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第182話 私のせい……かもしれない!

「冷やかしお断りです。注文してください」

「おー、じゃあ、緑茶セットひとつとコーヒーセットふたつと紅茶セットひとつ」


 立石師範たちを席に案内して、倉橋くんが圧を掛けている。みんな素直にメニューを選んだところで、注文を書き込んだ半券を倉橋くんがテーブルに置いた。


「緑茶、紅茶、コーヒー2ですね。かしこまりました」

「オムライスに『らぶらぶ♡』みたいのはやらないのか?」

「……ちょっとバックヤードから木刀取ってきます」

「オムライスは! 調理室が使えない関係上うちではやってなくて!」


 せっかく美人なのに般若の様な形相で倉橋くんがバックヤードに向かおうとしたから、私は慌てて割って入った。

 立石師範はもう! わかっててからかうんだもんなあ。


「お、柚香も似合ってるじゃないか。執事というより『不思議の国のアリス』のウサギっぽいけど」

「ああ、なんかに似てると思ったらそれか」


 師範の矛先が私に向かってきたよ……。アリスのウサギかあ……確かに服装的には似てるかもしれないけど。


「おまたせしました、こちら木刀になります」


 やたら早く倉橋くんが戻ってきたと思ったら、木刀構えてるし。本当にバックヤードに木刀置いてたんかい!

 そこに前田くんが止めに入ってきて、マッチョミニスカメイドが和装メイドを羽交い締めにてバックヤードに引きずっていくという地獄のような光景が展開した。


「朝からカオス」

「……おい、柚香、なんだこれ」


 客引きをしていたはずの蓮が教室内に戻ってきて、私にスマホを見せる。

 私が覗き込んでみると、第2回衣装合わせの後に私がした投稿だね。……って、1万RTに3万いいねって何!


「ええっ!? こんなに拡散されてたの!?」

「おまえ、自分の拡散力甘く見てただろ! フォロワー1万人超えてるんだから自覚持てよ」

「今満席になりましたー! 席が空くまでお待ちくださーい!」


 うわっ、外で聖弥くんが叫んでる……もしかして、外は行列になってるの!?


「私、通知が嫌でいいねもRTも通知切ってたから全然わからなかった!」

「やっぱり! 俺もあの時撮った写真あげてたけど、俺と聖弥じゃないって事はすぐわかったらしくて、そこそこしかRTされなくて。……でも、人凄いぞ、絶対おまえのツイートからだろ」

「でも学校名も日付も付けなかったよぅ」

「バレてるところにはバレてるんだよな。体育祭の時のモブさんとか」


 そっか、……てことは、7ちゃんのスレに書かれちゃったってことなのかな!? 美しすぎる女装メイドとかなんとか!


「柚香、こっち戻ってお茶手伝って! 安永くんは整理券作るの手伝って」


 バックヤードからかれんちゃんが顔を出して私たちを呼ぶ。私と蓮は慌てて教室の一部を使ったバックヤードに戻り、言われたとおりに作業に入った。


「整理券作ります。1組4人以内で、15分刻みね。時間制にして、希望の時間聞いてそれがあったら渡して。そうすればその間に他のクラスとか部活とか見に行けるし、このまま列作ってたら文化祭実行委員長が怒りに来る」

「ひええええ」


 柴田さんが冷や汗かきながら指示を出してる。私はお茶を淹れるのを手伝ったけど、その後は蓮やかれんちゃんに混じって手書きで整理券を作った。

 その間にも「SE-RENのおふたりいますか? 写真一緒に撮りたいんですけど」とか、指名が入る!


「柚香、倉橋、一緒に写真撮ろう。いいよな?」


 笑顔の立石師範に呼ばれたよ。これは断れないというか、私は別に良いんだけど倉橋くんが……。


「拡散しないでくださいね」


 あ、いいんだ……。名前さえ出なければいいってことなのかな。既に一番見られたくない相手には見られちゃったしね。

 スマホを前田くんに渡して撮影してもらったら、視界の隅で女の子がお客さんに絡まれてるのに気づいてしまった……違う! あれ須藤くんだ!


「ねえ、写真くらいいいでしょー? 注文したんだし」

「その……こ、困ります」

「うわっ、カワイイー! キミ女子でしょ? 絶対そうだよね!」


 他校とおぼしき3人の男子に囲まれて、須藤くんが困ってる。これは、助けなきゃいけない奴!


「写真くらいいいじゃーん? 写真がダメならこの後付き合ってよ」


 ひとりが須藤くんの肩を無理矢理抱いている。あっ、ヤバい!


「困りますって……言ってんじゃん! しつこい!」


 肩に掛けられた手をぐいっと引っ張り、須藤くんは絡んできた男子をくるりと投げ飛ばした。投げられた方はべたんと床に伸びて、何が起きたか気づかないって顔をしてる。

 あーあ、間に合わなかったー!


「お客様~、私たち冒険者科ですのでー。メイドさんには手を出さないでください。危ないですから」


 須藤くんもなんだかんだいってLV20越えてるしね。一般人が無理矢理肩を抱いてきたらそのくらいのことはしちゃうよね。

 床に伸びてる人を助け起こしながらご退場いただくことにしたんだけど、注目が集まってたから投げられた人が騒ぎ出した。


「あ、謝れよ! こっちは暴力振るわれたんだぞ!」

「冗談でちょっと肩触っただけだろ! X‘sに書き込んでやる」


 あーあー。喚きよるわ……と思ってたら、蓮がやってきてその現場を写真に撮った。

 よし、じゃあ黙らせるか。


「『女装メイド』って書いてありますよね。この子が男子だってわかってたはずなのに無理矢理肩を抱いたり『この後付き合って』とか口説いたりしてましたよね? 冗談だったらいい? じゃあ、冗談としてうちの男子に同じ事してもらいましょうか!」

「よっしゃ!」

「俺たちの出番か!」


 ポージングして出てきた中森くんと前田くんが、投げ飛ばされてない残りのふたりに絡み出した。


「やーん、いい男~。この後付き合ってくれなーい?」

「華奢だなー、女子じゃない? カワイー!」


 マッチョメイドふたりに肩を抱かれ、胸とかなぞられてる人は悲鳴を上げて逃げて行った。投げられた人を残して。


「こ、こんなの、拡散して……」

「写真撮ってありますんでー、拡散できるもんならしてみて? こっちもやり返すから。ちなみに私のフォロワー1万人だからね」

「いちま……お、おまえ、ゆ~かじゃん! チクショウ!」


 綺麗に捨て台詞を残して逃げて行ったな……。先払い制で良かった。


「中森前田って保安要員として最強なんだな」

「私も保安要員っぽいよ。SNS上に限るけど」

「……ガチで女子に間違えられたの腹立つんだけど」


 バックヤードで蓮と話していたら、須藤くんが怒り顔で混じってきた。


「須藤」


 蓮が珍しく微笑みを浮かべて須藤くんの肩を叩いている。


「俺と聖弥、呼び込みしてたら既に5回くらいナンパされた……」

「うえー、嬉しくないなー」


 女装クオリティが高すぎるのも問題だね。

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