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第59話 学校に行ったらたかられた

「ゆーちゃーん、武器おめでとー。次は防具だよね。デザイン描いてきたから見て」


 月曜日の朝一番の教室、話が早い人が約一名。てか、あいちゃんが私より早く学校来てるの珍しい!


「あいちゃん、フライングでは? 私まだ何も頼んでないんだけど」

「ゆーちゃんの防具は法月さんちに頼むんでしょ? お父さんがデザイン出来ないからデザイン画は必要って言ってたじゃん。

 だから私はあれからずっとゆーちゃんと蓮くんの衣装をデザインしてました!」


 あいちゃんは私の前の席の椅子に勝手に座って、スケッチブックを広げてきた。

 早い早い。しかも「防具」じゃなくて「衣装」って言ったよ。

 でも、確かに寧々ちゃんのお父さんに頼むならデザイン画は必要なんだけどね。


「ここからここまでがゆーちゃんのでー、ここから……」

「ちょっと待ったー! あいちゃんどんだけ描いたの!? まさかこのスケッチブック一冊丸々私たちの防具デザインなの!?」

「そうですがなにか?」


 自慢にしてる長い脚を組んで、圧を掛けてくるのはやめていただきたい。


「おはようー」

「おはよう」


 うちのクラスはみんな教室に朝入ってくるときに挨拶をする。礼儀正しくていいと思う。その中で他人の席にどっかり座って脚組んでる人もいますけれど。


「おはよう……って、平原ー、そこどいて~」

「やだー、ちょっと貸してて。私の席座ってていいから」

「机に鞄の中身入れさせろ」

「机前にずらして」


 登校してきた前の席の住人・宇野くんが抗議してるけどあいちゃんは不動の構え。強いんだよねー。「可愛いのにモテない」って言われる理由これだよ。


「おはようー。どうしたの? 人口密度高いね」

「おはよう寧々ちゃん。あいちゃんが宇野くんの席を不法占拠しててね」

「平原がどいてくれない……」

「ちょっと貸してって言ったじゃん。今ゆーちゃんに話があるの。あっ! 法月さんいいところに来た! これ見て! ゆーちゃんと蓮くんの衣装デザインしてきたの!」

「えっ、これ全部?」


 ホラ、スケッチブック見せられて寧々ちゃんまで動揺してるじゃん……。


「すご……凄いね! 後で全部じっくり見せてくれる? うちのお父さんデザインセンスないから、私もいろいろ勉強はしてるんだけど同い年の人が描いてると思うと参考になるよ」


 あ、違った! 動揺してるんじゃなくて感動してるのか、これ!


「うんうん、もちろんー。じゃあ学校終わったらさ、ファミレスでちょっと会議しない?」

「私は大丈夫。わあ、楽しみー。そうだ、柚香ちゃん、防具クラフトのことをお父さんと伯父さんに相談したの。

 普通はこういう仕事は金属の仕入れが大変なんだけどね、現物の鉱石持ってて私のクラスメイトだって言ったら、知り合い価格でちょっと値引いてくれるって。なんか先走って聞いちゃっててごめんね」


 何故か謝る寧々ちゃん。いや、ごめんねもなにも! 寧々ちゃんのお父さんに頼むつもりだったし、こちらこそありがとうございますと頭を下げたいところだよ。


「ありがとうございます! でもね、ダメだよ寧々ちゃん!」


 机に頭ぶつけるくらいの勢いで頭を下げたけど、私は寧々ちゃんにひとつダメ出しをしないといけなかった。

 ダメだよって言われて、寧々ちゃんは勝手に頼んでくれたことについてかと思ったのか、ちょっとビクッとしてる。ごめん、それじゃないんだ。


「防具を作って貰えるのはすっごいありがたいんだけど、そこはちゃんと定価で取って!

 むしろ知り合い料金設定は割り増ししてもいいよ。知り合いであることと、技術に対して正当な対価を払うことは別!」


 大変な検索してクラフトマンを探したり、順番待ちとかしないで防具作って貰えるなら、そりゃもうありがたい限りですよ。割り増し料金払ってもいいくらいだもん。


 金沢さんの場合はママのオタ友繋がりですぐ見つかったけど、クラフトマンはHPホームページに価格載せてない人が結構多くて、選び方がよくわからないんだよね。その点、知人の紹介ってぼったくりがやりにくいらしくてとても安全。


 私の言葉で寧々ちゃんははっとしたように口を押さえてる。サービス=割引って思っちゃったんだよね。わかりやすいから。でも「知り合い特典」だったら、逆にそのサービスは他のお客さんにしてあげて、って思う。


「あいちゃんのクラフト目の前で見たり、武器作りに行ったとき話聞いたりしてクラフトマン凄い大変だって思ったし、大変さを乗り越えてその技術を習得した人は本当に尊敬するもん。

 それに私アポイタカラ大量ゲットのせいでお金には困ってないから!」


 私はもうちょっとでクラフトスキル取れるDEXに到達するんだけど、クラフトを取るつもりはない。片手間にちょいちょいするのは、真剣にその道選んでる人に失礼かなって気がするから。

 いや、面倒だからってわけじゃないよ。うん。


 寧々ちゃんは私に言われたことで目を大きくして、それから凄く嬉しそうに笑顔になった。


「あ、そ、そうか、そうだよね。技術に対する正当な対価かぁ。なんか、技術を尊敬してくれる人って嬉しいな。『このくらいちゃちゃっとできるでしょ』って言う人とか結構多くて」

「クラフトの現場見たらそんなこと言えないよー。LV30の人だって、大汗かいて大変そうだったもん!

 寧々ちゃんも土日でクラフトしたんでしょ? ブートキャンプとは違う大変さじゃない? あれって」

「うん、大変だった。だからお父さん凄いなって思うし、もっとクラフトのお仕事来たらいいなって……今、ほとんどダンジョンでファイターばっかりやってるみたいだし」

「大金持ちの柳川~、牛乳おごって~」

「柚香様ー、億万長者様ー。牛乳のお恵みを~」

「なんで君ら割り込んでくるの!! もー、今日だけだよ!」


 何故か話の流れでクラスメイト全員のプロテイン作るための牛乳を奢ることに……。言っても3000円ちょっとだし、確かに私お金あるからいいけどさ……。


 今回だけ、今回だけだからね! 甘やかすのよくない!

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