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第146話 蓮、運命に出会う

 鎌倉ダンジョンでは、襲撃犯をまんまと返り討ちにした後、事態について行けてない視聴者さんに改めて説明をした。


「元々鎌倉ダンジョンでダン配しようと思ってたんです。きっと蓮がめちゃくちゃ怖がって撮れ高いいだろうなと思って……」

「おまえ、俺のことをなんだと! なんだと!」

「怖がりの戦力過剰天然魔法使いだと思ってるけど何か?」


 真実を突きつけてやったら、蓮は「ぐぅ」と呻いて崩れ落ちた。


「でもね、雑談配信の時に、私がうっかり『肝試しを兼ねて』って言っちゃったじゃん? あれで一部の人は鎌倉ダンジョンだって特定できちゃって、しかも事前告知があるからいつもみたいな『時間だけ』じゃなくて『時間と場所』が特定されちゃって」

「僕やアイリちゃんは、ゆ~かちゃんの配信見てすぐに『まずいぞ』って気づいて」

「そうそう。いやー、神奈川の恐怖スポットって有名だもんねえ。私たちの活動範囲も大体目星付けられてるし、ダンジョンエンジニアのゲストも来るとなったら、もう襲撃チャンスでしかないんじゃない? って各方面から」

「だったら逆に今のうちに返り討ちしようと」


『中級になるとさすがにエンジニア必要になってくるからなあ』

『何故寧々ちゃんじゃないのかと思ったけど、寧々ちゃんは迎撃要員だったのか』

『寧々ちゃん、最近ウサギ飼い始めたんですって言ってたけど、アルミラージはウサギじゃねえ! モンスターだ!』


「あっ、はい。でも私の中ではマユちゃんは可愛くて強くて頼りになる、可愛い可愛いウサギなんです」


 5キロ超えのマユちゃんを抱っこして、にっこり笑う寧々ちゃん。

 うん、可愛いって3回言った。

 マスターは従魔に対してこうあるべきだよね!


 寧々ちゃんに抱っこされて、おとなしくマユちゃんも白いお手々を見せながら鼻をヒコヒコさせている。

 ツノがなければ、ただのでっかいウサギだよね。確かに。


『アルミラージも、テイムされてれば可愛いな』

『ツノウサが冒険者にならないテイマーに人気なのも分かる』

『でもツノが危ないよ』

『刺さると結構痛いんだぜ』


「ツノは、家にいるときはカバーを被せてます! 一緒に寝てるし」

「なるほどー! 寝返り打ったときに刺さったら危ないもんね」


 いいなあ、5キロの添い寝してくれるウサギ……。

 いやいやヤマトがいるんだし! サツキも添い寝してくれてるし!


「今のところ、ダンジョンエンジニアのサポーターはミレイ先輩と寧々ちゃんがいるんだけど、これから増えるかもしれない。このゼッケンベストだったら、大体の人が着られるし」

「実はこれねー、アポイタカラ製で補正バリバリについてるの」


『マジかw』

『誰がこのクソダサデザインをアポイタカラで作ると思うよ……』

『それは予想外だった』

『つまり、サポーターも死角なしってことか』

『これからは安心してみてられるねー』


 クソダサデザイン言われてますよ、先輩、寧々ちゃん……。

 まあ、ママも噛んでるし「まさかこれが激強防具だとは思わなかった」が正解の反応だよねえ。


「これから体育祭の準備で忙しくなるから、ダン配できるか分からないけどー。Y quartetをよろしくね!」


 目の横でピースしてまとめようとしてるのは先輩ですわ。

 待って? もしかして今のって「これから夏休みは全部体育祭の準備で潰れると思え」っていう予告!?


『何回見ても脳がバグる』

『ゆ~かがふたりいるのよな……』

『ミレイちゃんも推します! 可愛い!』


 一部の視聴者さんの困惑を引きずりながらも、鎌倉ダンジョンでの配信は幕を閉じた。



 そして翌日。


「行ってきまーす。あ、夕飯は適当に食べててね!」


 ウッキウキで外出するママ。持ってるのはいわゆる痛バッグで、推しくんの缶バッジが一面に付いている。

 更にダース単位のペンライトと、推しくんのキャラの名前をでっかく書いたうちわ。あとキャラ名の入ったタオル……。

 ペンライトはひとり6本までなんだけど、ママのこれは貸し出し用なんだよね。


 そう、今日は私とママでチケットを当てた、お刀ミュージカルの大型公演の日。

 私は行かないんだけど、ママと蓮と聖弥くん、それに蓮と聖弥くんの両親が行くのだ。


 世間一般の俳優のイメージって、テレビに出てる人なんだけど、こういうのもあるし人気なんだよっていうのを見せて、ふたりにもご両親にも勉強になるように……って言ってたけど、ぶっちゃけ単なる布教だと思うね!!


 夕飯はパパとピザパーティーをして、ご機嫌で帰ってきたママからはマシンガントークでいつものように感想を聞かされ、その最後に驚きの事実をついでのように言われた。


「聖弥くんのお父さんと蓮くんのお母さんがヤバいくらいハマっちゃって! 帰りに列が凄いことになってる物販に並んで、過去公演の円盤とCDとブロマイド買ってたわ」

「はい?」


 いや、確かにお刀ミュージカルの大型公演は凄いけど、親世代をそこまで一撃で墜とすんだ!?

 私はそれに驚いたけど、翌日学校に行ったらもっと驚きの事実が待っていた。


「俺……俺絶対ミュージカル俳優になる……お刀男士になる……」

「蓮、蓮しっかり。それにはもっとレッスン頑張らないとダメだよ」


 夢見る瞳で宙に視線を飛ばしている蓮と、真顔で蓮のほっぺたをピシピシしてる聖弥くん。

 聖弥くんは、ハマらなかったんだろうなあ。


「昨日の公演中も大興奮で、ペンライト振りまくってたんだけどね。……うん、確かに凄かったし生で見ると迫力もあって面白かったけど、僕が目指してるのとはなんか違うかなってのははっきりしたよ」

「うん、聖弥くんはそっち系じゃないとは薄々思ってた。でも、蓮がねえ……」

「本当に凄かったんだってば。うちのお父さんもハマってたし、蓮のお母さんなんか、恋する乙女の顔になってた。帰りの果穂さんとうちのお父さんと蓮のお母さんの怒濤の語り合い、柚香ちゃんに聞かせたかったよ……」


 そ、そんなに凄かったのか……。

 原作知らなくてもハマる人はハマるって知ってたけど。


 そして、その日から――。

 夢が定まった蓮の怒濤の特訓が始まったのだった……。


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