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第163話 乙女5人の雑談配信・2

「いやー、ぶっちゃけ、MV作ったときより練習しましたもん。自分でもスキルが上がったのが分かったくらい」

「ゆ~かちゃんと蓮くんは本当に凄かったよねえ。いいもの見させてもらったよー」


 五十嵐先輩、ソファの背に腕を載せて、脚も組んでるしほぼオヤジのポーズである。最近の密度の高い付き合いでわかったけど、この人は女子高生のガワを被ったおっさんだね。

 まあ、女子高生なんて結構そんなもんだけどさ!


「それで、私たちはオペラ座の怪人をやったわけなんですけど、私はそれまで見たことなかったんです。でもアイリちゃんと一緒に衣装係になって、マスゲームではここの3人はクリスティーヌやって……一体、何回映画見たかなあ」


 寧々ちゃんが遠い目になってる。わかるよ、振り付け係も同じだったもん。あいちゃんもうんうんと頷いて寧々ちゃんの後を継いで話した。


「そう、同じシーンを繰り返し繰り返し……。でも映画とかミュージカルの衣装を再現するのはマスゲームって特性上無理だから、デザインよりも『最初は控えめなクリスティーヌの衣装を、途中で派手に変化させるにはどうしたらいいか』とかのギミックに頭悩ませたよね」


『ああ、一度グラウンドに出ちゃうと衣装替えはできないか』

『そこは劇とは違うのよなあ』


「そうなんですよー。しかもね、あの長い話をA4のプリント1枚にまとめたの! 滝山先輩凄いよね! それを10分の演技時間内に収まる様に振り付け係めちゃくちゃ頑張ったんだよ! 褒めて!」

「衣装係だって頑張ったもん!」

「大道具だって以下略!!」


『ゆ~かが振り付け係で、ミレイが大道具係、後は衣装係でおけ?』

『うちの高校、そんな本格的なことやらなかったわー』

『ゆ~かちゃんとアイリちゃんと寧々ちゃんはみんなクリスティーヌ? クリスティーヌ3人いるの?』


 コメント欄は感想や質問がざーっと流れていく。とりあえず私は拾えた質問に答えることにした。


「マスゲームだから、集団行動なんですよ。クリスティーヌとファントムとラウルは10人ずつ。冒険者科は女子が少ないから、髪の毛の長い女子はほとんどクリスティーヌやってた感じでした。本番もね、モバイルバッテリーとポータブル電源でヘアアイロン使って、髪巻いて」

「去年優勝した赤組のカルメンはそこまでやってなかったけど、できるからにはやるでしょ!」


 滝山先輩、鼻息荒いなあ。まあこの人は今回「できそう」と思ったことは全部実現させちゃったんだけども。


「この勢いで突っ走る滝山先輩に付いていくので必死でした」

「いやー、私も滝山ちゃんがここまでやるとは思わなかったよー。でもおかげで演出賞って特別賞が取れて、マスゲーム優勝して、体育祭の総合優勝もできて。……熱かったね! 最後の体育祭で冒険者科念願の優勝ができて良かったー」


『冒険者科、優勝できてなかったのかい』

『体育祭で無双しそうなのになあ』

『ハンデとかあったのでは?』


「鋭い! ハンデ凄かったです。陸上競技は1.5倍走ったし、バランスが必要な競技はおもりベスト着せられましたよ。まあ、私には関係なかったけどね!」

「うん、ゆーちゃん凄かった。いわゆる馬の背渡りの競技があったんだけど、もう八艘飛びだったもんね。陸上競技は長距離になればなるほど冒険者科有利になるんだけど、100メートル走とかだと追いつく前に終わっちゃうんだよねー」


『冒険者はスタミナも上がるからな、長距離の方が有利なのは納得』

『キャスティング教えて!』


「キャスティング、いい質問来ました。これは滝山先輩にお願いしようかな」

「はいはい、任されたよー。基本的には、クリスティーヌとファントムとラウルがメインで、あと名前付きでいたのは私がやったマダム・ジリーとカルロッタとメグ・ジリー。それと支配人くらいかな。あとはモブダンサーみたいな感じ。

 クリスティーヌ全員を目立たせる必要はなかったから、ダンスができるアイリちゃんとゆ~かちゃんに目立つところはソロで踊ってもらったりして、他のクリスティーヌは簡単な振り付けしてたね。

 訊きたいのは蓮くんと王子様でしょ? 蓮くんはゆ~かちゃんと組んでるファントムで、王子様はアイリちゃんと組んでるラウルだったよ」


『待ってw 王子様って聖弥くんのこと?』

『学校で王子様って呼ばれてるのは草なんよ』

『聖弥くんwww』


 あ、これ後で聖弥くんに怒られる奴かもしれない……。まあ、私じゃなくて滝山先輩には怒れないから大丈夫だよね!


「ファントムとクリスティーヌとラウルはメンバー固定の3人組で、生歌唱を入れると決めたときから蓮くんとゆ~かちゃんが組むのは決まってたのね。で、アイリちゃんは美人だしバレエもできるから、王子様と組んで主にラウルとクリスティーヌふたりのシーンでメインをしてもらってたの」

「そうそう、だからアイリちゃんと王子様のチームは『チーム「ビジュアルがいい」』って言われてたんだよねー」


『そのまんますぎるwww』

『蓮くんファントムと聖弥くんラウル見たかったー』

『ビジュアルがいいファントムが気になるなあ』


「あ、写真あるけど、聖弥くんと蓮に確認取ってないんだー。ちょっと訊いてみる」


 ――って、言った瞬間私のスマホが鳴って、蓮と聖弥くんからLIMEで「いいよ」って言われましたし! 思わず吹いちゃったじゃん!


「見てた! ふたりともこの配信見てた! 見せていいっていうから写真公開しますー。じゃん!」


 最後に記念撮影した、3人だけの写真があるからそれを映したらコメント欄が凄い勢いで流れていった。


 うんうん、雑談配信こういうところが楽しいよねえ。

 ちょこちょこと質問に答えたりしながら雑談を続けて、最後に「どこかで見られないの?」という質問があったので、私たちは顔を見合わせた。


「学校とか保護者が撮影してた動画は、全部じゃないけどourtubeにアップされることがあるよねえ」

「でもいわゆる全景映像だから、結構ひとりひとりは小さいよ」


 3年生ふたりが説明をしたところで、背後から不気味な笑い声が聞こえてきた。


「ふっ……フフフフフ……心配ご無用よ! あの時人手を総動員して、いろんな角度から動画を撮影してたの。それを編集するつもりよ! 編集するのはゆ~かだけどね! 冒険者科の許可が出ればアップできるわ!」

「ママ!」


 画面の外から、サンバ仮面被ってないママが叫んでる。

 う、うわー。人手を総動員して、って……。でもやりそうだなあ。

 中学から一緒だったあいちゃんとかれんちゃんと彩花ちゃんところのママたちとはもちろん繋がってるし、それだけでも4ヶ所から撮影できるもんね。

 ベストな動画をあとで共有しましょ、とかの提案で、ママたちは釣れそうだし。


「えー……そういうことだそうです」

「頑張って許可取るね!!」


 滝山先輩がえらい意気込んでる。これはもう、みんなOK出すね。この期に及んでマスゲームの映像が出るの嫌だと言える人間は、冒険者科にはあまりいない。優勝もできたし、燃え尽きるほどヒートしたもんね。


「じゃあ、許可が取れたらうちでアップするって事で。それまでお待ちくださーい」


『お待ちしております』

『待ってます!』

『全裸待機』


「服は着て。じゃあ、そろそろ1時間なので締めたいと思います。体育祭、大変だったけど楽しかったよー! フォロワーのみなさん、次はダン配で会おうねー!」

「その前にテストあるけどねー!」

「それだ!」


 最後までわちゃわちゃと喋って、笑いながら体育祭を振り返る雑談配信は終了した。


 後日、ourtubeにアップされた動画は「蓮の演技がガチすぎる」とちょっとバズったりしたのでありました。

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