クラフト全員がフリークラフトできる様になったので、蓮発案の「ステータス底上げクラフト」は2年生にも使われることになった。でも2年生のクラフト専攻でフリークラフトできない人って5人しかいなかったけどね。
そして、「マジックポーションを買う」目的でダンジョンに行ってた戦闘メンバーは、「資金力で他のクラスと差を見せつけてやるぜ!」と意気込んだ結果、先生に「それは反則だよ」とお叱りを受け、「じゃあ一生一度のメイド&執事を良い布で作ろう」と変な方へ方向転換した。
デザインできる人はメイド服や執事服のデザインをしまくり、自分が着たいデザインを選んで作って貰うシステム。クラスの半分近くがクラフトだから、3日間で衣装が全部揃い、本日初試着です。
「うわ、やっぱり想像通りになってる」
紫色の矢絣の着物に白いエプロンを着けた倉橋くんが、ミニスカマッチョメイドふたりを見てげんなりしてる。
うん、全面同意しかないね。前田くんと中森くんのミニスカマッチョメイドは、ガン見する人と目を逸らす人の2パターンに分かれた。
目を逸らす人の方が圧倒的に多いんだけど。スカートにボリューム出すためにパニエまで穿いてるフリルエプロンのミニスカメイド(ガチムチ)はきついね……。
「どうせやるなら」
「ここまでしないとな!」
ツルツルの脚を見せつけるのやめい! あと、角刈りにホワイトブリムが死ぬほど似合わないんだけど、こんなときどんな顔をしたらいいのかな……。
「おおー、いいじゃんいいじゃん、徹底してる」
中森くんの脚をさわさわしてるのは彩花ちゃんだ。私が倒れて3日くらいおとなしかったけど、今はもう前と同じ感じに戻ってる。
「きゃー、セクハラー! やめて、お嫁に行けなくなっちゃう!」
「どこに嫁に行くつもりなんだよ」
汚い高音で叫んだ中森くんの胸板に、前田くんがビシッとツッコミを入れている。あ、そうか、このふたりはセットで運用すればいいのかー。
金剛力士像だと思えば……うっ、メイド服着てる金剛力士像想像しちゃったよ。
前田&中森のミニスカメイドはクラス全体からブーイングを受けまくってるけど、イロモノ担当もいないとつまらないよねって誰かが言い出して全員が納得した。
聖弥くんはノーマルなメイド服だけど、肩が角張ってるから思ったよりも女装が似合わない。これは意外だった。
というか、男子全般に言えることだけど、髪の毛が短いからホワイトブリムが似合わないんだよね!
「服のクオリティは高いのに女装のクオリティが低いね」
思わずかれんちゃんも真顔になるよね。うむ、ベルベットとかメイド服らしくない生地を贅沢に使ってるのに、活かされてない。
「ウィッグ買う……までやるべきなのかなあ」
「高校の文化祭の女装メイドに、そこまでのクオリティを求められてるかっていうのも疑問だよね」
女子の執事服はそれぞれがそれぞれなりに似合ってるから、余計に男子の残念さが際立つというか。
「後出てきてないのは蓮だけかな?」
「蓮くん異様に時間掛かってるね」
教室の半分を仕切った更衣室から、蓮だけが出てこない。蓮が一番スカート長いヴィクトリアンメイドだから、他の人より多少時間掛かっても仕方ないかもしれないけど。
「あ、蓮だったらウィッグ付けてメイクまでやってるから時間掛かるよ」
聖弥くんが「忘れてました」って感じに報告をしてくれて、女子全員がどよめいた。
「安永くんガチだ!」
「私たちがメイクしてないのに、安永くんがメイクしてるの!?」
「えっ、家からメイクボックス持ってこようかな! 女子も男子もメイクしたい人はしてあげるよ!」
あいちゃんの一言が火に油を注いで、俺も俺も私も私もってなことになった! というか、中森前田はメイク絶対ダメでしょ!
「出し物が出し物だけど学校行事だからなあ。あまり女子がメイクをすると苦情が来るかもしれない。男子のメイクもある意味苦情が来るかもしれない」
大泉先生は腕を組んで唸っている。確かに、男装女子のメイクと、女装男子のメイクでは大いに性質が違う気がする!
そういえばMV撮ったときも蓮は自分でメイクしてたっけな~と思い出しつつ、出てこない蓮のことは放置して一部の人が飲み物の準備を始める。
喫茶店というからには当然飲み物がメニューにあるんだけど、コーヒーと紅茶と緑茶については明らかにガチ勢がいたからこだわることにしたんだよね。全員クラフトなのはお察しだ。
金子くんが豆から挽いたコーヒーを淹れてくれて、その手つきの無駄のなさに唸りつつみんなで一口ずつ試飲。すっごくいい香りだし、砂糖とミルクを入れて飲むのがいいよって言われたコクと苦みの強いコーヒーだった。
ちょっとだけだったからブラックで飲んだけど、次に飲むときは言われたとおり砂糖とミルク入れたいなあ。惰弱と言うなら言うがよい。
みんなでわいわいとコーヒーを飲んでいると、後ろから「着替え終わったぞ」という蓮の声がした。
「もー、蓮、時間掛かりす……ぎ…………」
振り向いた私は思わず絶句した。
長い黒髪をゆるやかなアップにまとめて更にホワイトブリムで押さえ、手首の部分のカラーは白くて、適度に膨らんだロングスカートに華やかさを添えるフリル付きエプロン。すらっと背の高くて目鼻立ちがはっきりした――美女がいる!!
いつもはちょっと目つき悪めに見えるけど、アイラインとブラウンのアイシャドウで柔らかさを出してて、目が大きく見える。鼻のラインもノーズシャドウですっきりしていて、うっすらとピンクのチークが載った頬に薄いピンクのグロスを塗った唇。
ていうか、え、胸がある! って事は、ブラをして偽乳を入れてるの!? そこまでやってるの!?
「完璧! 100点満点! よくやった!!」
蓮のあまりの美女っぷりにあいちゃんは拳を突き上げて叫び、男子は全員揃って口を開けて呆然としている。
女子はといえば、ドン引きする人と目を輝かせてる人に分かれてた。
「お帰りなさいませ、ご主人様」
にっこり笑った蓮子さんが美しいお辞儀をすると、綺麗に全員の溜息がハモった。
「全力でやりすぎなんだよ…………」
大泉先生の一言が、全員の気持ちを見事に代弁していたのだった。