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第184話 長田先輩

 クラスの意見も集まって、「明日はできればもっと広い教室を使って規模を拡大したい」という事になった。

 シフト増やしたくないって人は無理しないで、「喫茶店の仕事してるのが楽しい」って人は増やすって形でね。もちろん私は、明日はクラスの方にずっといるつもりだよ。今日の午後が空くから、文化祭をぶらつくのはその時でいいや。


 柴田さんは意見をまとめて、文化祭実行委員長の長田先輩のところへと緊張しながら向かい、10分ほどして泣きながら帰ってきた。

 たまたま私と写真撮りたいって人がいたから私とかれんちゃんで対応してたんだけど、撮影してすぐ柴田さんと一緒にバックヤードへ。


「どうしたの!?」

「怒られた?」


 私とかれんちゃんが心配して尋ねると、柴田さんは首を振り、くたくたとその場に座り込んだ。


「長田先輩に……すっごい褒めてもらった。涙出た」

「ええっ!?」


 柴田さんを感動で泣かす長田先輩って何者なの!


「もう、ほんとリスペクト。事務処理も凄いできるし、すっごい優しいし、長田先輩が委員長で良かったよぉ」


 そして私たちは柴田さんからやりとりのあらましを聞いたんだけど――。


 実行委員長の長田先輩は、事前に今年の文化祭は来客数が増えるかもって予想してたみたいだ。私の投稿を見たのがその予想の切っ掛けだったみたい。

 朝最初に全体の見回りをしたときに、うちのクラスに列ができかけてたから、心配してたそうだ。須藤くんが絡まれた件も報告入ってきてて、もっと早めに対応指示できなくてごめんねって言ってくれたとか。自分が行くと怒られるかもって柴田さんをビビらせるかもしれないから、五十嵐先輩に頼んで様子を見に行ってくれるように手も回したりしたらしい。


 そして、柴田さんの整理券配布の手際を褒めて、「凄くいいアイディアだから、明日以降混みそうなクラスは事前に整理券作っておくことにしよう。アドバイスノートにも残しておくね」とその場で引き継ぎノートに書き込んでくれた。


 もちろん、明日規模を拡大したいっていう申請も受理してくれて、実行委員が予備に使ってた大会議室を使っていいと言ってくれた。この大きさを使うクラスがなかったから念のため実行委員会でキープしてただけだから、って。

 明日うちのクラスは「開催場所移動しました」って張り紙をして、生徒の休憩場所にすればいいらしい。パンフレットはこれから訂正文を作って配布の時に挟み込んで対応してくれるそうで、至れり尽くせりだね。


「凄っ、完璧じゃん」

「顔も見てないのにファンになる」

「いや、顔知ってると思う。シンデレラだよ、橙組の」


 あーっ! それは確かに顔知ってる! えっ、あのシンデレラが長田先輩なの!? 美女じゃん! 美女で優しくて事務系もできるって完璧では!?


「お祭り大好きなんだって。体育祭実行委員と文化祭実行委員を掛け持ちしてて、あと合唱コン実行委員もやったって言ってた」

「学校行事フルコンボ系……」

「そこの掛け持ちできるんだね」


 私なんか委員会何もやってないけど、クラブの掛け持ちならともかく委員会ってそんなに掛け持ちできるんだ。

 たしかに、合唱コンは5月だったし、体育祭と文化祭も時期が被らないから掛け持ちできるかもしれないけど。……凄いなあ。


「とりあえず、今日終わったら反省会しよう。柳川さんたちはそろそろ交代だから着替えてきていいよ」

「わかった、柴田さんもちゃんとお昼食べないと駄目だよ」

「大丈夫。私だって冒険者科なんだから」


 不敵ににやりと笑う柴田さん。うん、頼りがいあるね。柴田さんが3年生になったら、長田先輩みたいな対応が出来る様になったりするんだろうな。……案外、長田先輩もそういう先輩を見て過ごしたのかもしれない。



 あいちゃんは寧々ちゃんと紅茶係を交代。わたしとあいちゃんとかれんちゃんは女子更衣室で制服に着替えて校内を見て回ることにした。


「うわ、本当に売り切れ出まくってる」


 フランクフルトも肉まんも売り切れだ。ここのクラスは明日の材料前倒しにしなかったんだろうな。お昼に食べようと思ってたんだけどなー。


「茶道部行ってお抹茶飲もうか」

「お腹減ってるときに飲むとやばいよ。先に何か食べよう」


 あいちゃんのなんか説得力あるアドバイスで、とりあえずジュースと焼きそばをゲット。あ、そうだ。


「やきそば、あと3人前ください」


 やきそばは多めに買ってアイテムバッグへ。本当に便利だよね、このバッグ。

 飲み物も多めに仕入れて、私はあいちゃんとかれんちゃんをひきつれて被服室へ向かった。


「長田先輩いますかー」

「はーい、何かトラブル?」


 被服室にはちょうど3人の生徒が残っていた。髪が長くて眼鏡掛けてる人が返事したからこの人が長田先輩なんだろうな。シンデレラ……の時とは印象が違うけど。


「1年8組の柳川です。さっき柴田さんからいろいろ聞きました。差し入れです」

「あっ、ゆ~かちゃん! 体育祭の時のクリスティーヌ、凄く良かったよ」

「長田先輩のシンデレラも素敵でした!」

「差し入れありがとう。部活の方に出てるとOBの先輩とかから差し入れもらえるんだけど、今年はこっちに詰めてるからタダ飯にありつけなくて。えへへ」


 やっぱり忙しかったみたいだなあ。飲み物とか余分に買ってきておいて良かった。

 やきそば3個と飲み物を6本その場に出すと、当たり前のように「お金出すよ」と言われた。3年生ならそう言うか。


「いえ、人出増やしちゃった責任を感じてて……このまま受け取っていただけると助かります」


 先輩たちは顔を見合わせ、「じゃあ遠慮なく」と焼きそばを食べ始めた。

 机の上には明日のパンフレットに挟み込む、うちのクラスの場所変更の案内文が置いてある。B4に印刷してあるから、4つに切って挟み込むみたい。


「気にしなくていいよ、私たちの最後の文化祭でお客さんがいっぱい来てくれて、むしろ嬉しい。委員長としてやりがいもあるしね」


 こっちに気を遣わせまいとしてるのか、ニコッと笑いかけてくれるのが優しいなあ。


「じゃあ、せめてお手伝いを……」

「あー、大丈夫大丈夫、こんなの私たちの手に掛かればすぐ終わるから」


 やきそばを爆速で食べ終えた長田先輩は、凄い手さばきで紙を4つ折りにしてカッターで切っていく。って、本当に凄い早いな! 常日頃からやってるとしか思えない手際の良さだよ。


「長田さん、お祭り狂だから」

「気にしないでー、ほんと慣れてるし」

「わ、わかりました。あの、人手必要でしたらいつでもお手伝いしますので……」

「いやいや、本当に大丈夫だから。あ、できたら明日の整理券ここの3人の分取っておいてくれたら嬉しいな」

「わかりました! 柴田さんもダメとは言わないと思います」


 12時からの整理券を1組分取り置きする約束をして、私たちは被服室を出た。

 長田先輩凄いなあ、滝山先輩みたい。


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