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第174話 シーサーペントの真実

 カルキノスは動きはのっそりしてるし、特別な攻撃をしてくるモンスターじゃない。

 脅威になるのは力の強さと甲羅の硬さ――と聞いてたんだけど、村雨丸で思いっきり斬ってみたら、硬そうな甲羅もすっぱり行けた。

 伊達にめしゃってなってる車が斬れる刀じゃないね! いちいちひっくり返さなくても倒せる。


 彩花ちゃんの方も、武器が良いのか、それとも本人の強さでやってるのかわからないけど、カルキノスをひとりで倒せる。

 いやいや、戦術的に強い彩花ちゃんだって物理的に硬いモンスター相手だと、さすがにある程度補正が付いてないと無理なんじゃない? って思ったんだけど杞憂らしい。

 鈍い光沢を放つ剣――うん、あれは剣だ。ショートソードじゃない。鍔と柄が違うもん。その剣は切れ味鋭く、それを振るう彩花ちゃんは舞を舞っているかのよう。

 剣の攻撃方法って主に刺突と打撃だと思ってたけど、ちゃんと切れる剣だとこんなに戦えるんだなあ。


「それって、ショートソードじゃなくて剣でしょ? 作ったの?」


 日本の刀剣の中でもわざわざ剣を指定して使う人ってウルトラレアだと思うよ。反りがあって片刃の刀の方が圧倒的に多い。見慣れてるって事もあるだろうけど。

 倒したカルキノスが魔石を残して消えると、こぶし大の魔石を拾って彩花ちゃんはこっちに歩いてきた。私のアイテムバッグに魔石を放り込んで、ニコッと笑う。


「うん、さすがゆずっち、鋭いね! 手に取って見てもいいんだよー?」

「後で見せてね」


 さすがに、周囲に敵がたくさんいる状態で鑑賞会はしない。彩花ちゃんはちょっと口を尖らせたけど、素直にカニを倒しに行った。

 無駄口は叩かずに、ひたすらカニを真っ二つにしていく作業。正面から向かうとハサミが怖いけど、特性上まっすぐにこっちには向かってこられないから、スピードで押し勝っちゃうのが無難だね。


 ときどきサンドゴーレムの索敵範囲に入っちゃってターゲット取られるから、それも振りかぶった一撃で倒す。動きを大きく、と意識し始めたら、村雨丸が前より有効に使えてる気がする。


 蓮の方は範囲魔法のスパークスフィアで一気にモンスターを倒してるね。あれって消費MPが15だったかな。20回以上は使える計算だし、今日はこの層だけって決めてるからMPが尽きる心配はなさそう。


 範囲魔法は威力だけじゃなくて範囲もMAG値で変わってくるから、一気にドロップしてちょっと大変そうだ。

 私はアイテム拾いを手伝おうとそっちに走って行き、目の前の砂の中からカニが飛び出したのでそのまま斬り捨てた。

 ……そっか、カニだから砂の中から出てくることもあるんだ。あっぶなー!


 上級ダンジョンだからここで稼いでる人はいるだろうけど、もっと下層に行ってるんだろうな。

 シーサーペントとか、倒してもドロップ品が水中に落ちたら回収が難しくなるしね。


 ……と思ってたら、視界の端に長くて緑色のものがうごめいたので、私はビビって思わず振り返ってしまった。


「シーサーペントが上陸してるー!!」


 この目で見た物が信じられなくて、思わず叫んだよね。いや、叫ぶでしょ、こんなの!

 長い体をくねらせて、大海蛇シーサーペントが浜辺をこっちに向かってくる!! こんなの聞いてない!


「ファイアーボール!」


 私の悲鳴を聞いて振り向いた蓮もぎょっとして、即座にロータスロッドから火の玉を飛ばす。水の中の様には機敏に動けないシーサーペントは、ファイアーボールの一撃で黒焦げになった。


「ひええええ、微ホラー!」

「こいつら、地上に出られるのか……」


 私たちは思わず集まって、今見た物についてやいやいと喋った。


「そういえば、サザンビーチダンジョンでも水の中に全身浸かってなかったよね!?」

「確かに、俺が最初に遭遇したときも相当長い時間頭出してたぞ! こいつ、もしかして水中以外でも普通に呼吸できるんじゃ……」

「モンスターだよ!? ボクらの常識で考えちゃダメなんじゃないの?」

「えー、そしたらそしたら、今みたいに砂浜這ってきたり、普通にするの!?」

「そこら辺は柚香の得意分野じゃねえのか!?」

「さすがに知らないよ! 気になってきたから後で調べるけど!」


 ぎゃーぎゃーと騒ぐことしばし。それもフロアにモンスターが少なくなってきたからできることなんだけど。

 よく「天使が通った」って言われる謎の無言時間で我に返った私たちは、再びモンスター退治お金稼ぎに戻ろうとし――。


 いつの間にか、近くにもうひとりの人影があることに気がついた……。



 その人物を見たときに最初に目を引いたのは艶やかな黒髪。顎の辺りで切りそろえられた髪は白い顔を縁取っている。見た目は小学校低学年くらいの女の子だけど、こんなところに小学生が入ってくるとしたら大問題。

 そして、飾りも何もないすとんとした生成りのワンピースを着てはいるけど、その子は裸足だった。


 異様。そう表現することしかできなくて、私はぽかんと口を開ける。

 こちらが驚いて見つめていると、その少女と眼が合い、睨む様なきつい眼差しを向けられた。

 私が混乱している間に彼女の目は私の隣の彩花ちゃんに移り、何かを訴える様にその赤い唇が開かれる。


「ミコ様――」

「ぎ、ぎにゃあああああああああ!!!! お化け~!!」


 彼女が言葉を発した途端、10倍くらいの音量で彩花ちゃんが叫んだ。

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