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第141話 撮れ高こそ配信者の望むもの!

 いろいろな準備を整えて、やってきました日曜日。

 私と蓮、聖弥くんの待ち合わせは藤沢駅。

 ただし、「改札の外で」と指定してある。


「おはよー」


 私が指定した通り、蓮と聖弥くんはちゃんと改札の外にいてくれた。

 これが蓮だけだったら危なかったけど、聖弥くんがいるからね。


 今日の目的地は鎌倉ダンジョン。

 バレたら蓮が逃げる。


 改札の中じゃなくて、ヤマトも連れずに外からやってきた私に、蓮が微妙に警戒姿勢を取っている。


「お、おはよう」

「ゆ~かちゃん、おはよう」


 既にカメラを回しているから、聖弥くんはゆ~か呼びだね。そして、蓮は何かを察している。


「え、なんだよ。なんでカメラ回ってんの?」

「ふっふっふ、今日の企画は既に始まっているのだよ」


 私が悪い顔で笑うと、聖弥くんが自分のポケットからアイマスクを取り出した。


「はい、蓮。これ着けてね」

「聖弥……お、おまえも仕込み側なのかよ!」


 んー、「信じてたのに!」ってショックそうな顔がいいですねえ。


「車で来てるから、これからダンジョンへは車で向かいます。蓮には目隠しをしてもらいます」

「嫌な予感しかしない! 嫌だ! 行きたくない」

「もう配信始まってるから」

「チクショー!!」


 うん、あれですね。世界各地に芸人が突然連れて行かれるタイプのバラエティのノリ。

 蓮は抵抗したけど、聖弥くんと私ふたり掛かりに勝てるはずもなく。アイマスクどころか手錠まではめられて、聖弥くんに手を引かれてうちの車まで案内された。


「ウォン」

「あっ、ヤマト!」


 蓮を見つけて喜んでるヤマトに、目隠ししててもあからさまに嬉しそうな蓮。

 まあこれくらいはご褒美ということで、蓮と聖弥くんは後部座席に座って貰って、ヤマトも後部座席に。

 手錠したままだけど、蓮の必死な「おいでおいで」に、ヤマトは素直に蓮の膝に乗った。


『ゲリラ配信にも程がある』

『チョロいぞ蓮』

『ノリが完全にバラエティーなんだよな』

『どこへ行くつもりなんだ。逃がさないという体制だぞ、これ』


 おお、本来の開始時間より大分前なのに、見てる人がいる。

 ダンジョンハウスに着いたところで、きっと蓮が大騒ぎするだろうから、一端そこでこの配信は終わらせるけどね。


 着替えとか、五十嵐先輩との合流とか、事前に知られない方がいいこととかがあるし。


「ヤマトー、俺の味方はおまえだけか-」


 手錠したままで器用にヤマトを抱き込みますね。

 ヤマトは朝のランニングを終えて、ご飯たっぷり食べた後だからちょっと眠そう。

 蓮の膝に乗ったまま、蓮の腕に顎を載っけてうとうとし始めた。


『うわー。暴走ドッグのレアな姿が!』

『可愛い』

『こうしてみてみると、本当に子柴がちょっと大きくなった位なのに』

『多分今の状況を一番見たがってる安永蓮が、目隠しのせいで見えないという無情よ』


 それね。蓮はぐねぐね身もだえしたいのを、ヤマトが腕に頭を乗せてるのが分かるから必死に堪えてるよ。


「可愛いなあ、可愛いなあ、ヤマト……ん?」

「どうしたの? 蓮」

「……向かってる方向、鎌倉だろ」

「よくわかったね!? マンガとか映画とかで、誘拐されてる人がどっちに曲がったとかで道を覚えておくのがあるけど、そういう奴?」

「いやまあ……そんなとこ」


 言葉を濁してるけど、多分それ半分、後は「何か」が変なセンサーに引っかかったのが半分くらいだろうなあ。


「行きたくないって言ってもさ、今更抵抗しても無駄なんだろ? 行き先、この感じだと鎌倉ダンジョンだろ!」

「そこは『やだー! 絶対行かない!』とか駄々をこねて欲しいところ!」

「ゆ~か、おまえ、俺に何を求めてるんだよ! 言うわけねえだろ!」


 くっ! ふたりだけの時は怯えて腰が引けてたくせに、カメラが向いてるのを知ってるから強がってる! これだからクール気取ってる奴は!


 ママはニヤニヤしながらそんなやりとりを聞いている。すっごい楽しそう。


 今日、私たちの装備を狙ってる人がいるならより条件を整えてやろうということで、直前に行き先を視聴者に対して確定させた。

 ぱっと見は、拉致される蓮の中継だけどね。


 その後も蓮はぼそぼそと文句言ってたけど、「そんな自分かっこ悪い」と気づいたのか黙ってしまった。

 これは……撮れ高が悪いね。

 仕方ないので、聖弥くんと合宿の時の話とかして繋いだけど。

 山登り大変だったよねー、とか。下山の時に蓮がこけたよねー、とか。


 しかし、ネタがネタだけに蓮がどんどん不機嫌になっていくなあ!


「もっと蓮に騒いで欲しかったのに! もうすぐ着いちゃうじゃん!」

「意地でも騒がない!」


 明らかな強がりに、とうとうママが吹いた。


 藤沢駅から大仏切り通しって意外に近いから、そろそろゲリラ配信は終わりだね。


「もうそろそろダンジョンに着くから、一旦終わりまーす。10時からちゃんと配信始めるからそっちも見てくださいねー」


 カメラに向かって私と聖弥くんは笑顔で手を振り、蓮は寝てしまったヤマトにぺたっとくっついている。


 そしてダンジョンに着いたんだけど。


「ん?」


 手錠と目隠しを外された蓮が、微妙に挙動不審だなあ。


「なんだここ……アンデッドダンジョンなんだよな……? その割に」


 眉をしかめながら、私から装備を受け取り更衣室へと入っていく。


 あれ? あんまり怖がってないな?

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