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第166話 鎌倉ダンジョンを観光する

 10分の休憩をした後は、今までも散々暴れ回った10層はスルーして、初めての11層へ。

 もちろん、この先の地図も私の頭の中には入ってる。中級ダンジョンだから、部屋という概念は出てきたけど、まだすっごい迷路になってるとかじゃないんだよね。


「この先も基本的に大部屋優先のルート取りをして」

「了解!」


 聖弥くんの指示は的確だ。はっきり言って、多分最下層に行くまで蓮の氷魔法コンボが通用する。

 それは間違いないんだけど、聖弥くんや私の戦うスキルが上がらないんだよね。


「聖弥くん、ここからは1層ごとに先頭を交代ね。戦闘も経験しないと。ルートの指示は後方から私が出すから」

「そうだね。ありがとうゆ~かちゃん」


 大部屋があればそっちを通った方が早いけど、必ずしもそれがあるわけでもなく。

 先頭を行く私は索敵しながら――あ、そうだ。


 通路で行き会ったリビングアーマーを、イスノキの木刀でなぎ払う。これには何も補正が付いてないんだけど、村雨丸は腰に佩いたままだし、私のステータス自体が上がってるから一撃だね。


「ハッ!」


 踏み込みと一緒に2体目のリビングアーマーに木刀を振り下ろすと、バラバラになってすっ飛ばされた鎧が後ろのリビングアーマーに直撃してそっちも倒れた。

 うーん、この手応え、イイ!! ストレス吹っ飛びそう!


『木の棒で戦ってやがる……』

『ゆ~かのステータスだと木の棒でもまとめて敵を倒せるのか』

『マイエンジェル!! かっこいいよぉぉぉー!』


 あ、この叫びは体育祭で会ったOGの瑠璃さんだな。そっかー、時々凄い熱量のコメント入ると思ってたけど、あれは瑠璃さんだったんだね。


「東海道線の女さーん、今日も見てくれてありがとうー」


 カメラに向かって手を振って投げキッスのファンサービスをしたら、凄い悲鳴が流れていった。うん、やっぱり瑠璃さんだ。


「あと、これは私が習ってる剣術の流派で使ってる木刀で、普通の木刀より重くて硬いんです。ダンジョンの木をこれで斬り倒すこともできます。ぶっちゃけ、木の棒というより鉄パイプ振り回してる様なもんで」


『鉄パイプ、だと……?』


 ただの木の棒と思われては困るんだよ、と思って言っておいたら鉄パイプに反応する勢がたくさんいる!


『JKが鉄パイプで戦ってる世界線はここですか』

『木の棒で木を切り倒せるの!?』

『それな……』

『相変わらずゆ~かが一番雄々しい件』


 雄々しいとか言われてしまった。でも自顕流は雄々しいから仕方ないね!


 私の場合猿叫は癖になってはないから、呼吸と短い気合いの声だけでなんとかなる。

 11層はちょっと通路がぐねぐねしてて大部屋ショートカットができなかったんだけど、そんなに広い通路じゃない分敵も展開できないわけで。

 向こうが群れで出てきてても、私としては1対1が複数回と変わらないから、ビシバシとリビングアーマーを木刀と蹴りで後方にすっ飛ばして、まとめて倒すことを繰り返した。


「その木刀、凄いな」


 私の戦い方に、蓮が若干呆れ気味ですよ。まあね、金属製っぽい鎧を破壊する木の棒ってなんだろうっていう気は私も少ししますわ。

 でも、硬いからねえ……。このステータスが乗ったら純粋に凶器なんだよね。


「いいでしょ!」

「いや、俺は別に欲しくないけど」


 思いっきり自慢してやったら、ロータスロッドを抱えて否定された。そういえばあれも思いっきり振るとかなりの鈍器なんだよね。


「蓮、白兵戦してみる? ロータスロッドで前にスケルトン倒してたじゃん」

「あー、そうだなー。やってみるか」


 というわけで蓮と先頭を交代。蓮は武器の扱いがうまいわけじゃないけど、先端に重心があるロータスロッドは、振りかぶって叩きつけるだけで破壊力抜群なんだよね。


「俺でも倒せるぞ、ここのリビングアーマー」


『違う、別にリビングアーマーが弱いわけじゃない。おまえらが補正込みで強すぎるんだよ』


 蓮の一言に正論が返ってきて、蓮が目を見開いて驚いている。


「補正込みでもSTRは100ないけど?」


『十分だっつーの』

『むしろ中級ダンジョンにはそれでも飽和戦力』


「そうなんだ……ゆ~かと聖弥は補正込みだと200越してるから」


 目から鱗! って感じに蓮の驚いた顔がカメラに映されている。うん、私も目から鱗。


『比較が悪すぎるな……』

『中級をメインに活動してる層だと、補正込み70もあれば良い方だぞ』


「えっ、そうなんだ! そういえば、もっとレベル低かったときに上級ダンジョンでデストード倒せたもんね」


『上級の敵を倒し済み……とな』

『もう何を言われても驚かないつもりでいたが、いつも予想の上を行くのよなあ』


 このランク帯ではこのくらいの強さってのがいまいちわからなくて、「中級に慣れてから上級に行こう」と思ってたけど。そっかー、中級ダンジョンの敵は私たちには弱すぎるのか。

 でも戦う技量は上がってないから、まだ気分的には中級ダンジョンなんだよね。


 次の層は聖弥くんが先頭に立って、右手にエクスカリバー、左手にプリトウェンを持って戦った。

 通路で敵が固まってるところではシールドを構えて突進していって、シールドチャージで一気に敵を倒したり、なかなか戦い方がうまくなってる。


 15層からはヤマトを解放したけど、大部屋にヤマトが駆け込む前になんとか止めて、「やーん」とバタバタするヤマトの口に魔石放り込んでおとなしくさせつつ蓮の魔法で敵を片付ける。これが一番早いね、やっぱり。


 1層ずつ先頭を交代しつつ18層まで行った時、私はあることを思い出した。


「そうだ、ここってマナ溜まりがあるんだよね、見ていこうよ!」

「見てみたーい!」


 五十嵐先輩が真っ先に賛成してくれた。蓮と聖弥くんも反対しなかったので、ちょと遠回りだけどそっちを通っていくことにする。


 マナ溜まりっていうのは、ダンジョン内に稀にあるもので、魔力が凝縮された物とも、龍脈の吹き出し口とも言われてるものだ。

 結局なんなのかは、まだ解明されていない。


「わあ、綺麗!」


 敵のいない小部屋の隅に、黄色い光を放つ泉の様な場所があった。

 ここのマナ溜まりは小さくて、半畳もないかな。


 上から覗き込むと、底が見えないくらい透き通っていて、でもここにあるのは水ではない。ゆらゆらと光を反射してとても綺麗だけど、ここに落ちた人間は発狂して廃人になってしまうという危険なものでもあったりする。


「へー、初めて見た」

「危ないって聞いてたけど、これだけ小さければ落ちることはないね」


 下に光源があるかのように、マナ溜まり自体がほわんと光っている。うーん、鎌倉ダンジョンじゃなくて別のダンジョンの海とか森エリアのだったら、映える写真が撮れそう。

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