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第169話 テストが終わったらどうなる? 文化祭準備が始まるんだ

 体育祭が終わって、テストが終わって、ダン配して……。

 その間に寧々ちゃんは冒険者協会にマユちゃんのことを報告したら、やっぱりレポート書かされたりしてて。

  冒険者協会にはアグさんを紹介してくれた毛利さんもいるし、寧々ちゃんと私が繋がってることは多分バレてる。

 アグさん師匠のことは伏せて、従魔を特訓した結果ということだけに絞ってたけど、毛利さんにはすぐそこのところはわかるだろうな。


 そして、通常の授業が戻ってくるのと同時に、文化祭の準備も始まった。息つく間もないとはこのことだよ……。



「それではうちのクラスは執事&メイド喫茶で決まりました」


 はっ! 昨日猫が大好きなジェル状おやつをサツキたちにあげていたらヤマトがいつの間にか混じって必死に舐めようとしてたときの動画を脳内再生してにやけていたら、文化祭の出し物が決まっている!!

 執事&メイド喫茶? うん、そりゃ蓮とか聖弥くんが執事をやったら似合うだろうなあ。個人的には彩花ちゃんも執事の方で見てみたい感じ。


「異議あり!!」


 後ろから凄い切迫した蓮の声が、教室の窓ガラスを震わせる勢いで響いた。


「異議受け付けません。もう決定しました。多数決で」


 文化祭実行委員の柴田さんは無慈悲に黒板の他案を消していく。

 蓮が異議あり? 執事とかのコスプレ好きそうだけど。


「男装執事はともかく、女装メイド喫茶なんて誰得なんだよ!」


 はい?

 やばっ、私大事な話をずーっと聞き逃してたみたいだぞ!?


「体育祭のおかげで長谷部さんのファンクラブができてるし、男装執事喫茶は圧倒的に人気が取れるでしょ。それに、研究展示とかの方が当日楽できるけど事前準備の方が大変で、脳筋冒険者科としては体育祭みたいな思いはしたくないっていうのがみんなの一致した意見じゃん。

 安永くんもいい加減諦めろ」

「ぐっ……ぐぬぬぬぬ……」

「まあ、飲食店枠は上限が決まってるから、実行委員会に案を提出した後でも100%今の案で決定じゃないから。枠内に出店希望が収まればこのまま決まって、オーバーしてたらそこで抽選があるからさ」

「頼む、他のクラス飲食店希望してくれ!」


 蓮が祈る必死な声が後ろから聞こえてくる……。

 何故こうなった?



 脳内動画の再生で反対意見も出さないほどぼけっとしてましたとおおっぴらに言えず、私はこそっとかれんちゃんの帰り際を捕まえて経緯を聞くことにした。


「柚香……あんたねえ……」


 物凄い呆れられたけど、そのくらいインパクトでかかったんだよ!

 証拠としてスマホに保存した動画見せたら、かれんちゃんもデレデレになって、「ベルーガほどじゃないけどこれなら仕方ない」って言ってくれたしね。


 かれんちゃんがうまく話を要約してくれたけど、最初にいくつか案が出た中でお約束の様に喫茶店が出たそうな。

 そこに中森くんが「普通の喫茶店じゃ話題にならないから、女装メイドと男装執事にしようぜ! 俺メイド服着てウケを狙うわ」と男前な発言をし、寧々ちゃんが「長谷部さんのファンクラブができてるから男装喫茶は当たると思う」って補足を入れたんだって。


 彩花ちゃんのファンクラブ……なにそれ初耳。

 でも初耳だったのは私だけじゃなくて、彩花ちゃん自身も知らなかった。

 なんでも、写真部が撮影して掲示した体育祭の写真の中に、彩花ちゃんファントムが切ない表情でクリスティーヌに手を差し伸べてるのがあったそうなんだよね。

 女子の男装ファントムで、長い髪で背の高い彩花ちゃんがやってるってところが一部の乙女心をくすぐり、局地的人気が出てるらしい。


 わかる気がする。彩花ちゃんファントムは、私を略奪しようとあの手この手を使ってさえいなければ、見た目だけはかっこよかった。

 彩花ちゃん割と胸があるから、それが隠しきれなくて、「女子の男装」ってはっきりわかるところも萌えポイントだったよね!


 そして、女子が割と「執事の格好してみたいー」と乗ったのと、男子の中で男気溢れる奴らが「一生に一度くらいメイド服を着るのも辞さない! ウケたい!」と中森くんに続いて出てきたので、多数決の結果そのまま決まってしまった、と。

 まあ、中には「安永と由井のメイドがウケないはずはない」って意見とか、「柳川の執事も絶対需要がある」とか、当人に関係なく盛り込まれたものもあるんだけどね。


 まあ、私は執事やるのにやぶさかではないね。むしろ楽しそう。

 問題はさ――。


「ぜーーーーーったい、やりたくない!」


 うちに着いてまでプンスコしてる蓮ですよね。

 聖弥くんは割と「まあ、それで人気が出るなら」って割り切ってるらしくて、蓮みたいな反応はしてない。


「どうしたの、蓮くん」


 トレーニングウェア姿のママがそんな蓮を見て目を丸くしている。


「クラスの文化祭の出し物が、男装執事&女装メイド喫茶になっちゃって」

「そもそも中森のメイドだって俺は見たくない! あんなに肩幅あってケツアゴの男のメイドとか絶対嫌だ!」

「やだーーーーー! なにそれ楽しそう!」


 ママの声が1オクターブ上がったよね……。うん、絶対好きだと思ったんだ。


「そうそう、これ見て! 女装と言ったらヒロキくんじゃない? これ、今日X‘sに告知入ってきた次の舞台のキービジュ! 美しいわよねえ」


 ヒロキくん、の一言で思わず蓮がママのスマホを覗き込む。ヒロキくんっていうのはお刀ミュージカルのキャストのひとりで、中性的な演技と圧倒的な歌唱力で定評があるんだよね。蓮も「鳥肌止まらない」って前に言ってたなあ。


「今回の舞台、全員男性でやるのよね。だからキャストの半分くらい女装だけど、ほら、この子もこの子も蓮くん知ってるでしょ」

「…………俺、女装します」


 私から見ても美しすぎるヒロキくんの女装主人公に、蓮があっさり手のひらを返した……。

 チョロすぎない?

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