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第165話 アレをゲットしました(2個目)

 鎌倉ダンジョンは、この近辺にある他の中級ダンジョンに比べると不人気だ。

 理由は、やっぱりアンデッドに対して属性持ちの武器の方が戦いやすいから。


 まあ、私たちくらいステータスが高ければ、特効だろうがそうじゃなかろうが関係ないんだけどね! 基本的にオーバーキルだから!


「目標、10層まで20分。できるだけ戦闘は避けて」

「了解」


 聖弥くんの指示に他の人は頷く。

 隊列は先頭が私、次が蓮、五十嵐先輩、聖弥くんと続く。

 何度も10層までは行ってるから、私の先導もスムーズだ。


『前回の鎌倉ダンジョンの時と動きが違うぞ』

『こっちが本気か……』


 あまりにサクサク進む私たちにそんなコメントが流れていったので、思わず「そんな、人を聖弥くんみたいに」って思ってしまったよね。


「いや、実は体育祭の練習中も夜1時間だけって時間決めてここに毎日来てたんです。ほんと不人気で楽でした」


『狂ってたと噂の体育祭の!?』

『あれ? ゆ~か雑談配信の時に、体育祭の練習が大変すぎてダン配できなかったって……』


「ダン配できないでしょー、1日1時間のRTAだと。必ずここに来ると思われてまた待ち伏せされるのも嫌だし」


『納得』


 納得してもらえたみたいだ。よかったよかった。


 基本、通路の方が敵は少ないんだけど、接敵してしまった場合必ず戦闘になるので、私たちは広間や大部屋と言われる場所を選んで通る様にしている。

 何故かというと――。


「アクアフロウ! フロストスフィア! ハリケーン!」


 ドガガガガッ! と壁に氷の破片が刺さる音が聞こえる。

 蓮の氷コンボが部屋の敵を丸々殲滅している間、私たちは入り口の手前で待ってるだけですよ。

 しかもね、これだとヤマトに魔石食い荒らされることがないの。

 最初に拾った一個を口に放り込んでおけば、ボリボリしてるから。


「ヤマトは私が抱えておくから、頑張って拾ってー!」

「ラジャー!」

「これは楽だわー」


 ドロップ品だけが残った8層の広間で、みんながせっせと戦利品を集めている。

 集めては私のアイテムバッグに放り込む簡単なお仕事ですね。


『何があった……?』

『蓮くん、魔法を連続して使ってたね』


「蓮の潤沢なMPと高いMAGあっての戦法ですけど、アクアフロウででっかい水球を生み出してすぐさまフロストスフィアで凍らせて、トルネードで壊しつつ周囲に氷の破片を高速でばら撒いてます。ママ曰く『クラスター爆弾』だそうです」


 ヤマトを抱えるという重大ミッションをしている私は右手だけ開いてるので、今起こったことを一応解説しておいた。

 おおお……コメント欄を悲鳴が乱舞していく。


「いやでも!? 部屋の敵が一掃されるほどの水量と勢いがあるのおかしくないか!?』


 そんなコメントを目に留めて、両手いっぱいに拾った魔石をアイテムバッグにザラザラと流し込みながら蓮が事もなげに呟く。


「俺今、MAGが補正入れると300近いから」


『はぁっ!?』

『頭が理解を拒否する数字が』


 うん……なんでもない風を装っているけど、今蓮は内心ガッツポーズしてるよ。

 300っておかしいもんね。

 私なんか未だに補正がないとMAGもRSTも1桁ですが!


「ちなみにMPは補正入れると300越えてるから。この戦法10回は使える計算。そこまで使ったことはないけど」

「蓮の場合、ファイアーボール連発よりMP効率も良いんだよね。いざとなったらマジックポーションもあるし」

「そうそうー。もう少しMP削減できないのかな? っていろいろ試してみたんだけど、時間がかかったりして、今のところこれが一番早いんですよー」


 聖弥くんと私の補足も入って、コメント欄が「なんだこいつら」って感じのコメントで溢れかえる。


『草不可避。大草原』

『いや、ぺんぺん草も生えねえって奴では』

『見てるか、襲撃しようと思った奴ら。こいつらもはや歩く兵器だから手を出すんじゃねえぞ……』

『強すぎて、もはやなんでダン配してるか分からなくなるんだよなあ』


「え、知名度稼ぎですが? ある意味珍しい物見られるでしょう?」


 爽やかな聖弥くんの笑顔に、今度は「……」が弾幕で通り過ぎていった。



「10層への階段に到着……25分かかったね。ちょっとここで休憩しよう」

「大部屋ふたつあるからね。拾うのが地味に時間かかる」

「なんか、片方やけにドロップ多くなかった?」

「あ、そういえば視界をゴーストが塞いでたから中がよく見えなかったけど、モンスターハウスだったかも」


『気づいてもらえなかったモンスターハウスが不憫すぎるぞ』


 うん、その通りとしか言えないコメントですね。

 ヤマトに魔石をひとつ預けておいて、それをボリボリしてる間に私たちも階段で休憩。

 そっかー! 時間かかるなって思ってたけど、モンスターハウスだったのか!

 それは3人で拾ってもドロップが多いわけだよ。


「そういえば、さっき指輪拾ったけど、鑑定してみない?」


 五十嵐先輩がワクワクした顔でおねだりしてくる。3年生でもこんな戦い方ができるパーティーはないから、ドロップザクザクゲットはドーパミンがダダ漏れになるんだろうなあ。


「あ、そうですねー。指輪は1個だからこれか……って、鑑定してないけど私わかったかも」

「は? どういうこと?」

「じゃん」


 私はアイテムバッグから指輪を取り出し、左手に乗せた。

 興味津々で五十嵐先輩が覗き込んできて、聖弥くんは一瞬顔を強ばらせ、蓮は飲みかけてた水でむせた。


「……毒無効の指輪?」


 私が右手の中指にはめている、緑色の石がはまった指輪と見比べて聖弥くんが呟く。


「だと思う!」

「ビンゴ! ある意味凄いねー」


 五十嵐先輩、鑑定して爆笑してるよ。

 うん、拾ったのが私だったらその時に気づいたと思うんだけど。石がね、同じだから。


「おい、ゆ~か! 物欲センサーが誤動作してる! 普通は『欲しいと思うほど手に入らない』ものなんだぞ!?」

「てへっ☆ でもこれでみんなで毒きのこ企画に一歩近付いたね!」

「じゃあ、これは蓮にあげるよ」


 わーお、聖弥くん、毒無効の指輪を蓮の右手の中指にはめてるよ。

 何を見せられてるんだろう、私は!!


「聖弥……」


 すっごい苦虫噛み潰した顔で蓮が文句を言いたげに聖弥くんを睨んでるけど。何か不満でもあるんですかね?


「えー、蓮は不満なのー? 聖弥くんに指輪はめられるのは嫌だとー?」

「はぁ? いや、そうじゃないだろ……。そっか、おまえそういう奴だった!!」


 蓮がぷんすこしてるのは、私に対してですよね? なんでー?


「見て見てー、お揃いー」


 私の右手と蓮の右手を引っ張って、五十嵐先輩がカメラに向かって並べてみせる。


『お揃いだ!』

『お揃いが不満?』

『どうせ聖弥くんもはめるのじゃろ? そのうち』

『うわあああ、お揃いだー!』


 何故かコメ欄は盛り上がってるけど……。私の予定ではもうひとつどこかで拾って、聖弥くんにもはめさせるつもりですが?

 私と蓮がお揃いだと盛り上がるの?

 解せぬなあ。


 そして、何故蓮は耳を赤くして下を向いてるんですかね。


「先輩……やめてください」

「ごめーん、許して☆」

「わかっててやってるぞ、この人。たち悪いな」


 んー。私だけ何かがわかっていない雰囲気?

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