僅か一日ちょっとで、クラフトの半分、実に8人もの人がフリークラフトを習得していた。そして、「クラフトマン」のジョブを取得していた。
意味がわからん。そんな簡単に到達できるところじゃないはずだよね……。
「蓮が何かやったの? アイテムバッグ貸したことと関係あるんでしょ?」
「それよりおまえ、体大丈夫か? 病院ちゃんと行った?」
一昨日の帰り際に貸したアイテムバッグを返してもらいながら蓮に尋ねたら、ドヤァするかと思いきや心配そうに質問返しされた。
「聖弥くんが救急搬送された南部総合病院で昨日いろいろ調べられたよ。血液検査もしたけど貧血もないし、心電図とかも異常なかったし。凄くいい血管ねって看護師さんに褒められちゃった」
「それは良かったけど、原因わからないってのが怖いよな。長谷部はなんか一日中黙ってたし」
蓮がちらりと彩花ちゃんに視線を投げる。いつもだったら「ゆずっちゆずっち大丈夫!? ボク心配したんだからー!!」とうるさいくらいまとわりついてくるはずの彩花ちゃんは、今日は朝の挨拶を交わしただけでそれ以上絡んでこない。
「倒れる直前、彩花ちゃんと何か喋ってたみたいなんだよね。……でも、何を話してたか覚えてないんだ」
「なんだそれ、怖いな」
「思い出せないって事も怖いんだけど、無理に思い出そうとするとまた倒れるんじゃないかって気がして、それも怖い」
蓮に話したのは私の偽りのない本心だ。
彩花ちゃんと何かを話していたのは彩花ちゃんの態度からして推測できる。
もしかしたら――もしかしたらでしかないんだけど、その話した内容が私が倒れて、記憶も無くすほどのショックを受ける様な事だとしたら?
いや、自分でも何を言われたらショック受けるかとか考えたけど、なーんも心当たりないんだけどね。
だからこそ、ちょっと怖い。底の見えない暗い淵を覗き込んでる様な気分になる。
「とりあえず、過労じゃないよ。念のため昨日中級ポーションも飲んだしね」
「だったらいいけど……無理するなよ、いろいろ。で、クラフトだけどさ、江ノ島ダンジョンで戦ってるときにふと思いついたんだよ。俺のロータスロッドを装備してクラフトすれば、少なくともMPは爆上がりするから効率良いんじゃないのか? って」
「そっか! 装備の補正!」
しかもMPに関しては、装備したときMAX補充されてるんだよね。マジックポーションをたくさん消費するより、最大MPを上げておいた方がいろんな意味で効率が良いのは確かだ。
「それな。付けられる補正は全部付けちゃおうと思って、俺の防具と聖弥の盾も装備させてクラフトしたらさ、MPが+400でDEXが+187だろ? なんかクラフトに掛かる時間がDEX依存らしくて、一瞬でクラフトできる様になってさ」
「えっ? それ大発見では?」
「らしいな」
クラフトに掛かる時間はLVが高いほど減るって事が知られてたけど、今回蓮が低レベルの人のDEXを上げたことによって、LV依存じゃなくてDEX依存――しかも装備による補正も反映されるってわかってしまった。
大泉先生も驚いてて、寧々ちゃんに続き冒険者協会にレポート書かなきゃいけないことになったらしいんだけど、それは先生が書くんだって。
なんでこんなことに今まで気づかなかったんだろうって感じだけど、「クラフトするとき装備したままでやろうと思うか?」「初心者がそんなに補正効果の高い装備を持ってるか?」って2点で簡単に納得いった。
「よく思いついたねー。確かにロータスロッドはMP補正が高いけど、金沢さんに作って貰った武器って自我があるから補正がフルでつかないじゃん?」
「ロータスロッドは付くんだよ。あれは『視て』作って貰った適正武器じゃなくて、魔力補助の杖でしかないから。俺の名前が反映されてるから、適正武器と間違えてもしょうがないけどさ」
「そ、そっかー!」
前に小田原城ダンジョンでロータスロッドを使った須藤くんが気づいても良かったのにー! と思ったけど、そもそも須藤くんがロータスロッドの補正値なんて覚えてるわけがないから、元の補正値そのままだなんて気づくわけがないね。
「私が退屈な検査を受けてる間に、クラフト界には革命が起きていた」
「俺もびっくりだよ。多分今日中には全員フリークラフトできる様になるみたいだし。先生が言うにはさ、持ち回りで使えば良いから、効果高い装備セットを県で1セットでも保有すれば良いって」
「神奈川でも5校だから、関東で1セットでも余裕じゃない? DEX上がる伝説金属ってオリハルコンだよね、一昨日の頭部防具で上がってたし。地方単位で良いなら私寄付しようかな!」
「うわ、出たな億万長者。でもいいんじゃないか? クラフトは学校に入れば金沢さんみたいな苦労しないでフリークラフトできる様になるなら、凄く価値があると思う」
蓮も真顔で頷いてる。よしよし、今度金沢さんと毛利さんに相談しよう。最高効率で補正付く組み合わせはなんなのかとかは、専門家に任せた方が良さそうだし。
クラフトがクラフトするのに時間を食わなくなれば、戦闘専攻と一緒にLV上げするのも楽になるしね。
「お手柄じゃーん! 蓮、偉い!」
「もっと褒めてもいいんだぞ! 棚ぼただけど」
今頃ドヤァするんかい!
まあ今回は、存分にドヤァしても許されるね。名前が残る功績って奴だよ。
きゃっきゃとはしゃぐ私たちをふたりの人物がじっと見ていたことに、その時の私は気づかなかった。