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第180話 女装狂想曲

「ウィッグ、買おう」


 一段落付いたかと思ったのに、倉橋くんがそんなことを言い出した。


「鎌倉ダンジョンで稼いだ金がまだあるし。そこまでやりたくないって奴はいいけど、正直俺も自分の女装見て引いた……せめて髪が長ければ。なまじねーちゃんのクオリティ高いコスプレ見てるから、自分が許せないっ」

「あー、わかる」


 須藤くんと宇野くんもうんうんと頷いてる。――まあ、このふたりしか同意してないんだけどもね。


「よっしゃ、そこの3人もまとめて私が女の子にしてやりましょう! うん、いけるいける! 和服だったら胸がなくても違和感ないから、須藤くんと宇野くんも和装にしちゃえ!」


 ノリノリのあいちゃんの勢いに一瞬押された須藤くんと宇野くんだったけど、「まあ……見苦しいのは嫌だよね」って消極的に受け入れてた。

 須藤くんは自分でクラフトし直すそうだし、宇野くんのメイド服は寧々ちゃんが倉橋くんの色違いの赤い矢絣の着物で簡単に作り直した。なんか、教室内で当たり前にクラフトしてる姿を見る日が来ようとは思ってなかったよー。


「じゃあ、放課後にウィッグ選びしようか、教室に残っててね」


 4人の男子にまとめて声を掛けたあいちゃんは生き生きとしてるけど、聖弥くんが小さく「チッ」と言ったのを私は聞き逃さなかったよ。

 あいちゃんとふたりで、どっかで打ち合わせしようとしてたんだろうなあ。

 でも正直ウィッグ選ぶのにファミレスに行く必要ないし、ブラジャー選びはアンダーバストだけ測ればいいしね。


「聖弥がどんなの選ぶのか気になるから、俺も参加しようかな」

「蓮も? だったら柚香ちゃんもアドバイスしてよ」

「えっ、私!?」


 とんだ飛び火だ! でもうっすらと聖弥くんの意図が透けて見えるぞ!?

 男子ばっかりの中にあいちゃんという女子をひとり入れたくないんだよね。そこであいちゃんと仲が良くて、更に蓮や倉石くんと一緒に行動することが多くて、須藤くんと宇野くんとも比較的喋る方の私をひきずりこんだんだ。

 私の席の前は宇野くんだからね。ここを中心に席使うだろうし。


 断ると恨まれそうだから、乗ってやろうか。確かに面白そうではあるしね。



 てなわけで、放課後になって6人であいちゃんと蓮が教えてくれたサイトを開きつつ、ウィッグ選び。


「倉橋くんは面長だし和装だから、黒のロングヘアがいいね。須藤くんは結局どんな感じのメイド服?」


 スケッチブック開いてさらさらとイメージ画を書き始めるあいちゃん。倉橋くんらしき和装メイドは姫カットの髪型で描かれている。


「あー、ノーマルなメイド服にしようかなって思ってる。ひとりくらい普通のがいてもいいと思ってさ」


 良識人発言! 須藤くんっていつも思うけど、周囲見てバランス取ろうとしてくれるんだよね。キャラ濃い奴らが多いうちのクラスの良心だよ。


「なるなる。じゃあ、一般的なメイド喫茶っぽさを狙ってツインテールができるくらいの長さにしようか。髪色は茶髪がいいかな。で、宇野くんは頬のラインのえらを隠すために、ショートボブね。そうすると倉橋くんと並んだときに対比になるし。髪色は黒でいいと思う。眉毛に合わせられるしね」


 ちゃちゃっとあいちゃんが選んで簡単に絵に描き、それを参考にしながら男子たちはウィッグを選んでいる。コスプレイヤー御用達っていう、ちょっとクオリティ高めの専門店のサイトだね。

 私が見ててもいろんなウィッグがあって面白い。


「で、問題は聖弥くんだけど」

「うん。……問題?」


 聖弥くんが頷きかけて、問題って言葉につまずいてる。


「蓮くんとセットで写真撮ったりするんでしょ? だったらそこも対比にするかお揃いにするか決めないとね」

「ああ、なるほどー。そういう意味の問題か。よかったー、根本的に女装無理とか言われなくて。今日最初にメイド服着たときは、あまりに似合ってなくて自分でもびっくりしたからね」

「わかる」

「わかる。正直女装舐めてた」


 聖弥くんの告白に、須藤くんと倉橋くんが頷いている。須藤くんなんか男子にしては華奢な方だし、蓮を除いたら似合ってた方だけどね。


「えー、でも須藤くんは髪の毛さえなんとかすれば行けそうだなって思ったよ」

「……そう言われるとそれはそれで嫌だなあっていうか」


 率直に褒めたらすっごい複雑な気持ちそうな顔された。こっちもそんな顔されて複雑ですわ!


「聖弥に似合いそうな髪型から決めてくってのはどうだ?」


 女装のパイオニア安永蓮の言葉は深いな……。ふむ、と頷いてあいちゃんはじーっと聖弥くんの顔を見つめている。だんだん聖弥くんが赤くなってくるのが面白いね。


「聖弥くんの方が女装似合うって最初は思ってたんだよねー。顔は優しげじゃん?」

「『顔は』ね」

「『顔は』なんだ……」


 あいちゃんの言葉にすかさず同意する私と、微妙にショック受けてる聖弥くん。

 何を今更ショック受けてるんだか。腹黒王子って一般に知れ渡ってるくせに。


「だから、ウィッグはこういうのどうかな? ミルクティーカラーのミディアムで、届いたらちょっと巻くの。ゆるふわ女子系のメイクして、蓮くんとはもう完全に逆を狙うっていうか。それで、肩のラインが強調されない様に、肩紐のところのフリル大きめのエプロン付けてさ」

「おー、この髪色は自分の髪だったらアウトだけど、ウィッグだったらOKなやつだー。いいじゃんいいじゃん」


 あいちゃんのメイクテクだったら、髪の長さと肩のいかつさをクリアしちゃえば可愛いメイドに変身させてくれそう。蓮が黒髪だから、対比もいいしね。


「で、ミニスカもいいし、膝丈くらいのスカートも可愛いと思うけど、どっちがいい?」

「……蓮が正統派という感じだから、僕は敢えてミニスカで行こうと思う」


 決意に満ちた発言をする聖弥くん。おお……男気溢れてるなあ。


「うわっ、聖弥がガチでやる気になってる」

「蓮があのクオリティを出してきたからだよ。ふたり並んで写真撮るのに、僕の方はクオリティ低かったら恥ずかしいじゃないか」


 こればっかりは蓮が悪かったとしか言い様がないね……。女装に関して自分のこだわりは貫いたけど、聖弥くんと揃えるってところはすっぽ抜けてたみたいだし。


「いいんじゃない? ミニスカ。中森前田のキワモノだけじゃなくて綺麗なミニスカがひとりいてもいいって私は思うな」

「うん、頑張るよ!」


 あいちゃんから綺麗なミニスカと言われてパアっと表情が明るくなる聖弥くん……ダダ漏れにも程がない?

 ほら、倉橋くんと須藤くんと宇野くんが顔見合わせちゃってるじゃん。


「胸は蓮よりちょっと大きめにしたいんだけど」

「あ、俺Bカップにした」

「じゃあCカップかー。ミニスカならDでもいい気がするから、そこはおまかせかな」

「蓮はどこで買った?」

「俺は通販で。偽乳って検索すると出てくるぞ。専用ブラジャーのポケットにシリコンの偽乳をセットするタイプで、肌にくっつかないから気持ち悪いとかない。あ、購入履歴からURL送るわ」


 蓮が有名通販サイトのアプリ開いて、サクサクとURLを聖弥くんにLIMEで送ってる。なんかなあ……こんな簡単に乳って作れるんだ……。


「偽乳で検索して出てくるんだ」

「もう何も信用できない気がしてきた」


 偽乳を付けるまでは勇気が出ないらしい一般の男子3人は、とうとう目が死んだ。

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