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第61話 愛莉のターン!

 放課後はあいちゃんと寧々ちゃんというクラフト組だけだとどういう暴走をするかわからないので、常識枠としてかれんちゃんにも一緒に来て貰った。


 学校の最寄りのファミレスでドリンクバーを頼んで、オレンジジュースとコーラをミックスだ! 後はメロンソーダふたつ。一気にコップ3つ持ってくるのをみんながやるもんだから、テーブルの上はドリンクだらけ。


「スケブ開く場所がないの、なぁぜなぁぜ?」


 最後にひとりだけホットのハーブティーを持って戻ってきたあいちゃんが、9個のコップが並んだテーブルを見て半目になってる。

 アッ、ハイ……。私と寧々ちゃんは圧に負けてドリンクを一個飲み干して、ふたつのコップを重ねた。でもかれんちゃんは平常運行。端っこにコップ寄せただけ。


「それではー、ゆーちゃんの衣装会議を行いまーす。ゆーちゃんは私のデザインでも良いんだよね?」

「動きにくくなければいいよ。あいちゃんのセンスは信じてるし」

「なお、先に言っておくけど私の趣味と実益を兼ねてデザインは作ったので、もしこれを採用されてもデザイン料とかは取りません。その代わり、お披露目配信で宣伝はして貰うということでおけ?」

「お安いもんよー。採用さ・れ・れ・ば・ね!?」


 あいちゃんと私が向かい合ってバチバチと火花を散らすもんで、寧々ちゃんがあたふたしてるね。かれんちゃんにとっては見慣れた光景だからのんびりジュース飲んでる。


「じゃあ自信作から見せていくね。まずはこれ!」


 あいちゃんがスケッチブックめくって出したページをテーブルの上にどーんと置く。

 これは……軍服モチーフかな。

 黒くてかっちりした上着は肩に金モールついてるし、ネクタイピンクだし、スカートはプリーツスカートでボックスタイプのひだから見える部分がピンク色だ。それに膝下ギリギリの編み上げロングブーツ。それと、肩からピンク色の謎布が下がってる。これは何なの?


「無しで」

「説明くらいさせてよ!」


 即却下したらあいちゃんが手を伸ばしてきて頭ぺちって叩かれた。


「このデザインのコンセプトは『凜々しくて可愛いゆーちゃん』ね。肩とか見ればわかると思うけど、かっちりしたデザインは軍服をイメージ。

 はい、想像してください。スカートの中は1分丈スパッツ穿くとしても、これでポニテで刀を振るうゆーちゃんを!」

「かっこいい……! if戦記のお姫様みたい。私こういうデザイン大好き」


 寧々ちゃん、目を潤ませて感動してるよ! そんなにツボったの? 私こんな肩周りが動きにくそうな服嫌なんだけど。おしなべて制服系って肩周りに難があるよね。

 というか、密かに寧々ちゃんもオタクだな? 制服系に日本刀持たせるのが好みなんだね?


「だよねだよね!? ゆーちゃん、そもそもヤマトがいなくても結構強いし、蓮くんを守ってるイメージがあるから、軍人とか騎士みたいな衣装がいいなって思って!」

「うんうん、柚香ちゃんそんなに背が高いわけじゃないのに、可愛いとかっこいいが同居してるからこんなの着たらファンが増えちゃいそう!」

「かれんちゃん、常識枠として一言どうぞ」

「ん、確かに絵面はかっこいいと思うけど、この金モールはどのくらいの柔らかさ? 肩周りの動きが制限されそうで私なら却下」


 言ってくれると思ってたー! 私が言うとあんまり説得力がないんだけど、客観的な立場のかれんちゃんが言うと効果が倍だよ。


「ぐう、肩周り……確かに布クラフトでも固くなりそう」

「そもそも、軍服モチーフって言ってもこれあからさまに一兵卒じゃなくて将校モデルじゃない? 実用性に劣る」

「さすがかれんちゃん! そこに痺れる憧れるぅ~! てか、私がこれだった場合、蓮くんはどうなるの?」

「それはねー、これ」


 あいちゃんがページをめくって出したのは、詰襟の軍服っぽい服の上にロングコートを合わせたデザインだった。ご丁寧に黒い手袋まで描いてあるよ。確かにただの詰襟よりは魔法使いっぽくはあるけど。


「暑そう……ダンジョンは年中気温変わらないっていうけど、これはさすがに暑そう」

「それなー」


 ずずずっとコップを空にしてかれんちゃんも頷く。


「蓮くんなら、格好良さを取って暑さくらい我慢してくれそうじゃない?」


 あいちゃんが食い下がるなー。そして割と的確に蓮くんの性格を見抜いてるなー。


「あー、そうだね、それはねー。かっこつけだもんね。クール気取ってるしこういう手袋とか喜びそうー。

 だ・け・ど、私的にはもっとカジュアルなのがいい。あ、この衣装どっかで見たことある気がしてたけど、ハガレンのロイのをちょっと弄っただけじゃない!? 蓮くん炎出さないよ、武器が氷属性だよ!」

「ちっ、バレたか。蓮くんの武器氷属性なの? それ初耳なんだけど。属性付くってレアじゃなかったっけ」

「滅多に付かないらしいよね」

「魔法使い系で氷属性武器かー。めんどくさいねー」

「ホントに……めんどくさい奴なんだよね……」


 初級魔法で取れる魔法がファイアーボールなのに、氷属性だと炎の攻撃力下げちゃうんだよね。

 物理武器として氷属性付いてるなら、クリティカルヒットの確率で相手を凍らせたりするのでかなり良いんだけど。――最悪、あのロータスロッドで物理攻撃させるかな! 殴ったら痛そうな形状だし!


「そういえば、デザインも大事なんだけど、全部アポイタカラで作る?

 安永蓮くんのは物理防御が欲しいから、アポイタカラでいいと思う。金属用意しなくて済むし。

 でも柚香ちゃんのはRSTを補うためにミスリルがいいんじゃない?」


 そっと挙手して寧々ちゃんが言うので、私はミスリルの補正を調べてみた。ミスリルは割とメジャーに出回ってるんだけど、総ミスリルっていうのはまず見ない。コスト高すぎて。


「武器クラフトしてもらった時は、同じアポイタカラ使っても私と蓮くんの武器は補正が違ったんだよね。総補正値は一緒なんだけど割り振りが全然違って。伝説鉱石を布にするって、その辺はどうなるの?」

「金属によって違うんだけど、ミスリルはMAGとRSTに修正が寄ってて、オリハルコンはAGIとDEXに寄ってて、ヒヒイロカネは満遍なく修正付く……はずだけど。日本であんまり出回らないけど、アダマンタイトだとVITに凄く補正入るって。

 布にしちゃうとね、個々の持ち主に寄せるんじゃなくて、性質が均一化されるみたいなの。もう布にした時点で補正が決定してるよ。

 鉱石とかインゴットから直にクラフトすると、持ち主に合わせてくれることがあるみたいだけど、布製品にはならないから重さとかが難点だよね」


 伝説金属紡績の話は珍しいから、寧々ちゃんの説明を3人で「へー」と聞く。

 悩ましいなあ。

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