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第64話 パパご乱心! ママもご乱心!

 一度家に帰ってから、ジャージに着替えてアイテムバッグを持って、村雨丸を刀袋に入れて背負って、とどめにヤマトにリードだ!


「ママ~。ちょっと寧々ちゃんちまで走って行ってくるねー。村雨丸で補正付けてるからそんなに時間掛からないと思う!」

「夕飯までには帰ってくるのよー。あと、車を撥ねちゃダメよー」

「あっ、反射テープ手首に巻いていこう! 行ってきまーす!」

「ワオオウ!」

「よーしヤマト、寧々ちゃんちまで全力で行くぞー!」


 片道6キロくらいあるけど全力で走ればすぐだよね!

 そう思ってかっ飛ばしたら、うわっ、何これ! スピード出る出る! ヤマトが横ですっごい楽しそうに走ってる!

 えーと、これ、あれだ! 電動アシスト自転車で走った感じ! 自分が踏み込んだのと違う出力がされてる速さ!


 たーのしー! どうしよう、このランニング癖になりそう!!

 ランナーズハイ的なドーパミン巡ってるぅ~って感じする!


 時々笑いながら走っていたら、びっくりするほど早く寧々ちゃんちに着いてしまった。ちょっと息は切れてるけど、すぐ落ち着きそうなレベル。


 チャイムを押したら寧々ちゃんが出て来て、ヤマト連れて走ってきた私のスピードにめちゃくちゃ驚いてた。ねっ、凄いんですよ、VIT+80にAGI+70って!


 ヤマトが「遊んで遊んで!」ってびょんびょんするので寧々ちゃんがおっかなびっくり触ってて、その間に寧々ちゃんのお父さんが出て来たので改めて挨拶して防具クラフトのお願いをした。


 技術には正当な対価を払わないとダメだよと言った話が伝わってるのか、おじさんは凄く上機嫌でちゃちゃっと私の採寸をして足型もとって、蓮くんにも明日来るようにと伝言を貰った。


 お代は1パーツにつき150万円。武器クラフトに比べると高く感じるけど、これは紡績+織布代も込みになってるんだそうだ。

 つまり、私はトップス、ボトムス、スパッツ、靴で4パーツになって600万。蓮くんはトップスとボトムスと靴だけだから450万。それが2セット。


 おじさんほくほくしてたね! 2100万だもん、ほくほくもするよね!

 とりあえず、靴もあるしどのくらい必要になるかわからないので、アポイタカラは鉱石で2本置いておくことにした。型も取ったし私の服と靴は今日から作るそうな。


 寧々ちゃんにたっぷり遊んで貰ってご機嫌のヤマトと、眼鏡までベロンベロンに舐められた寧々ちゃんを見て、飼い主は平謝りですわ……。

 楽しかったから良いよとは言ってくれたけど……眼鏡は舐めたらダメだよね。


 その後はまた爆走して、一旦ダンジョンハウスへ。気がついちゃったことがあるんだよね。


「すみません、中級冒険者装備一式について相談があるんですが」

「かしこまりました。奥へどうぞ」


 例の符丁を告げると、アンドロイドっぽくも見える店員さんがこの前あいちゃんがクラフトをした部屋に通してくれる。

 そこで私は手元に残ってる9本のアポイタカラ鉱石のうち7本を出して、店員さんにお願いをした。


「この鉱石をインゴットにしてください」

「12.5キロのラージバー、1キロのキロバー、500グラムのグラムバーをお選び頂けます。手数料は1本につき1000円で、大きさによる違いはありません」


 アポイタカラ出して見せても驚かないもんね、ここの店員さん。

 変換ロスとかも相談させてもらい、鉱石から純金属のインゴットへの変換率は75%だと教えて貰った。買い取りの時もそれが基準になっていたこともここで教えて貰った。これ、これが私が気になってたこと!


 買い取りの時は……数字直視しないようにしてたもんね……。控えは部屋にあるから、今確認すればわかるんだけど。


 悩んだ結果、ラージバーを3本、グラムバーを6本、残りは12本のキロバーにして貰うことにした。手数料は21000円。電子マネーでチャリンとお支払い。


 店員さんは一度アイテムバッグにアポイタカラ鉱石を入れて隣の部屋へ行き、すぐに戻ってきてテーブルの上にインゴットを並べてくれた。

 すっごいな……。これ、やっぱりクラフト系なのかなあ。それにしては汗も掻いてないし、あまりに早いんだけど。


 不思議だけど、ダンジョンハウスには謎が多すぎて、深く考えない方が身のためらしい。私も謎は謎のままにしておいて、インゴットをアイテムバッグに入れ、お礼を言って部屋から出た。


 次はあいちゃんち。ここでも手首と中指のサイズ測られて、念のために1キロのインゴットを置いていく。


「柚香ちゃん、お夕飯は?」

「これから家で食べます! 遅くなっちゃったから早く帰らないとー!」


 あいちゃんママが夕飯一緒にどうって誘ってくれたけど、ヤマトもいるし早く帰らなきゃ!


 そして、全力で走ると本当にすぐ側の我が家に着き、「たくさん走った! 満足!」ってお目々をきらきらさせてるヤマトの足と体を拭いて、私も手洗いうがいをしてダイニングへ。


 既にパパが帰ってきていて、後は私待ちだったみたい。

 私が自分の席に座ると、パパがいきなりとんでもないことを言い出した。


「パパ、会社を辞めようと思う。辞表も出してきた」

「えっ!?」


 夕食の場でのパパの爆弾発言に、いただきますを言おうとして手を合わせたまま私は固まった。


「自家用ヘリを買おうって話をしただろう? 免許を取るのに最低70時間くらいは飛行実績が必要だし、教官も必要だからスクールに行こうと思ってるんだ。

 会社に行きながらだとなかなか厳しいから、思い切って辞めることにしたよ」

「え、え、え、え、うちの生活費とかは?」

「あんたが心配することじゃないわよ。パパだって勝算がなくて言ってることじゃないわ。スクール費用は……ユズが出せばいいんだし」


 今、ママがスマホでスクール費用検索して私に押しつけてきた!

 確かに私は大金持ちですが、娘のお金で親がスクールに行くって構図はどうなの? モラル的に!


「ユズ、今日防具頼んだんでしょ? いつ上がるんだっけ?」

「えー? ちょっと今私の頭それどころじゃないっていうか……寧々ちゃんに訊いてみるね」


 ご飯を前にしたまま寧々ちゃんにスケジュールを尋ねると、「伯父さんが張り切って早速紡績始めてるから、木曜日にはできそうだよ」とすぐに返事が返ってきた。


「木曜日にはできそうだって。あ、明日蓮くんに採寸行くよう伝えなきゃ」

「なるほど……土日でMV撮るわよ、せっかくなんだからひとつくらいアイドルユニットらしい活動しないと! 前にも言ったでしょ?」

「ええっ、土日で!? 急すぎじゃない?」

「大丈夫! SE-RENのMV見てみたけど、曲も振りも難しくないからユズなら楽勝。問題は蓮くんの方よ。明日走って法月さんのところ行って採寸したら、そのまま走ってうちまで来いって伝えておいて」


 うわー、ママまでご乱心だー!!

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