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第167話 鎌倉ダンジョンボス戦突入

 マナ溜まりを見て「きれーい」とちょっと騒いだ後、サクサクと18層・19層を攻略して20層の階段で休憩を取ることにした。

 ボス湧き情報掲示板にある鎌倉ダンジョンのボスの「倒しました」報告は、直近で4ヶ月前だったからほぼ確実にボスがいると思っていいね。


 まあ、書き込みは任意だから、最近誰かが倒してるかもしれないけど。

 その場合はここからの戻りのための休憩でもある。


「ここのボスってなんだっけ」

「スケルトンロードだよ。大剣持ってて、普通のスケルトンやレイスも召喚してくる」


 マップは完全に頭に入れてたけど、ボス情報までは覚えてなかった。

 何の気なしに尋ねた私に聖弥くんがスラスラと説明してくれた。偉いね、ちゃんと事前に調べてる!


「どうやって戦おうか」

「蓮の魔法で倒すのが一番簡単だけど……」

「それじゃあつまらないよね」


『ボス戦に対してつまらないって言葉が出てくるおまえらが恐ろしいわ』

『ここまで2時間ってのもおかしいぞ、十分』


「いやー、そこはそれ、効率の良いルート通ってますんで」


 時間を食う一番の理由であるヤマトも、結構な率で封じてるしね。

 でもボス戦では大暴れしてもらうよ。


「いっそ、ここまで見せ場がなかったヤマトを解き放つのもありかな」

「俺らの経験にならねえじゃん」

「お姉ちゃんはどう思います?」

「んー? 良きにはからえー。はっはっは」


 お殿様かな? 先輩は自分のパーティーじゃなくて「あくまでサポーター」って意識が強くて、意思決定とかには関わってこないんだよね。

 今回は罠もなかったし宝箱も見つけてないから、ちょっと攻撃して付いてきてるだけの人になってる。


「いやー、ほとんど何もしないで経験値だけ入ってくる、美味しいお仕事ですわー」


 スマホで自分のステータスをチェックしながらほくほくしてるもん。あいちゃんもこんな感じだよね。クラフトは大変だからこういう機会がありがたいんだろうなあ。


「スケルトンロードにはゆ~かちゃんとヤマトがアタックして、召喚された他の敵は僕らで潰す。蓮は初級魔法縛り……みたいな加減でどうかな」


『ボス戦に縛り入れてるの初めて見たぞ』

『ここまで散々時間短縮のチートコンボ見せられたから、今更感が強い』


 コメントに私たちは思わず顔を見合わせた。3人でアイコンタクトして、頷き合う。


「そうだよなー! もう今更だよ! サクッと倒してさっさと帰ろうぜ!」

「もう蓮の魔法一発で終わらせちゃおう! 眷属召喚される前に倒せばいいじゃん!」

「いや、わざと召喚させて経験値稼ぎしようよ。確か眷属召喚はMP消費なしで一度に10体くらい召喚してくるから、どんどん召喚させてアクアフロウとかで倒してれば経験値効率がいいと思うよ」

「さすが聖弥くん、策士~」

「ははは、それ今回は褒め言葉だよね」


 一気に明るく酷い作戦を立て始めた私たちに、コメント欄は大草原になった。



「さて、聖弥くんの立案で、『ボスで経験値稼ぎ作戦』遂行しようと思います。行くぞー、オー!」

「オー!」


 私たちは意気揚々と20層に降りようとし、最後の1段で立ち止まった。

 ここはボスエリアだから、今までのフロアよりもかなり狭い。そしてボスが――あれ?


「待った、ストップ。あれはスケルトンロードじゃない」


 離れたところから見てもはっきりわかる違いがある。骨じゃなくて、馬に乗ってるし全身鎧だよ! 馬もでっかいね。ばんえい競馬の馬? って一瞬思ってしまうくらいだ。


「デュラハンじゃない?」


 馬上の首無し騎士が首を小脇に抱えてるところに着目した五十嵐先輩が、ぽつりと呟く。


「………………」


『レアボスじゃねーか!』

『運が良いんだか悪いんだか』

『気を付けて! 中級のレアボスは上級ダンジョン中層の敵に相当するよ!』


 私たちが絶句している間に、コメント欄はアドバイスとか悲鳴とか草とかが大量に横切っていった……。


「デュラハンじゃなくてデスナイトだって。――まずい、あの鎧、魔法反射の効果がある」


 ダンジョンアプリでボスを撮影して、すぐ情報を調べた聖弥くんが硬い声で告げた。

 蓮の魔法で速攻は無理か……じゃあ、私とヤマトが行くしかないね!


「デスナイトには私とヤマトが攻撃するから、聖弥くんは蓮とミレイ先輩を守って」

「了解。こっちに攻撃が来ても僕が防ぐよ。眷属召喚もしてくるみたいだから、そっちの敵は蓮お願い」

「オッケー」


 ざっくりと作戦を立てて、私たちはそれぞれの役目に沿って動き出す。


「行くよ、ヤマト!」


 20層に降りた瞬間から、私とヤマトはデスナイトに向かってダッシュした。階段での休憩の時に木刀は収納したから、走りながら村雨丸を抜き放つ。


「グガァアアアア!!」


 鼓膜をビリビリと震わせる様なデスナイトの絶叫が響き渡った。それと同時に、地面のあちこちからアンデッドモンスターが湧き出る。

 それは蓮たちに任せることにして、私とヤマトは一直線にデスナイトだけを狙う!


 全力で走るヤマトはやっぱり速い! 鋭い犬歯をむき出しにして唸りながら、ヤマトはデスナイトに飛びかかった。

 馬の胴体を蹴り飛ばし、10トントラックすら転ばせると言われる力でデスナイトの巨躯を横倒しにする。デスナイトは剣を振りかざしたけど、ヤマトに当てることはできなかった。


 うん! ヤマトは凄い強いけど、的としては小さいからこういうとき凄く有利なんだよね。

 私も、道場での訓練の成果を出すぞ!


「キェアアアアアア!!」


 目の前の今まで遭遇したことのない様な大きさのモンスターから肌を刺す様な殺意を向けられて、私は思わず叫んでいた。相手の気に飲まれないよう、こちらの気合いで圧してやる! という気持ちで。

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