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第160話 得点ボードがシークレットになる頃

 ママとモブさんとコテハン「東海道線の女」こと瑠璃るりさんが来て、マスゲーム良かったよと絶賛していった。

 モブさんなんか泣いてたもんね。


「棒読みだった蓮くんがこんなに演技上手になるなんて」

「なんか……すいません」


 蓮は真っ赤になってて、どうもあの号泣は予定外だったらしい。

 ママは目をキラッキラに輝かせて、力強い握りこぶしを作る。


「蓮くんはね、MVの時から思ってたけど、キャラクターとか他人の演技を自分にインストールできる人なのよね。これからどんどんいろんな舞台とかを見て、引き出しを広げていけば凄い役者になるかもしれないわ!」

「あ、昨日の夜は俺もファントムのこと考えてて。

 愛してるから執着してて、あそこまで強引に自分の物にしようとしてるのに、クリスティーヌの覚悟見ちゃったら解放するってなんだろうって。自分の愛の重さと同じ重さを、クリスティーヌの中に見ちゃったのかな、絶対心は自分の物にならないってやっと気づいたのかなって……あ、あ、あー! そういえば柚香! おまえさっき俺の手に!!」

「ごめん! 勢い余って口ぶつけた!」


 てへっ、と私がウインクして謝ったら、周囲の人たちがへなへなと崩れ落ちた。


「サンバ仮面さん……とんでもない娘さんを育てましたね……」

「ゆ~かちゃんファンだからこそ言えるけど、蓮くん可哀想」

「キスした、じゃなくて『口ぶつけた』っておまえ……ほんとおまえさー!! チクショー! だからあの号泣ができたんだけどさ!」

「結果オーライじゃん。細かいことを気にするのはやめようよ」

「そう、結果オーライだよ! ほらみんな、着替えて着替えてー。マスゲームの次の競技の準備しないと」


 滝山先輩が仕切って、マスゲームの余韻にひたっている私たちを着替えスペースに追いやろうとする。

 あれ? この人が一番魂飛んでるかと思ったのに。


「滝山先輩、念願の『オペラ座の怪人』が完成したって感慨は?」

「私はもう成仏したよ! 正直後は、正面から撮影してた動画見ないとなんとも言えない」


 成仏済みか……なるほど。


「待って、ゆ~かちゃん、一緒に写真撮らせて!」

「私も私も! 写真OKだったら蓮くんと聖弥くんも一緒に!」


 着替える前に、と記念写真撮られましたわ。確かに、こんな髪型は人生でもうやることなさそう。


 一旦作ってしまった縦ロールを元に戻すのは大変なので、そのままポニーテールにして邪魔にならない様にセット。

 午後の私の出場種目は、400メートル走と組別対抗リレーだ。午後後半は選抜メンバーによる種目になってくるので、人によっては暇になってくるんだけど。


「え? 蓮くんと聖弥くんも選抜リレーのメンバーなの? 聖弥くんはともかく蓮くんも?」


 モブさんこと「SE-RENを推すモブ」さんが困惑してる。

 なるほど、SE-REN見てる歴が長いほど、そこに違和感を感じるんだよね。

 蓮のステータス、最初は酷かったもんね!


「あれでも一応、AGIの順で並べたらうちのクラスの男子ではトップ4に入るので」

「そうなんだ!?」

「あと、ここのところ毎晩ダンジョン行ってたから、更にLV上がってますしね。私は23で、蓮と聖弥くんが22ですよ」

「毎晩? まさか体育祭の練習の後に?」


 瑠璃るりさんがめちゃくちゃ驚いている。うん、OGだったら、練習が過酷極まることを知ってるもんね。

 でもそれ、普通科の基準だから。


「練習が終わったらうちでママのボイトレ受けて、ご飯食べて、その後ダンジョンですよ。さすがに昨日は蓮たちは行かなかったけど。私は通ってる道場の稽古でサザンビーチダンジョンで木を斬り倒してました」

「さすが冒険者科……」


 あ、冒険者科は基準別って一応知ってるんだね。そうか、大学生だったら冒険者科はもうあっただろうから、変態具合もわかってるんだ。



 女子400メートル走の前に、張り出されてるスコアボードに覆いが掛けられた。

 現時点では黒組は3位。1位との得点差は50点。

 逆転できない点数ではないから、ドキドキするね。


 黄色い声援を受けつつ、400メートル走へ。

 冒険者科だから、走る距離は600メートルだ。でも、あいちゃんも結構AGIは高いし、最近ステータス見てないけどかれんちゃんも彩花ちゃんもLVはそれなりに高いはず。

 そもそも、AGIトップ4ってことで選ばれてるしね。


 グラウンドのトラックは1周が400メートルだから、私たちは1周半って事で他の組とは反対側からスタートする。


「位置について、用意……」


 パァン! とスターターピストルが鳴って、かれんちゃんが駆け出す。

 見事な前傾姿勢で、腕の振りも綺麗。中学校の時陸上部だったからなあ。

 結果は、ギリギリで1位! これは期待が持てる!


 次は彩花ちゃんだったけど……ちょい手を抜いてるのが私には分かってしまった。でも1位だったから言わないで置こう。

 あいちゃんは惜しくも3位。


 そして私の番が来て――。


「位置について、用意……」


 乾いた破裂音とともに、全力で走る。ステータス高いのは分かってるけど、だからって手抜きするのは他の人に失礼だからね!

 普通科の7位を追い抜き、まとめて3人追い抜き……トップ走ってる子はさすがに速いけど、ごめん!


 AGI71で押し通るわ!!


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