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第173話 江ノ島ダンジョン 

 江ノ島ダンジョン前に行ったら、蓮と彩花ちゃんがいた。

 うん、なんとなくそんな気はしてたね。

 蓮が鎌倉ダンジョン抜け出してくるときに「柚香に上級ダンジョンに呼び出された」とか言ったら、絶対彩花ちゃんが付いてくるに決まってるよね。


「お疲れー。じゃ、行こうか! 江ノ島ダンジョン」

「こいつのことはスルーかよ」

「やっほう! ゆずっちわかってるー! おまえらふたりきりでダンジョンとか許さないぞー」


 渋面の蓮に、飛び跳ねる彩花ちゃん。戦力としては……大丈夫だよね。


「彩花ちゃんが強いのはわかってるんだけどさ、装備平気? 替えの方は洗っちゃってるから、予備がないんだけど」

「大丈夫だよ。やられる前に倒せば問題なし。安永蓮もいるし、回復の心配もないでしょ」


 まあ、それはそうだね。ステータス関係なく彩花ちゃんは恐ろしく強いから。

 なんというか、戦いの空気を読むことに優れてるって言うのかなあ。


「長谷部が強いのはさっき思い知ったけど……ところで、俺のこといつまでフルネームで呼ぶつもりだよ。せめて名字だけにしろよ」

「貴様がゆずっちの前から消えるまでフルネームで呼び続けるよ!」

「なんか……なんか無性に腹立つな」


 うぎぎぎぎ、と睨み合う蓮と彩花ちゃん。……は放っておいて、私はさっさとダンジョンハウスに向かった。


「じゃあ私着替えてくるー」

「いってらー」


 もう10月も終わりに近いから、ふたりともダンジョン装備のままで鎌倉ダンジョンからこっち来てたね。蓮の防具は外を歩いてても違和感ないし、彩花ちゃんは体にフィットした動きやすそうなウェアを着ている。


 一応上級ダンジョンだし、フル装備の上に棒手裏剣には五十嵐先輩にシート加工してもらった痺れ毒を貼り付けておく。――よし。

 そうだ、昨日納品されたばかりの頭部防具も着けていこう!

 インカム型頭部防具、オリハルコン製だから物理攻撃反発するし、ステータス補正も付くんだよね。


「お待たせ。上級ダンジョンだから2層だけでも割と稼げるんじゃないかな。江ノ島ダンジョンの2層は浜辺エリアだから……彩花ちゃん、それまさか普通のショートソード? だったら木刀貸そうか? カルキノスには有効だと思うけど」


 彩花ちゃんは腰に両刃の剣を下げていた。見た目的にはショートソードなんだよね。前からショートソード使ってたからそれはわかるんだけど、初心者の剣ではないし、買ったのかな。


「大丈夫大丈夫。これちゃんと補正付きの武器だから」

「鎌倉ダンジョンでもその剣でサクサク倒してたぞ、多分上級も大丈夫だ」


 間近で私の強さを見てる蓮が太鼓判を押すんだから大丈夫かな? 彩花ちゃんに補正付き武器って、私より絶対強いよね。


「よし、じゃあ行こう。とりあえず手近な敵を集中攻撃で個別に撃破だ」


 ダンジョンアプリでパーティー登録をしてから、蓮と彩花ちゃんに頭部防具を渡して着けさせる。上級だから、念には念を入れて悪いことはないね。


「ここって何が出るんだっけ」


 蓮が1層を歩きながら聞いてきたから、「待ってる間に調べときなよ」と頭をはたこうとしたら防具に阻まれた……。

 えー、こんな攻撃とも言えない物も反発させるんだー。


 思わず頭抱えて防御しようとする蓮と、手が弾かれてちょっとむっとした私を見て彩花ちゃんが爆笑してる。

 ぐぬー。いきなり防具の実証実験みたいになっちゃった!


「……カルキノスってカニのモンスターが出るよ。サザンビーチダンジョンにもいたミニカルキノスっていうカニのモンスのでかいやつ。あとは海に寄っちゃうとシーサーペントも出るし、サンドゴーレムも出る」

「サンドゴーレムはちょっと火が効くかどうかわからないな……でも水は更に効かなさそうだし」


 蓮が考え込んでいる。確かに、サンドゴーレムとかうっかり強火で焼いたらレンガみたいになりそう。浜辺の砂なら大丈夫かなあ?


「浜辺のモンスだったら全部雷属性で片付くだろー? 安永蓮、ライトニング使えるんでしょ?」

「初級だから使えるけどさ、敵が密集してたらもう上級のスパークスフィア使った方が早いかも」

「それは敵がどのくらいいるか見てからだね。……あー、浜辺だからこうなってるのか」


 一応電車の中でダンジョン情報調べてきたんだよね。でもマップ情報みても2層から5層は載ってなくて、どうしてかなって思ってた。


 簡単ですわ。一面砂浜で、端っこの方に水がある感じ。サザンビーチダンジョンの最下層と同じ、なんちゃって浜辺だ。


「シーサーペントって初級ダンジョンのボスなのに、上級だと2層から出るんだね」

「LV10が4人いれば倒せるって強さだろ? むしろ上級の敵としては弱くないか?」


 妙な感慨にひたってたら、蓮の鋭い指摘が入った。確かに、ヤマトがワンパンできる強さだと考えると、そんなに凄い苦戦したりする様なことはなさそう!


「倒しにくい点は水の中にいることくらいかな……弓とか魔法じゃないときついね」


 彩花ちゃんの目が鋭いし真顔だ。これはモードが切り替わったね。

 私は一番近くのカルキノスに向き直ると村雨丸を抜いた。


「とりあえず近くにいるあのカニを倒そう! 蓮は別のターゲットを狙って」


 上級ダンジョンとはいえ、まだ2層。私は大山阿夫利ダンジョンでLV10になる前に、ほぼ補正ステータスの恩恵だけでデストードを倒している。

 今のステータスはあの時に比べて格段に高いし、技量も付いてる。――だから、いける!


 こちらを敵と認識してハサミで威嚇してくる巨大ガニに向かって、私は全力で踏み込んだ。刀で斬りかかる――と見せかけて、カルキノスが作った腹の下の隙間に足を突っ込んで、思いっきり蹴り上げる!


「ていっ!」


 ひっくり返ったカルキノスに、すかさず彩花ちゃんが飛びかかって剣を腹に突き立てた。彩花ちゃんの剣は的確に薄い部分を突き破って、カニを地面に縫い止める。その間に私は左右のハサミを切り落とした。

 ふう……これでひとまず危なくなくなったかな。


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