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第152話 滝山版オペラ座の怪人

 体育祭の練習が体育に入ってきたということは、マスゲームの練習も佳境に入ってきたわけですよ。


 使う音楽は英語版のサントラ。雰囲気出せる方がいいって。

 キーになる部分だけ先に日本語歌詞を作って歌ったのを録音して流す。

 ただし、クライマックスのところだけは私と蓮の生歌唱だ。多分審査員のポイントは高いよね!



 滝山版「オペラ座の怪人」はこういう流れだ。

 開幕、布を被せられたシャンデリアが中央に配置されていて、その由来が語られてオークションが始まる。

 そのオークションの最中に、かつての輝きを取り戻した(布を引っぺがした)シャンデリアが吊り上げられる。


 堂々と登場する、一番衣装が豪華なオペラ座の歌姫・カルロッタ。その後ろでコーラスガールとして歌い踊るヒロインのクリスティーヌ。

 けれど途中でカルロッタが機嫌を損ね、退場。黒一色の服に身を包んだマダム・ジリーが「クリスティーヌが歌える」と言ってクリスティーヌが代役を務め、公演は大成功。


 その時、クリスティーヌの幼馴染みであり、新しいオペラ座のパトロンでもあるラウルが彼女に気づいた。

 再会で一気に距離が近付いたふたりだけど、クリスティーヌは自分に歌を教えた「エンジェル・オブ・ミュージック」に逆らえないし、エンジェルに夢を見ていてラウルに食事に誘われたけど彼よりもエンジェルを選んでしまう。


 そのエンジェル・オブ・ミュージックこそがオペラ座の怪人――ファントム・オブ・ジ・オペラ。醜い顔を仮面で隠し、オペラ座に潜む怪人物。そして、ロリコン――は言いすぎかな。娘みたいな年のクリスティーヌに恋しちゃってるからね。

 クリスティーヌはファントムの手を取って、彼が住む蝋燭だらけの地下へ。そこでの歌唱はミュージカル版だと圧巻だけど、さすがに尺が足りなくてちょびっとだけ。


 本来ここで作曲中のファントムの仮面を好奇心から取ってしまい、その醜い素顔をさらけ出させてしまったクリスティーヌはファントムを激怒させて「地獄に落ちろ!」とか言われてるんだけど、滝山版は醜い顔のせいで母にも嫌われ孤独に過ごしてきた、とファントムに同情を誘う流れ。


 まあ、「地獄に落ちろ!」より、「どうか私を嫌わないでくれ」ってクリスティーヌに取りすがる方がわかりやすいよね……。三角関係に持って行きやすいし。

 そこでクリスティーヌは「醜さは顔じゃなくて心に現れるものよ」とファントムに答えてその手を取る。


 元のミュージカルや映画だと抱きしめちゃったりキスしちゃったりとかがあるけど、さすがにそれはやらんね……というか、それをやろうとしたら黒組内でクーデターが起きるわ。


 とはいえ、クリスティーヌがファントムに向ける愛情は敬愛や亡き父に重ねてる部分があるので、ラウルとの恋愛も進行して婚約しちゃう。

 そこでファントムから支配人に要求が来て、次の公演ではクリスティーヌを主役にしろと。それを支配人たちが拒否して、舞台に立ったカルロッタは、歌ってる最中にシャンデリアが落ちてきて下敷きに……Oh。


 この辺でそろそろ「ファントムやばいのでは?」と気づいたクリスティーヌ。だがもう遅い。ファントムが作ったオペラの上演をクリスティーヌ主演で演じるようまた要求があって、惨劇の後だから支配人たちも要求をのむ。

 そして、そのオペラの上演中、クリスティーヌは役者のひとりに変装していたファントムに誘拐されて、ラウルじゃなくて私を選んでくれと懇願される。マダム・ジリーの助言で助けに来たラウルは、ファントムに捕まって首吊り寸前。


 他の場面では音楽の天使っていうのはクリスティーヌがファントムに対して言ってるんだけど、ここで滝山版はファントムがクリスティーヌに愛を告げる言葉として使われる。これは、私的にも解釈一致かな!


 結婚してくれなきゃラウルを殺す! と情緒大混乱中のファントムに、クリスティーヌは「これが私の心よ」と跪くファントムの手の甲にキスをする。振りだけだけどね。

 その行為に「ラウルを救うため」というクリスティーヌの真実の気持ちを悟ったファントムは、ラウルを解放して「ふたりでここから去れ!」と泣き崩れながら懇願。

 クリスティーヌは何度もファントムを振り返りながらも、ラウルと手を取ってその場を去って行く。

 そして、ファントムは蝋燭を倒して火の海の中に消えていく――。


 これを、10分で、やるんだわ……。食事中に話したら、ママは笑顔になった後固まってた。


「火の海をどう演出する!?」

「ファントムのマントの裏地を赤にして、最後そっちを表にして被ったら?」

「途中でも見えちゃうよ! ダメ! ファントムの衣装は白と黒だけじゃないとダメ!」

「なんで!」

「ラウルの衣装との差別化ができなくなる!」

「チッ……わかったよぉ!」

「表地と裏地の間に赤セロハンを仕込んで、ラストで引っ張り出して放り投げるのは!?」

「天才か!? それいこう!」

「クリスティーヌの衣装は……」

「裾の部分にスパンコールか何か付けておいて、最初は衣装と同じ色のシフォンのリボンとかを上に重ねて隠すのは?」

「なるほど……主役になってからはそのリボンを外して飾りを見せるってことねー。シフォンのリボンだったらウエストに結べば邪魔にならないし」

「待って! そのリボン、シフォンじゃなくて刺繍リボンにして、裏にドレスと同じ布縫い付けて、それで隠すのは? そうするとウエストに巻いたときにより豪華にならない?」

「それだー! クリスティーヌ一番金がかかるけど仕方ないか! ラウルが地味だしね!」


 滝山先輩含む衣装担当と大道具担当は工夫が凄いね……。

 ボードは両面使えるから、表面はオペラ座の特徴ある客席、裏面は地下の暗くて蝋燭がいっぱい立ってる場面。これは初期に決まってたのでボード担当は作業がかなり早くから始まってた。

 場面によってこれを入れ替えたりもするから、出番じゃない役の人でボードひっくり返したり、大道具こっそり動かしたり大変だよ。出番が限られてるカルロッタとかマダム・ジリーもそうだね。


 もちろん私たち振り付け担当も、滝山先輩の書いたシナリオに沿って、「ダンスを派手に見せて盛り上げる場面」と「簡単な振り付けで陣形移動や交差で表現する場面」を分けて、それぞれの振り付けを考えている。


 もう、なんだろう。振り付け担当は何回「オペラ座の怪人」を見たことか……。



 クリスティーヌは女子10人。実は私とあいちゃん以外はあんまりダンスができない人が多い。自然とクラフトばかり。

 ガチで動ける私とあいちゃんはクリスティーヌの代表みたいに出て踊るけど、モブクリスティーヌは簡単な動きの後はポーズ取ってるだけだったり。


 恐ろしいことに、真に踊れる人は男女ともにほとんどがモブに回っている……元の「オペラ座の怪人」自体がミュージカルだし、バレエ的な動きも多いからね。

 ダンス経験者の西山先輩が歌姫カルロッタなのもそのせいだ。注目をメインキャラに集めつつ、冒険者科の身体能力を活かして高い完成度に持って行く。


 てか、3年生の男子にバレエをやってたって人がいて、ジャンプして3回転してる! 凄すぎて開いた口が塞がらなかった。なのに、モブよ!


 うーん、戦略的……。私も今年は主役ポジションのクリスティーヌだけど、来年やるものでは一歩引いたキャラとかになるんだろうな。

 ちなみに大騒ぎした結果「総監督」の称号を付けられた滝山先輩の役は、マダム・ジリーだよ。これはある意味象徴的だね。黒一色の衣装はこの役だけだし、キーマン的存在だしね。


 そして、初回通し稽古で困った事が起きつつあった。

 予想済みだったけどね!

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