺して回る。

 村雨丸ならともかくさ、ミスリルダガーでさくっとカマキリを真っ二つにしてるあいちゃんは、そういうところが猫かぶりとして詰めが甘いというかさ。


 アルミラージは一瞬マユちゃんのことを思い抱いて手が止まったけど、ここにいるのはただのモンスで、イノシシやヘビと変わらないんだと自分に言い聞かせて息の根を止める。

 はあ……可愛いモンスは嫌だね。特に哺乳類系は心に来るよ。


『上級がこんな簡単に攻略されていいのか?』

『こいつら普通じゃないから。蓮の魔法は世界でもかなり上位だろ』

『ヤマトとゆ~かも強いしな』


 もはや「眠ってるモンスを倒す簡単なお仕事」と化したダンジョン攻略に、困惑する声が流れていく。

 私とヤマトはそりゃ強いよ。でも基本的に1体しか相手にできないから、蓮の範囲魔法がこういうとき本当に強力なんだよね。


 そして約1時間後、諏訪ダンジョン2層は丸裸になっていた。

 木はありったけ斬り倒され、小部屋になっていたところもぜーんぶ伐採済み。

 見通しが良くなったフロアで、たまにリスポーンするモンスがいるからそれを倒すだけ。


「どうしよう、下に行く?」

「木を斬り倒すのが面倒だよな。ここで戦うか?」


『見たことないものが見たいとは思ってたけど、ここまでしろとは言ってないw』

『これって、諏訪の神様に怒られたりしない案件なの?』

『諏訪大社は近いけど、神様とダンジョン関係ないだろw』


「神様に怒られ……あっ」


 そういえば、前に倉橋くんが「ダンジョンには意思がある様に感じる」って言ってたなあ。

 その場合、私たちって即敵認定されるよね……。


「どうなんだろ。今までランバージャック稽古ではダンジョンに怒られたみたいな話しは聞いたことないけど」


『ランバージャック稽古……どういうネーミングだ』

『人によってはダンジョンには意思があるっていう人もいるよ』

『とりあえず、近いんだし帰りにお諏訪様にお参りしてこいよ』


「そうしますー。で、あそこに3層への階段が見えてるけどどうす…………うわっ!」


 どうする? と訊こうとして私は思わず声を上げてしまった。

 3層への階段と私たちのちょうど中間、誰もいなかったはずのところに女の子が立っていたのだ。


 白いワンピースに、顎のラインで切りそろえられた黒々とした髪の毛。――江ノ島ダンジョンで見た、あの子!


 その女の子は裸足のままですたすたと私たちに向かってきて、声を発した。


「――我が主よ。何故、そのような者に仕えていらっしゃるのですか」


 我が主……誰!?



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