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第192話  お祭りが終わる

「な、何をいきなり暴露してんのよっ! バカー!」


 私が焦って叫ぶと、教室の中がざわめいてその場にいた人の視線がこっちに集中してきた。


「………………おめでとう?」


 首を傾げるあいちゃん。なんで疑問形なんだ。


「付き合ってなかったんだ、そこ」


 須藤くんは驚いてるけど、驚くポイントが違う気がする。


「なんで安永、宣言してんの」


 宇野くんのツッコミに蓮が私と繋いだ手を高々と上げる。何このポーズ!


「俺、立場上スキャンダルとかまずいじゃん。だから、最初から隠さない方がいいと思ったんだ。数は少ないけどファンもいるし、その人たちも相手が『ゆ~か』なら納得してくれると思うし」


 蓮の説明に、教室中のクラスメイトがいろんな顔をする。単純に面白がって「おおー」って顔をしてる中森くんとか、思いっきり顔を引きつらせて卒倒寸前の彩花ちゃんとか――柔らかく笑って私たちを見てる倉橋くんとか。


「そしたらこいつ、別れたら別れましたって報告するのかって言うんだよ。付き合い始めて数秒で、別れたときのこと想定するか? ていうか、もっと俺を信じて欲しいだろ。だから! まずクラス中に宣言して俺の覚悟を見せることにした」

「確かに覚悟必要だよね、いろいろ」


 かれんちゃんがぼそりと呟いたけど、「柚香の彼氏とか大変そう」って言葉が続いたのを私は聞き漏らさなかったぞ!


「おめでとう、よかったな」


 そんなことを言って拍手したのは倉橋くんで、全然悲しそうな顔とかしてなくて。

 蓮は私の手を離すと、倉橋くんのところへ駆けていって思いっきり抱きついた。


「倉橋、ありがとう。おまえがしてくれたこと忘れない」

「おい、柳川! 彼氏思いっきり浮気してんぞ、男と!」

「そ、そこはいいの!」


 浦和くんが変なこと言うから、私は慌てて「違う」と手を振った。

 倉橋くんの拍手が呼び水になって、何人かが拍手する。その波はすぐクラス中に広がって、みんなが拍手してくれた。――約一名を除いて。


「ゆずっち、安永蓮のこと選ぶの? やっぱりボクじゃないの?」


 私に歩み寄ってくる彩花ちゃんはもう泣き出していて――彩花ちゃんの「好き」って、他の女の子が言う「好き」とはちょっと違う気がしてたけど、やっぱりそうだったのか。


「彩花ちゃんのことは友達として好きだよ。でも、恋愛として好きになったのは蓮なんだ。ごめん」


 なんでこんなこっぱずかしい告白をしなきゃいけないんだろうと思いながら、彩花ちゃんの目をまっすぐ見つめて話す。


「なんで……なんで……なんでボクは女に生まれちゃったんだろう」


 彩花ちゃんは両手で顔を覆って泣き始めた。

 今更だけど、彩花ちゃんって制服のスカートとか嫌がったことないし普通に女の子してる様に見えたけど、内面は男なんだろうか。……それにしては何かが違う気もするけど。

 そう、それにしては執着が私にだけ向いてるからだ。男子は男子同士仲良くしてることも多いのに、男子に対して当たりがきつい。


 いずれにせよ、デリケートな問題であることは確かだから、口出しするつもりはないんだけど。


 中森くんが「チューしろー!」とか叫んでたけど、蓮が「見せもんじゃねえよ」って黙らせた。

 その辺で先生が「そろそろ静かにしろー。HR始めるぞー」って割り込んでくれたからやっと騒動は収まった。


 ――確かに、学校内でもわりと付き合ってる人たちっているけど、いろんなところからバレてたりオープンだったりするから、下手に隠すよりはそっちの方が後々のダメージは少ないのかな。

 何より、「隠してたことがバレる」のはマイナスイメージになりがちだけど、最初からカミングアウトしてたらダメージにはならない。

 あー、嫌だな、私あんまりこういうこと考えるの向いてない。ママ――には相談したくないし、聖弥くんに相談するしかないかな。

 うん、聖弥くんなら「隠すべき」って判断しても蓮を説得できるだろうし、それがいい気もしてきた。


 私はまだ赤い頬を押さえつつ自分の席に着いた。

 こうして、文化祭は終わりを告げた。



 一応、うちのクラスの文化祭打ち上げは代休になる明日なんだよね。カラオケなんだけど。だから今日のこの後の時間は特に予定が詰まってるわけじゃない。

 今日はボイトレ遅れるって連絡をママにして、蓮と聖弥くん、そしてあいちゃんと一緒にファミレスへ。あいちゃんはourtuberとしての視点が欲しいからって聖弥くんが声を掛けてた。


 もう堂々と私の隣に座る蓮を見て、あいちゃんが面白がってる。聖弥くんはにこやかだけど、それは蓮が私の隣にいると自分があいちゃんの隣に座れるからだね。


「正直、配信者としてはどうしたらいいかわからない」

「俺は次の配信ででも宣言するつもりだけど」


 早速私と蓮の意見が食い違ってて、聖弥くんはカフェラテを一口飲んだ後で考え込んでしまった。


「私はあんまり、告知するのは賛成じゃないなー。成人してるならともかく、高1じゃん? 早いって言われたりとか、アンチに下世話な想像させる種を与える様なもんだし」


 あいちゃんはシビアだね、でも私もそれに近い考えなんだよね。


「次の配信って……ベニテングダケだよね?」


 聖弥くんは凄く深く考えてる様に見えたけど、飛び出してきたのはそんな言葉だった。

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