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第181話 そしてその日がやってくる

 ウィッグが届いてから4人は改めて衣装合わせと言うことで、今日は二度目の衣装合わせである。


 倉橋くんと須藤くんと宇野くんは着替えた後にあいちゃんにメイクしてもらうから、結構時間が掛かるね。

 聖弥くんは自力でメイクしてるみたい。あいちゃんに頼み込んで指導してもらって特訓したらしい。転んでもただでは起きない男だね……。

 蓮も一緒に更衣室に入って、聖弥くんのメイクを一部手伝ってる。そして、一足先に微妙な顔をしながら出てきた。


「すっげえ複雑な気分になるな、アレ」

「えっ、なになに? そんなに聖弥くん変身してる?」

「…………後で嫌でもわかるよ」


 なんかもったいぶられてるー!

 ドキドキワクワクしながら待つこと30分、「終わったー!」ってあいちゃんの歓声が響いて、4人が同時に出てきた。


「ふあっ!?」


 思わず変な声が出てしまったわ。聖弥くんが可愛くなってるのはある程度予想付いてたけど、全員原形を留めてないんだもん!!

 和装メイドの倉橋くんは艶々ロングヘアで姫カット。元々姿勢がいいのと、あいちゃんのメイクでデカ目効果バリバリに出てて、……あ、これ眉も整えられてるな。モデルですか!? って訊きたくなるような清楚系美少女に変身してた。


 同じく和装メイドの宇野くんは、倉橋くんよりメイクがちょっと派手で、ギャルっぽい感じ。白のアイラインとか入ってるしね。エラが張った顔はウィッグの毛先で巧みに修正されて、元気いっぱいっぽい女の子になってる。

 聖弥くんは安定というか、肩を隠して偽乳を入れて、肩ラインのふわふわミルクティーカラーのウィッグがすっごく可愛い。完全に美少女ですわ。蓮とふたりで客引きさせたら普通に男性引っかけてきそう。


 そして問題は須藤くんだった。


「須藤、やっべー!」

「いる、いるよ、こういう女の子!!」

「そうそう、聖弥より須藤がヤバいんだよなー。予想外だったんだけど」


 元々華奢で背もあまり高くないせいで、胸を入れてなくても普通のメイド服でも、「あれ? 女子がひとり混ざってる」と錯覚する!!

 形を整えて綺麗に引いた眉のラインは優しげで、二重まぶたになってるしデカ目効果も使ってるけどメイクはナチュラル風。あくまで「風」であって手が込んでるのは私も身をもって体験してるけどさ。

 ツインテールの髪を揺らしながら、ちょっと恥ずかしそうにしている様が――ヤバっ!!


 とんだダークホースがでてきたよ!!


「平原……やりすぎ……」

「見苦しいより可愛い方がいいでしょ?」


 肩幅に足を開いて腕を組んだあいちゃんが堂々と胸を張っている。

 そして倉橋くんはすすすっと側に寄ってきて、私の肩をがっと掴んだ。


「柳川……一生のお願いがある」

「な、何?」

「立石師範にこの事絶対教えないで」

「ごめん、既に3日前に連絡しちゃった」


 私の答えに倉橋くんはその場に崩れ落ち……わあ、着物の裾が広がらない様に、綺麗に膝を閉じたままだ。


「あの人絶対このネタで1年間はからかってくる!!」


 袖を持って目に当てる様にしながら嘆いてるの、凄く絵になるなあ……なんか女形の仕草とかで見たことある奴だ。


「じゃあ、前の状態で文化祭出る?」

「それも嫌だ……俺のシフトに被らないことを祈るしか」

「そうだね……」


 とりあえず広報用に、と「原形留めてないズ」で集まってもらってノリノリで写真撮って、SNSに載せることにした。誰がやってるか言わなければ絶対バレないもん、これ。


「1年8冒険者科女装メイド&男装執事喫茶、是非お越しください。――送信っと」


 学校名も日付も書かずに写真だけ付けてX‘sに投稿する。一部の知ってる人に伝わればいいんだもんね。モブさんとか瑠璃さんとか。


「俄然本番が楽しみになってきたよね」


 かれんちゃんは言葉ではそう言ってるけど、表情がスンッとしてるな。

 私は投稿してすぐRTがどどどっと増えてるのを見て、ちょっと早まったかなと感じていた。



 そして文化祭当日――。


「来たぞー、慎十郎!」

「うわあああ! なんで朝一で来るんだよこの人!!」

「この反応……ひえええ、これが慎十郎か、化けたなあ」

「しまった! 引っかかった!」


 なかなか愉快な光景が目の前で繰り広げられているよ。

 朝一番で文化祭に立石師範や村田さんたちが来て、お客さんの呼び込みしてる蓮と聖弥くんにビビりつつ、教室を見渡して「来たぞー、慎十郎」と言ったのだ。

 実はこの時点で立石師範は倉橋くんがどんな格好をしているのか知らなかった。私も女装メイドであることは教えたけど、ウィッグ付けてるとか和装とかまでは教えてなかったし。


 だけど、「ロングの姫カットのウィッグ付けてて紫の矢絣の和装です」まで私が伝えてたと勘違いしたっぽい倉橋くんは、自分で立石師範の呼びかけに応えてしまったのだ。

 応えた後で、「反応したからこいつだ」的な特定をされたことに気づき、自分が墓穴を掘ったと自覚して死にそうになってる。


 ワタシ、悪くなーい。

 ……よね?

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