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第170話 第一次進路希望調査

 文化祭の出し物は今実行委員会の方で調整中だ。

 蓮はそれが決まるまで、女装に乗り気になってるのは言わないことにしたらしい。


 今はつかの間の凪の時期というか、行事やテストがなくてぽっかりと空いた時間。

 でももちろん、私たちはもはや日課となった鎌倉ダンジョン1時間アタックを続けていた。


「よっしゃ!」


 ダンジョンハウスで換金が終わった後、蓮が小さくガッツポーズしてる。聖弥くんもにんまりしてるから、ふたりにとっては嬉しい事があったんだろうな。


「なになに? なにかあった?」

「貯金が100万超えた」

「おー」


 ヤマト抱っこ作戦を始めてから、魔石ボリボリされるのが減ったから儲かる様になったんだよね。

 蓮の氷魔法コンボは敵が多いところで最大のパフォーマンスを発揮するし、敵が多いと物理攻撃しかしないヤマトは時間がかかっちゃう。

 大部屋狙って進行ルート取ってるし、相変わらずの不人気ダンジョンだから安定して稼げたのが大きいなあ。


「ひとつの目標クリアじゃん、おめでとう」

「サンキュー。……で、そういえばゆ~かは魔法どうするのか決めたのか?」

「魔法……まだ決めてない。なんか、自分は魔力低いってずーっと思ってきたから、『LVが上がればいつか10にはなる』っていうのがスポーンと頭から抜けてたみたいで」


 私はため息をついた。あれほど望んだMAG10で、魔法も取れる様になったのに、なーんにもビジョンが見えてこないんだよね。


「ある意味3人でいると役割分担できちゃってるから、考えにくいのかもな」

「それはあるね」


 攻撃魔法・回復魔法の蓮、物理攻撃の私、補助魔法と防御の聖弥くんってバランスが取れている。

 役割がきっちりしちゃってるから、今更私が魔法を取っても……という感じはあるんだよね。


「え? そこは回復魔法じゃないの? 柚香ちゃんの場合ほぼ決まりだと思ってたけど」


 私が悩んでて蓮が「わかるー」って感じで頷いてくれてるのに、聖弥くんはむしろ「なんで回復取らないの?」ってスタンスできたよ!


「ほぼ決まり? なんで?」

「だって、飼育員目指してるんでしょ? 回復魔法あったら便利だよね」

「それだー!」


 ついつい、冒険者でいる間のことしか考えてなかったけど、飼育員としてのスキルと捉えれば回復魔法は確かに便利だね!

 病気までは治せないけど、例えば小動物とか小さな怪我でも大事に至りやすい場面に対しては凄く有効。あと、猛獣の怪我も接触しないで治療できるってところが便利。


「コロッと忘れてたよー。さすが聖弥くん! ありがとう」


 私はダンジョンアプリを立ち上げて、スキルの項目をタップする。

 そして初級ヒールを選択すると、ステータスに「スキル」の表示が増えてそこにはちゃんと「初級ヒール」って表示が!

 なんか嬉しいな。思わずにやけちゃう。


 まあ、蓮とさえ比べなければ、私にとってひとつの到達点だよ。うん、蓮と比べなければね……。

 蓮はMAGの伸びが異様だから、攻撃魔法も回復魔法も上級まで取り終わって、もうジョブ的には「マジックマスター」になっちゃってるんだよね。

 補助魔法は? とちょっと思ったんだけど、そっちは習得しなくてもマジックマスターになれるみたい。補助魔法まで全部取ればまた別のジョブになりそうだけど。


 とりあえず、現時点で攻撃・回復・補助まで全制覇してる人はいないんだって。

 蓮も、マジックマスターになったことで選択できる魔法を覚えたら取得ポイントがそれほど余らなかったらしく、補助までは別に憶えなくていいかって感じになってる。


 うん、補助魔法は聖弥くんがいるからね。ラピッドブーストは本当に便利だけど、私たちの場合は戦力飽和だから、パワーブーストとかはそれほど必要感じないし。

 聖弥くんもMAGが20越えたから中級補助魔法まで取ったけど、中級で取れるパワーブーストとデクスターブーストはまだ一度も使ってないね。


「ヤマト~! 初級ヒールだよ! 怪我したら私が治してあげるからね!」


 ヤマトを抱っこして頬ずりしたら、ペロって鼻を舐められた。

 うーん、愛を感じるね!



 Y quartetが3人揃って「ひとつの目標」をクリアした翌日、冒険者科の第一次進路希望調査があった。

 卒業後の進路の希望と、専攻の希望を調査するものだね。まあ、専攻なんて今更だから、ここで変わることはまずないんだけど。


「柳川、専攻希望を変更して欲しい」


 ……まずないって思ってたのに、その日の放課後大泉先生に呼び出されて、いきなりそんなことを言われましたがー!


「どうしてですか!? 私はテイマー志望を変更するつもりはありません」

「どうしてかなあ? おまえ、もうテイマーだろう? 学校で教えられることがないんだよ」


 あ。


「そうか……そうですね……」


 私の中での道は「テイマー」であってそれは揺るがないんだけど、学校のカリキュラム的には私は「テイマー志望」を満たさない。だってもうテイマーになっちゃってるから。

 そこんところ、別に考えなきゃいけなかったか……。


「柳川が戦闘専攻へ移れば、今年度の1年生にテイマー志望がいなくなる。そうするとテイマーの授業を設定しなくてもいいわけだ」

「ああ、そういう学校的な理由もあるんですね。わかりました、戦闘専攻へ志望を変えます」

「進路については第一希望は大学進学で構わないぞ。無理な成績じゃないし、柳川が今の希望のまま進むなら、それが一番の近道に思えるしな。来年度から専攻ごとの授業が分かれたときに、クラフトを選ぶか戦闘を選ぶかってところだけだったが、クラフトを取る意味はないんだよなあ」

「そうですね、DEX高いからスキルクラフトもずっと出てるんですけど、本気でやる人に失礼かなって思って取ってませんし」

「柳川は適当なようでいて、そういうところが真面目だな。先生はいいと思うぞ、その、人に敬意を払える姿勢は」


 最後にちょっと褒められちゃった。

 ――というわけで、うちのクラスから「テイマー志望」は絶滅し、私は戦闘専攻へ所属を変えることになったのだった。


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