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第186話 文化祭2日目

 学校帰りに駅ビルで頼まれたとおりの買い物ができて一安心。

 正直ちょっと心配だったんだよね。輸入物のクッキーとか在庫が限られてそうだから。なんとかそれも同じ価格帯の他の商品を混ぜることで量を確保。

 ベルギー王室御用達の美味しい奴だから、味は私のお墨付き。ママが好きで時々家にあるんだよね。


 カフェ併設のお茶屋さんで足柄茶を買い込んだり、食品フロアで他のジュースやコーヒー豆を買って……。


 あれ、私何か大事なことに気づき掛けた気がする。

 ふと立ち止まって考え込む。えーと、コーヒー紅茶、ジュースのペットボットルに足柄茶……ああっ、そうだ!


「あいちゃん! ティーポット足りる!?」


 私は慌ててあいちゃんに電話を架けた。あいちゃんは3秒くらい考えて「足りない!」と叫ぶ。


『今日だけでもギリギリだったもん! あとふたつ、いや、でっかいのがあればそれでもいいけど』


 やっぱりねー! あいちゃんも声がそわそわしてて、ちょっと焦ってるのが電話越しに伝わってくる。


「あ、じゃあ金子くんにも聞かなきゃ! ドリッパーとサーバー買い足して、コーヒー淹れる人も増やさないと駄目じゃない?」

『金子には私から連絡入れとく。誰か捕まえてコーヒーの淹れ方特訓しとけって。聖弥くんが写真撮影で抜けたら絶対ヤバいよ。フィルターとかも買い足しといて!』

「りょうかーい」


 さすがにこうなると駅ビルでは揃えきれないね……。まあ、駅の周りには大型スーパーや家電量販店もあるから大概その辺でなんとかなるけど。


 そして実際なんとかなったので、新しいティーポットと大型のドリッパーとコーヒーサーバーをアイテムバッグの中に入れて帰宅。……したところで気づいちゃうんだよね! ティーコジー! あいちゃんに今から電話して縫ってもらうか!?


「ユズ、おかえり。また出てくの?」


 一度ただいまと言ったきり玄関で考え込んでしまった私に、何かあったのかとママが顔を見せる。


「あ、ママ。ただいま。いやー、明日喫茶店拡大することになって足りない資材とか買い出ししてたんだけど、ティーコジーがないことに気づいちゃってさ。あいちゃんちに持ってって縫ってもらおうかと」

「そんなの私が縫ってあげるわよ。出してサイズ見せて」

「さすがママ!」


 持つべき物はコスプレイヤーの親だね!

 私が大きいティーポットを出すと、ママはすぐに大きさを測って部屋に引っ込んでいった。うわ、鶴の恩返しっぽい。

 少しして、ドドドドドっというミシンの音が聞こえてくる。素早いな……。ティーコジー自体はそんなに難しくないにしても、迷いなく作れる裁縫のスキルが凄い。私には絶対無理な奴。


 あいちゃんとやりとりしつつ現状の確認とかしたけど、金子くんは家も近い千葉くんを捕まえてこれから特訓することになったって。

 柴田さんは学校のでっかい急須を使ってお茶淹れてたから、そっちは大丈夫そうだな。数もあるしね。



 翌日、14時からが家族席なことと、場所が大会議室に移動になってることを伝えて登校。いつもよりちょっと早めに行ったけど、既に教室に結構な人数が登校しててびっくりだよ。

 あ、そうか、メイクする人もごく一部いるもんね、そりゃ早く来るか。


「昨日頼まれてた物買ってきたよ。クッキーが同じ種類で数揃わなかったから、別のも買ってきてる。あと席数増やした分ティーポットとかが足りなさそうだから、コーヒーと紅茶のセットはひとつずつ増やしたよ」

「さすやな! 感謝!」


 既に執事服に着替えてる柴田さんの返事が雑ぅ。

 必要な道具は昨日のうちに大会議室に持ってっちゃってるから、支度は楽だね。

 私も今のうちに着替えてこよう。


 そして文化祭2日目の幕が上がり……なんで開始と同時に既に列ができてるの? 在校生の特権って奴かー!

柴田さんには長田先輩の整理券を届けに行ってもらって、たまたまそこにいた私と蓮とで整理券配りをする。……というか、昨日蓮が18回ナンパされたとか言ってたけど、女子が蓮を見て結構ひそひそ話ししてるんだよね。


「イケメンって女装しても美女なんだ……」


 聞こえてきた一言に、思わず吹きそうになって肩が震える。

 蓮は聞こえなかった振りをしてるけど、多分ふたりとも考えてたことは一緒だよね。

 聖弥くんっていう実例があるからさ、イケメンも女装するだけじゃなくてそれなりにメイクしないと美女にならないんですよね……。


 席数を増やしたおかげで、一般のお客さんが並び始める頃になっても席はまだ余裕有り。今の時間の席は埋まってるけどね。


「長谷部さんと写真撮りたいんですけどー」


 同じ上履きを履いた1年生の女子がちょっともじもじしながら教室を訪ねてきたので、彩花ちゃんと写真撮りたい人は11時からですよと伝えて出直してもらう。なんか昨日も来た人だったらしくて、「いる時間がわかって良かった」って言ってた。


 昨日の反省を踏まえてるから、今日は昨日よりもお客さんの捌き方とかが効率よくなってる。冒険者科ってこういうところは徹底してるんだよね。

 そして、開店から30分ほどした頃にモブさんたちがやってきた。

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