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第63話 愛莉と寧々のターン

「まず、必要事項全部出して! やり直すから!」

「手裏剣太ももに付けます! 素手戦闘するので手甲欲しいです! 装飾過多はノーサンキュー。シンプルかつ動きやすい物を求めます! 足はごっついブーツがいい! 安全靴みたいな奴」

「柚香ちゃんはそれでいいかもしれないけど、安永蓮くんは?」

「柚香の意見オンリーで作って平気なの?」


 あうう……それを言われると痛いなあ。


「SE-REN(仮)で仮にもアイドル活動するんでしょ? デザインが直接防御力とかには関係ないんだから、ある程度見栄えも重要じゃない? 特に蓮くん! 特に蓮くん!」


 あいちゃんが、蓮くんを人質に取ってきた……。

 確かにねえ、蓮くんの方は今後のことも考えて、映える衣装は大事だよねえ。


「ぐう……ええと、蓮くんのはえーと、これだ。ブルーローブ。全然ローブじゃないけど、こういう奴。丈長目でよろしく。後は私と並んだときに違和感が出なければいいよ」


 私の配信のアーカイブから、蓮くんと初めて遭遇したときのシーンを引っ張り出す。

 わざわざ4万円も出してこれ買ったんだから、彼はきっとこういうのが好みなんだろうよ。


「ゆーちゃんはやっぱり黄色のイメージがあるよね。上はハイネックにして、ヤマトのおやつが入れられるようにポケットも付けて……下はオレンジ色のキュロットと黒スパッツかな。動きやすさを考えたらそれだと思うけど。柄はどうしようか」

「キュロットの裾に犬猫シルエットたくさん!」

「ダサ……せめてトップスの左下の方にヤマトシルエットひとつにしよ?」

「キュ~ン……」

「犬みたいに鳴いて見上げても却下。蓮くんのはやっぱり上がビビッドな青で下がインディゴ、デザインは上はお揃いの方がユニット感あっていいね」


 今まで使っていなかったスケッチブックの裏面を使って、あいちゃんが形の見本をざざっと描く。凄いなー、何も見ないで描くんだね。


「あっ、これがいいー、ちょっと空いてるタートルネック」

「オフタートルね。袖は長くして……体にフィットする方がいいんだよね、トレーニングウェアみたいに」

「うん。私はね。蓮くんは知らんけど」

「あんまり肉体派でもないだろうから、そっちはデザイン重視で行くか……法月さん、伝説金属の布の伸縮性ってどうなの?」

「一旦糸になるから、完全に布と同じで織り方次第だよ。スポーツメーカーさんとかから発注が来るときは、速乾と吸汗機能が付いたニットの事が多いみたい」

「法月紡績すごっ! 伝説金属で速乾吸汗機能って。ニットだったら伸縮性もあるもんねえ。じゃあ完全に普通の布と思ってデザインしていいのか」


 ほへー、寧々ちゃん、家業のことよく知ってるなあ。それにしても……。


「あいちゃん、今までのデザインはそういうことノーカンでやってたの?」

「趣味と実益を兼ねてって言ったでしょ。半分趣味だよ」

「わあ、わかりやすーい。足元はごついブーツにしよ! それもアポイタカラで作れる?」

「作れるよ。そっちは直にクラフトだから、それを先に作って、余りを繊維にして服を作るのがいいと思う」


 あいちゃんがガリガリとデザインを描き、寧々ちゃんがクラフトについて説明し、かれんちゃんはジュース飲みながらスマホでゲームしてる。

 平和だな! かれんちゃんが物申さないとどうにもならない事態にあんまりならなくて良かった。


「柚香はニーハイブーツで3分丈スパッツもアリだと思う。絶対可愛い」


 と思ってたら、ゲームはしてるけどデザインのことも考えてるんだね。


「前衛なのにニーハイブーツ? ちょっと動きにくそうなんだけど」

「まず根本的にさー、テイマーが前衛なのおかしくない?」

「そう言われても、私のステータスがそうなんだもん。逆に、蓮くんを絶対前に出せないじゃん。あ、あいちゃん、そこでデザイン終わりにしないで! 両手に手甲付けたいんだってば! 盾代わりと素手戦闘になった時のために」

「手甲……この服に手甲を付けろと申すかよ」


 Fixedってあいちゃんがデザインの上に描いたので、既に忘れられてる手甲の件をもう一回言わないといけなかったんだけど、あいちゃんの顔の治安が悪くなっていく……。

 手甲手甲と唸りながらあいちゃんが頭を抱えてしまった。しかめっ面のままでスマホ取り出して何か調べてる。


「こういう、フィンガーブレスじゃダメ? これだったらかろうじて許す。戦う時だけ付ければいいし。ていうか、ゆーちゃん基本足技の人じゃなかった?」

「まあね、キック力はパンチ力の3倍って言うし。……へー、何これ、面白いね。ブレスレットが中指のリングまで繋がってるの? 攻撃力高そうー」

「柚香ちゃん……攻撃力に換算しちゃダメな奴だよ、これ。おしゃれアイテムだよ?」

「これ一応アクセなんだけど、アポイタカラで作ったら間違いなく攻守こなせるものになっちゃうね。アクセクラフトの人に頼んで作って貰おう、パパの知り合いにいるからさ。肘から手首の部分は防具の強度的にこのままで行ける気もするけど。

 ……まず思い出すのは、中2のキャンプの時、ゆーちゃんが蹴りで薪を細かくしてた衝撃映像なんだけどさ……」

「あー、あったあった」


 おっとぉ! 私の失敗談をあいちゃんが語り出してかれんちゃんが相槌打ってる! そして寧々ちゃんは凄い驚いちゃってるじゃん! 語弊があるのに!


「柚香ちゃん、薪をキックで割れるの!?」

「割れないよ! 今のはあいちゃんの言い方が悪いよ。各班に炊飯用に配られた薪があったんだけど、ちょと大きすぎるのがあったから、炊事場の柱に立てかけてバキッと蹴って割っただけだよ! ちょっと加減間違えて木っ端微塵にしただけじゃん!」


 説明したら、「あーーーー」と寧々ちゃんが顔を覆ってしまった。

 かれんちゃんとあいちゃんが何故か寧々ちゃんの肩をポンポン叩いて、「よく来たな」とか「非常識をなんとも思わなくなる会へようこそ」とか言ってる!


「じゃあ、強化するべきは靴で」

「うん、靴ね。アポイタカラだから強度は十分出ると思う。ごっついブーツ、正解だと思うようになってきた」

「爪先で蹴り入れるだけで相当ダメージ入りそう」


 そして、あいちゃんと寧々ちゃんがうなずき合って通じ合ってる。


「こんなんどう?」


 あいりちゃんが描き上げたデザインは、肩の部分にVの字に差し色が入って、あとはシンプルに一色のトップスと、ちょっとひらひらのミニスカート、そして私は膝丈スパッツにハーフ丈の注文通りなごっついブーツ。トップスの裾の方に、尻尾がクルンと巻いた柴犬シルエット。もうこれだけで可愛いね!


 蓮くんのはVの字の差し色とか基本的なところは一緒で、トップスの丈がチュニックみたいに長くて、ウエスト部分に細いベルトが2本付いてた。こういう無駄にかっこいいけど用途がわからないパーツ、あの人好きだよ。多分。

 ボトムスはすとんとしたストレートパンツに、靴はお揃いになってるね。

 うんうん、かっこいいじゃん。蓮くんの意見は聞いてないけど、まあ大丈夫でしょう!


「スカートはスカートっぽく見せてキュロットでも良いし、どうせ中にスパッツ穿くからスカートでも良いしね。これを、それぞれ2色作ろう」

「えっ? 予定外なんですが!?」

「何言ってんの? 初心者の服だって洗い替え用持ってるでしょ? プレートアーマーとかじゃないんだから、布なんだから汚れるし、洗濯もするでしょ」


 うわー、真顔のあいちゃんに正論言われると圧が凄いなー。


「うん、そこは『金属並みの耐久性と防御力はあるけど布』だから、汚れたら丸洗い出来るっていうのが伝説金属紡績の強みでもあるんだ」


 当然のように寧々ちゃんも追い打ちコンボを入れてくる。……そうか、布か、布だもんね……。しかも速乾吸汗だよ。

 プレートアーマーに水ぶっかけて丸洗いもロマンがあるけど、アポイタカラ製の服を洗濯機で洗えるんだ……技術って凄いなあ。


 結局、デザインはほとんど同じで、私は上が黄色で下がオレンジのキュロットのバージョンと、上がピンクで下がローズピンクのミニスカのバージョンの2通り。

 蓮くんは上が青で下がインディゴと、上が黒で下がカーキの2通り。それぞれ差し色はボトムスの色。

 ……うん、すっごくスポーツメーカーの服っぽいデザインになってるね。あいちゃん、こういうデザインもできるんだなあ。


「頭防具どうする? 今後は必要じゃない?」

「あっ、あれがいい! インカム型頭部防具! 有名ダン配者とかが使ってる奴!」


 オリハルコンと別の伝説金属の合金で作るらしいんだけど、小規模だけど反発エネルギーがあるらしい。頭部に来た攻撃を跳ね返すことができるんだって。

 ただし、受注生産でとってもお高い。今の私には関係ないけどね!


「それなら……まあいいか……鉢金とか言われなくて良かった」


 あいちゃんがブツブツ言ってますが、さすがにそれはないね……。

 改めてFixedに赤ペンで丸を付けられたデザインを写真に撮って蓮くんに送信。


『俺がいないところで防具デザインが決まってる……だと?』


 なんか不平不満を持ってそうだけど、しばらくしてから『かっこいいからこれで』って返ってきた。

 思った通りだ。ちょろい!

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