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第151話 便利に使われてませんか!?

 体育祭が近付いてくるから、体育の時間にも競技の練習が入り始めたよ。

 ……私的にいろいろ解せぬ。


「じゃあ、400メートル走女子は石黒と長谷部と平原と柳川。男子は倉橋と前田と安永と由井で」

「ちょっと待ってください! リレーとメンバーが被ってる! 思いっきり!」


 異議あり! と挙手して立ち上がった私に、なんか虚無の顔をした大泉先生が首を傾げてくる。あ、ホラー映画でこういう動きする人見たことあるなあ。


「組対抗リレーと400メートル走で、出場者が被っちゃいけないって決まりがないんだよなあ」

「おかしくないですか!?」

「普通の組だと、同じ人間を使うと疲労が激しくなるから分けるんだが、冒険者科だし。そもそも柳川――だと参考にならないから石黒、400メートル全力疾走の20分後に300メートル走るリレーに出て影響ありそうか?」

「ないですね」


 くううう、常識派のかれんちゃんがそう判断しちゃうんだね! 事実だけども!


「だろう? なら問題なしだ。足が早い順に選ばれるのは仕方ない」


 高LV高ステータスのあおりがこんなところで来るとは。

 いや、私別に体育祭嫌いじゃないよ。むしろ好き。

 文化祭も体育祭も、本番もそうだけど、準備期間のワクワク含めて好きなんだ。


 だけど、ステータスが高いからって私が凄い使い回しされてるんだよね!

 男子はLV最高の聖弥くんが勇者ステだし、その次の蓮はMAG偏重型、その下は須藤くんと倉橋くんと前田くんが同じLVだけど、須藤くんはそもそもクラフトだからDEX以外が全般的に低い。

 つまり、割と男子のステータス上位は似たり寄ったりのAGIを持ってるのだ。


 ところが私はAGI・DEXが高いタイプで女子ではひとり突き抜けてLVが高い。

 何が起きるかというと――。

 400メートル走・組別対抗リレー・障害物競走・にゆうくだりの上を走る役、全部私がやらされる!


 にゆうくだりってのは、背中渡りレースのこと。

 相模川の河口近くの部分をにゆうがわっていうから、地元色を出してそこからついてるんだね。

 馬跳びの姿勢でメンバーが並んで、その背中の上をひとりが走り抜けていって、上を通り過ぎられた人は先頭に回ってまた馬跳びの姿勢になって……というのを繰り返してゴールを目指す競技。


 しかも男女混合となったら、「足が速くてバランス感覚が良くて、体重が軽めの女子」が上を走るのがベストなわけで……。ぐぬう! 全部私に当てはまってる!

 しかも冒険者科は特に、上を走る人間の軽さと筋力がものを言ってくる。

 何故なら、普通科とのハンデとして、5キロの重りベストを着せられちゃうのだ。


 そのベストを着て練習をしたけども、歴代黒組のタイムとやっぱりあまり変わらないね。


「俺、思ったんだけど、今のやり方だと馬役がみっちり詰まってるだろ? もっと隙間空けても良くないか? 柚香だったら間が開いてても跳べるだろ」


 そんなことを言い出したのは、最近自転車通学をやめて毎朝走って登校するようになった蓮だ。

 なんか、蓮自身のモチベーションのアップと体育祭の熱気が噛み合っちゃったのか、最近やる気が凄い。


「跳べる、と思うけど」

「よーし、やってみるかー、八艘はつそう飛び」


 確かにそれなら、「前の人にぴったりくっついて並ばなきゃ」っていう馬役の焦りはなくて、「とにかく柳川が通り過ぎたら全力で前に行って、自分が先頭になったところで馬のポーズ!」でいいんだよね。


「ゆずっちに踏まれるご褒美が減るんですが」


 約一名そんなことを言ってる人がいますけども、無視ですね。


 結果として、このやり方は大幅なタイム短縮に繋がった。

 過去の映像で見る限り「馬役はいかにきっちり並んで、上を走る人間が落ちないように気を付けるか」がタイム短縮の鍵だったんだけど、それは普通科の考え方でしょ?


 私が上を走るんだよ。2メートルくらい開いてたって落ちずに渡れるわ!


「うーん、こんなに見た目が悪い馬入下りは初めて見たけど、速いんだよなあ」


 大泉先生も困惑してるけど、馬役の並びの美しさは要らない。

 ただ、私が通り抜けるために全力で前に進むことだけやってくれれば。


「柚香ありきの作戦だから来年の1年は使えない気がするけど、これなら勝てるんじゃないか?」


 10秒以上縮まったタイムを見ながら、蓮が目を輝かせている。

 勝つよ。勝たせるよ。黒組初優勝のために頑張ろう。



 学校が終わったら、聖弥くんは自転車、私と蓮は徒歩で家へ向かってルーティーンをこなす。

 で、夕食の後は恒例の鎌倉ダンジョンRTAなんだけども――。


「アクアフロウ! フロストスフィア! ハリケーン!」


 なんか、「アクアフロウ+ライトニング」に続く連携技を蓮が編み出している。

 潤沢なMPあってこその技で、普通の人がホイホイできるものじゃないけどね……。

 アクアフロウで出現させた水をすぐさま範囲系氷魔法のフロストスフィアで凍らせ、風魔法のハリケーンで氷を砕きつつ周囲にまき散らすというえげつない魔法運用だ。


 ママが最初これを聞いたとき、「クラスター爆弾ね……」って呆れてたっけ。あのママを呆れさせるとは。

 確かに、これやるときに蓮の制御がちょっとでも狂ったら、私たちの方にまで氷が飛んでくる。

 だから、大部屋に最初に踏み込むときだけにしてるんだけど。


「なんか出た!」


 下るスピード重視で10階までは最低限の戦闘しかしない、そう決めているのに、7層のここでどのモンスか分からないけどドロップをした。

 早速ヤマトが走って行って落ちている魔石をボリボリし始めるので、「ヤマトより先にどれだけ魔石拾えるかな競争」を私はし始める。

 その私の横を通って、聖弥くんが落ちているものをアプリで鑑定した。


「ミスリルダガー。STR+15、MAG+15でアンデッド特効だって」

「いいもの……だよな?」

「ミスリルだよ! 凄いよ蓮!」

「私たちには要らないけどね」


 前に【神々の果実・復活】を出した前例があるから、蓮はちょっとよさげなドロップ品は疑うようになってるみたいだね。

 とりあえずミスリルダガーは私のアイテムバッグに突っ込んで、10層を目指して再び走る。


 ヤマトが言うことを聞きやすくなったのもあるけど、蓮がこの威力がおかしい範囲魔法を編み出したおかげで、大部屋をショートカットに使えるようになったし、ヤマトが1体1体倒すより断然速いんだよね。


 私たちの鎌倉ダンジョン修行は、順調に進みつつある。


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