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第57話 大興奮してるマニアがいるって怖い

「ただいま~、夕飯はお弁当買ってきたから-。ユズ、武器出来たんでしょ? 見せて!」


 夕方帰宅したママの第一声がこれでございますよ。まあ、私も早く見せたくて仕方なかったけどね。

 だって、我が家で刀マニアなのはママなんだもん。これ見たら絶対大興奮だよ。


「そう言うと思って、テーブルの上に置いておきました!」

「おっ、おおおおおおお! えっ、日本刀なの? 太刀じゃない! 触っていい? 抜いていい?」

「自分の物にする以外はどうぞどうぞ」

「やったー! うん、この重み、いいわねー。おお……身幅広い、ママの好きな感じ。って、ちょっと待って、これってユズの好きな岡田切吉房じゃない? そんなことってあるの?」


 さすがママ、一目で岡田切ってわかったかー。


「ねー、びっくりだよ! でもこれは鑑定すると【村雨丸】なんだ」

「ああ、八犬伝のね! でもどう見ても岡田切」

「作って貰う側が強いイメージを持ってると、それに伝説金属が寄せてくれることがあるんだって」


 私が小ネタ的に言ったことに、ママが超反応を見せた! 村雨丸をテーブルの上に戻して、いきなり肩を掴まれて真顔で詰め寄られる。コブダイの喧嘩レベルの近さ!


「そんなことあるの!? ちょっとユズ、ママにも刀作らせてよ! 磨り上げ前の圧切長谷部とおおかねみつを、こうドーンと飾りたいのよ!」

「えええ……数百万かけてそれをやるの?」

「何言ってんの? 圧切長谷部は国宝よ? 何億出したって手に入らないわよ?」

「た、確かに言われてみれば……でも冒険者じゃないママには無駄って言うか……あ、じゃあさ、お披露目配信の時に視聴者さんに日本刀の説明するコーナー作ってあげるよ!」

「する! だから圧切長谷部作って!」

「磨り上げ前って大太刀でしょ? こしらえコミで何キロあるの?」

「うーん、大太刀だし3キロくらいじゃないかな。一般人に扱えないっていうろうが刀身2メートル超えで4.5キロだから」

「アポイタカラ換算でおいくら万円?」

「…………チッ」


 ママはやさぐれた顔で私の肩を放した。なんでも娘の懐を頼るの、良くない!


「その村雨丸、ヒヒイロカネと同等だったらステータス補正凄いんじゃないの? でも補正を当てにしちゃダメよ。よくゲームでも途中加入の低レベルキャラに強武器持たせてレベリングして、別のキャラに装備変えたの忘れてていきなり弱々になっててやられたりってことがあるんだから」

「そーれーはー……そうですね。多分学校のダンジョン実習とかに持って行けないもんね。地道にステ上げしなきゃ」


 LV10になるまで実戦で村雨丸を使うのはお預けかー。

 でも、MAG上げ訓練のために毎日使うけどもね。



 そして次の日夜8時、新武器お披露目配信の時間がやってきた。今回はママが途中で入ってくるからリビングだ。

 カメラには最初映らない場所に村雨丸を置いて、と。スタンバイOK!


「こんばんワンコー! ゆ~かの新武器お披露目配信、はっじまっるよー!」


『こんばんワンコー』

『待ってましたー』

『こんばんワンコー』

『ゆ~かちゃん、こんばんは』

『昨日は東海道線で失礼してごめんなさい!』


 んっ? コメントの中に東海道線の文字発見。


「東海道線って、もしかして昨日のお姉さん? 本当に来てくれたの嬉しー! ありがとー!」


 笑顔でめちゃくちゃ手を振ったら、「くぁwせdrftgyふじこlp」みたいな文字列が怒濤の如く流れていった。

 もしかして、テンパらせてしまったかな。


「はい、今日は予告通り鎌倉在住クラフトマンの金沢さんに作って貰った武器のお披露目です!

 私は武器が決まってなかったんだけど、金沢さんがアポイタカラに何になりたいか訊くという凄いことをして、私に合う武器を作ってくれました。金沢さんのHPは概要欄にリンク張ってありますので、武器クラフトをお考えの方はよろしくお願いしまーす。さて!」


 私は足下に置いてあったスケッチブックを手に取った。カメラには文字書いてある面を見せないようにして持って、「んふふ」と笑う。


「アポイタカラ製の武器ですが、先にこっちから見せちゃうね、能力補正凄いの。これです。じゃーん!」


ゆ~か LV6

HP 55/55(+180)

MP 6/6(+50)

STR 14(+100)

VIT 20(+80)

MAG 4(+30)

RST 5(+30)

DEX 17(+90)

AGI 21(+70)


『なんこr』

『STR+100』

『DEXが100超えるのか……やべえな』

『クラフトマン並のDEX』

『補正凄い!』

『LV6なのに実質LV50のファイター並みのステータスになる!』

『アポタカ凄いな』

『MP+50も凄い』


 怒濤のコメント! 拾いきれない! とりあえずみんな驚いてくれてるのはわかりました。というところでスケッチブック下ろして、今度は村雨丸を持つ。


「こちらが、私の武器【村雨丸】です! 日本刀です! 太刀です! しかもね、抜くと私の大好きな岡田切吉房っていう国宝の太刀にそっくりなんです。見て見て!!」


 すらりと鞘から刀身を抜いてみせる。カメラ越しだとどのくらい見えるかわからないけど、引いて全体を映して、近づけて傾きを変えて刃文が見えやすいようにしたり、いろいろ見せ方を工夫してみる。


『わー、綺麗!』

『日本刀か!』

『うおおおおおおおおお』

『テイマーなのに近接なのか』

『岡田切!』

『里見八犬伝の村雨丸!!』


「そうそう、里見八犬伝の村雨丸なんです! 魔力を通すと露が出て、更に魔力を流し込むと刀身から水が流れるという。

 ちなみに私は露も出せませんでした! これからMAG特訓に使おうと思ってます!

 あ、あと蓮くんがこれを持って魔力流したらびゅーって水噴き出して、金沢さんが爆笑してた……」


『やさぐれるなよJK』

『目、目がやばいから』

『ゆ~かも頑張って練習するんだ』

『そんなに勢いよく水が出るんだ……』


 今日のコメント欄は比較的やさしめかな……。村雨丸の能力について私が何も出来なかったことに関して励ますみたいなコメが多い。


「ところで、これ見てくれてる人はどのくらい日本刀詳しいですか? 刀についての解説聞きたい人ー」


『はーい』

『ノ』

『ノ』

『聞きたい!』


「それでは、今日は刀に詳しいゲストをお招きしておりまーす。サンバ仮面さんどうぞ~」

「こんばんはー。ゆ~かの母です。みなさん、いつもご贔屓にしていただいてありがとうございます。これからも娘を見守っていただけると嬉しいです」


 私の一言で、キッチン側で待機してたママがサンバ仮面付けて入ってくる。毎度思うんだけど、この絵面どうなの。


『噂の!』

『サンバ仮面だ!』

『ゆ~かちゃんのママ!?』

『サンバ……』


 落ち着き目の普通の服装にそぐわないサンバ仮面を付けて、当たり前のようにお辞儀をして見せたママにコメント欄は騒然としていた。

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