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第188話 この先の道

 11時になると張り紙効果で大会議室は女の子がたくさんやってきた。例の彩花ちゃんファンである。

 彩花ちゃん、執事服も似合ってるんだよね。タキシードベースに艶のある灰色のベスト、それにやはり艶やかな黒いタイをキュッと締めてて、ある意味花婿っぽいの。

 そりゃあ女の子がキャーキャー言うよ。服装的には割とファントムに近い物があるし。


 だけど私が着ると「アリスの白ウサギ」になっちゃうんだよね……開き直ってママの懐中時計借りてきてポケットに入れている。あいちゃんとねねちゃんには好評だった。


「写真だけ撮りたい人は注文しなくても大丈夫ですよー」

「ボディタッチは許可を取ってからにしてくださーい」

「どうする? 腕組む? それともお嬢様に跪いて手を取ろうか?」


 私たちが口頭注意をしてるのに、彩花ちゃんはノリノリで跪いて、白手袋をした手で女の子の手を取って手の甲にキスする振りしたりして。

 それは、執事のやることじゃない気がするな!


 でも効果抜群というか、すっごい悲鳴が上がって、見てた方がひとり倒れました。なんでやねん。

 手の甲にキスする振りで写真撮ってもらってた子は、真っ赤になった顔を押さえながら過呼吸になってた。


「お姫様抱っこもできるよー。ボク、そこらの男子より力あるからね」

「じゃ、じゃあ、お姫様抱っこで……!」

「オッケー。……どう? お嬢様」


 そこでお姫様抱っこしたまま顔近づけて囁くなし!! 抱っこされてる人は限界の悲鳴上げてるし、周り中全部討ち死にしてるから!!


「長谷部さんの殺傷力高すぎるわ」

「だねー。私はああいうファンサービス無理だよ」


 顔を引きつらせる柴田さんと頷き合う。

 彩花ちゃんは女の子相手には本当にサービスいいんだよね。男性相手には塩対応だけど。だけどその塩対応がいい! って言ってる男性がいて、ヤバい扉開いちゃったんだねって思わず遠い目になった。


 彩花ちゃんの撮影会を、お茶を飲みに来たお客さんたちも興味津々で見ていた。相手に触らなければ写真だいたいOKですよと説明すると、大体須藤くんか倉橋くんか宇野くんが呼ばれて写真撮ってる。

 蓮と聖弥くんも時々指名されるんだけど、彼らは現役アイドルで校内では知名度があるので別枠なんですと説明すると、すっごい驚かれるね。その後納得されるまでが1セット。


 12時ちょうどから私の方の撮影会も始まったんだけど、モブさんたちも戻ってきたし長田先輩たちも顔を出してくれた。


「私も写真お願いしていい?」


 ワクワクしながら長田先輩に言われて断れるわけがないよね。いいですよーと言うと、長田先輩は一緒に来た実行委員の人にスマホを渡して私とのツーショット写真を撮った。


「やった! お兄ちゃんに自慢してやるんだ。うちの兄、ゆ~かちゃんファンなの。50万再生の次の日にサザンビーチダンジョン前でヤマト触ったっていつも自慢するから、これを見せて地団駄踏ませてやる。ふふふっ」

「えーっ!? あの場にいた人なんですか!? ヤマト触れたって事は私が助けてもらった人の中にいたんですね! ゆ~かがお礼言ってたって伝えてください」

「うん、伝えとくね。すぐに私と学校一緒だって気づいて、本当に悔しがってたから」


 長田先輩は3年生だから、お兄さんは大学生くらいかな。そっかー、あの時サザンビーチダンジョン前にいた人の中に先輩のお兄さんが。不思議な縁もあるもんだね。

 忘れられないな、6月4日。前の日にヤマトと出会って、ダンジョンに行ったら蓮と聖弥くんがいてシーサーペントと戦ってて。

 今はシーサーペントなんて蓮だったら一撃だけど、あの頃は戦う方法すらなかった。半年近く経って、随分いろいろ変わったよ。


 ……そういえば、ヤマトって半年経ったけど大きくなってないな。

 こういうときに普通の犬じゃなくてモンスターの一種なんだって思い知るね。


「このお茶柴田さんが淹れたの? 凄ーい、味が家で飲むお茶と全然違う」

「女装メイド&男装執事喫茶っていうからもっとイロモノなのかと思ったら、喫茶の方は本格的だね」


 3年生の先輩も飲み物とクッキーのこだわりを褒めてくれて、こだわって良かったって思ったり。


 長田先輩と写真を撮った後は、モブさんと瑠璃さんと藤堂さんとも抱き合って写真を撮ったりした。彩花ちゃんとは違ってひとりしか悲鳴上げてなかったけど、みんな喜んでくれて良かった。

 モブさんは私と蓮と聖弥くん3人と一緒に写真撮りたがったから、13時ぴったりに一緒に撮影したり。……そうか、それがあるから私とSE-RENが時間繋がってたのか! 柴田さん凄いなー。


「この写真は家宝にして、でっかくプリントして部屋に飾っておくね」


 3人揃った写真を眺めながら、しみじみとモブさんが呟き、蓮と聖弥くんに「やめてください」とツッコまれていた。


「ええっ、こんなに美人な蓮くんと聖弥くんに、こんなに可愛いゆ~かちゃんなのに!」

「いつか文化祭の出し物じゃなくて、舞台のポスターにでかでかと載ってやりますから」


 言ってる蓮の顔は真顔だ。

 ママから聞いたんだけど、最近聖弥くんと蓮の間でボイトレにも差が開いてきちゃってるんだって。

 聖弥くんはテレビや映画に出る俳優を目指してて、蓮の夢はミュージカル俳優。もうそこの道は完全に重なり合ってないんだよね。もちろん、ミュージカルメインに出てる俳優でもテレビドラマに出ることもあるし、その逆もあるけど。でも、基本的に歌えないとミュージカルはやってられないし。


 だから聖弥くんはボイトレは基礎的なことがマスターできたから、演技の勉強をしたいみたい。それに対して蓮はもっと歌とダンスを練習したいから、もうしばらくママのレッスンを受けるつもりだって。

 それを聞いたとき、なんか寂しい様な、ほっとした様な変な気分になった。


 まだ当分SE-RENはSE-RENだし、多分高校卒業するくらいまではY quartetは名前だけでも存続すると思うけど、案外別れの時って早いのかもね……。それこそ、ジューノンのボーイズコンテストとか入賞しちゃったら一気に流れが変わるだろうし。


「柚香、もう一枚一緒に写真だって。……柚香?」


 蓮に声を掛けられて、慌ててそちらに笑顔を向ける。いけないけない、なんかぼーっと考え事しちゃってた。センチメンタルなのは秋だからだよね。


 13時からのSE-RENの写真撮影会は、思っていたよりたくさんの人が来た。

 女性も、男性も。

 うーん、これはどう考えたらいいんだろう。SE-REN人気? それとも、女装がクオリティ高いから?

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